11話【対極の対面】
「うっるさいなぁ…」
崩れた壁、汚い床、洗面所は蛇口が壊れ、途中から水が出ている。その外側からはガヤガヤと男共の喧しい声が聞こえてくる。
「落ち着いてトイレもできないじゃないか…」
ギィ…ギュゥゥゥ…!と音を響かせ、女子トイレの最奥の扉がゆっくりと開かれる。
壊れた蛇口で軽く手を洗い、クリーム色のハンカチで手を洗うと女子トイレから出て目の前の扉を躊躇なく開けた。
「駄目です…!ここにゃいません!」
「そんな訳あるか!ここの扉がひら…」
ディアベルの信者は血眼にして部屋を荒している。
先程見つけた【ティーク】を見つけるためだ。
そんな中、不意に男達の背後の扉が音を立てて開かれた。
ギィィィ…。
全ての瞳はその扉、一点に集められた。
「さっきから…うるさいよ?君達ぃ…!」
「あ?おま…」
ドッ!
「…えぼぉ!?」
目に見えぬ早業。
目を閉じることも無かったのに、目に見えない。
まるで瞬間移動とも取れる移動。
男は構えを取る暇もなかった。
右手に持っていた剣は吹き飛ばされ、天井へ突き刺さった。男は12階から窓枠を通り越し、落ちた。
コンクリートの大地に。
「あ…あぁ…」
その場にいる誰もが呆気にとられていた。
されど、彼女は止まらない。
「ふっ!はぁっ!」
次々と地上へ落とされる男共。
男共が構えを取るのは余りにも遅く、全ては無駄に終わった。そして、現場は鎮圧された。
「さてと…何処にいるかなぁ…助っ人さん」
呟いて、自分も飛び降りた。
「こいつは…一体?」
一瞬にして落ちてくる十数名の男達。
地面はコンクリート。それらの男は頭が、腹が、体が潰れて、血、肉、骨、内蔵をあらわにした。
白い水溜まりは赤色が混じり、ショッキングなピンク色へと変色していく。
無数のヒトガタを対処し、一段落を付けたブレスは空へ放り投げたぽんこつラジオを今、正にキャッチしたところだった。腰のアタッチメントへそれを直し、ゼファーとティークの潜入したビル。
見上げると…今までよりも一回り小さな人が外へ落ちてきていた。
「……女の子?」
動きやすさの追求か。腰回りだけを隠している超ショートパンツ。自身の力強さをこれでもかと露見した双脚が示している。
目にはパイロットゴーグルが掛けられ、どこか圧を感じる。その奥にある瞳は明確に敵を見逃さない猛禽類のそれである。
上半身は下半身の露出度とは対極と言ってもいい。ファー付きの深緑のコートを着ていて、まるで肌色が見えない。
さっきまでの落ちてきた人々とは雰囲気が違う。
顔には笑みが浮かんでいる。
何より…光っている。クリーム色に。
直後、ブレスは少女の落下地点から離れ、構えを取った。
ヒトガタと相手するときと同じ、戦いの構え・ファイティングポーズをだ。
「んぅー?おぉ…いるじゃないか…。君がぁ…助っ人さんかー!」
自分に纏わりつくクリーム色の光を四散させる。
瞬時、彼女は深緑の上着を投げ捨てる。
袖のない動くことへ特化した服が、彼女のスタイルを際立たせた。すらっとした女性的な骨格に反し、凹凸の少ない男性的な肉付き。いわゆるボーイッシュというものである。
そして露見した素肌の両腕はみるみる内に、その面積を広くしていく。まるで薄い楕円型になった腕はふわふわとしたクリーム色の羽が無数に付いている。
それは翼だ。
風を巻き起こし、自身を宙へと飛び立たせる力を持ったパーツ。通常、鳥の類にしか見られないそれが彼女の両手に現れた。いや、少し違うだろう。彼女の両腕が翼へと変化した。
彼女こそ退廃都市トウキウの超新星。
今尚、侵略されるトウキウの守り人。
侵蝕者・アウルである。
アウルは宙で数度羽ばたくとその身を一気に降下させ、ブレスの目前へ降り立つ…というよりも隕石の如く落下した。
辺りを支配する砂埃。
視界は完全に意味をなさなくなったと言っても良いだろう。
直後。
1つの木刀のようなものがブレスの顔へと迫った。
茶色く、硬く、勢い良く迫るそれはブレスの目前で止まる。
「ちゃんと…倒さなきゃだめだぞぉ。危ないじゃないか」
木刀のようなものはブレスの目前から勢い良く離れていく。それは骨の様に硬くそうで、そして強い殺気を帯びている。アウルの脚である。鳥の、猛禽類の強靭な脚だ。
そして不意に聞こえたのは水音。聞き覚えのある気味の悪い水音。間違いなくヒトガタのものである。
砂埃は長くは続かなかった。
段々と消え、周囲の状況が判明する。
ブレスは動くことはなかった。
されど、ブレスの体には砂埃が消える前ほど筋肉は収縮していない。そして目をパチパチとさせていた。
前方には既に翼を消しているボーイッシュ少女。
横目に崩れて行く白い塊もといヒトガタ。
少女はまるで今日咲いたばかり花のように明るい笑顔で、手を出した。
「んじゃぁ…早速自己紹介。トウキウの頭やらせてもらってる…アウルっていうんだ。よろしく…助っ人さん♪」
ブレスは何度か目をパチパチとさせた後、あっ!と息を漏らして差し出された手を握り返す。
「EDENから言われて、助力に来ました。ブレスです。こちらこそ、よろしくお願いしますぅ…」
固い握手を交わし、この物語の2人のキーマンは互いの存在を初めて感じた。




