7話 魅惑の塩焼きを求めて
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「ねぇ、ナビちゃん。
どこか釣りの出来る場所をご存知?」
『目的地を選択してください。
フェルビオ大源流、ヴァン川、アジトリー湖』
「そうねぇ…湖なんてステキですわ。
ここからいかほど離れているのかしら?」
『アジトリー湖まで、およそ25kmです』
「あら、意外と近いのね。いいわ、そこにしましょう!
案内をお願いできる?」
『目的地を「アジトリー湖」へ設定しました。案内を開始します』
すっかりカーナビと仲良く(?)なったロザリアは、「旅をしながら自由に生きる」という決意に違わず、そりゃあもう好き勝手に動き回っていた。
自由であるが故に多趣味でもあったヨシノリ・オオツカの人生を参考に、あっちへドライブ、こっちで野草採取、昨日は体力作りの筋トレ、明日はバードウォッチングと、初めての自由を精力的に満喫しまくる日々。
今回は「そういえばまだ釣りをしたことがありませんわ」と思い立ったが吉日。
釣り場を求めてキャンピングカーを走らせていた。
『50m先、右折です』
「はぁーい」
『この先、直進です』
「はぁーい」
森の中を走るキャンピングカーは、優秀なナビゲーションのおかげで今日も安全走行。
大きな車体とタイヤでも走れるルートを案内してくれるため、車どころか馬車すら操縦したことがないロザリアでも木立の中をスイスイ走れるのだ。
『目的地周辺です。案内を終了します』
「まあっ、見えてきましたわ! ありがとうナビちゃん!」
辿り着いた先は、生い茂る木々に囲まれた、日差しの反射が眩しい小さな湖だった。
車内からでも分かるほど澄み渡る水が、青々と輝いていて非常に美しい。
窓を開けば爽やかな風が吹きぬけ、小鳥の囀りと揺れる木の葉の音だけが聞こえる。
「なんて素晴らしい景色なの…」
ひととおり感動を噛み締めたロザリアは、いそいそと着替えを済ませてから外へ出た。
適当な街でワンピースドレスと交換した平民用の服に、ヨシノリ・オオツカがアウトドアで愛用していたポケットだらけのベストを合わせて、さらにスカートの下には男性用の七分丈ズボンを着用。そして踵の高いの靴はクローゼットにしまって、丈夫な編み上げブーツを履いた。
これで大物が針に掛かったときでも遠慮なく踏ん張れる、ロザリア流のアウトドア用コスチュームだ。
「さあっ、釣りますわよ! 待っていなさい大物!」
キャンピングカー後方、車外のサイドドアからアクセスできる大型の収納スペースから釣竿やルアーを取り出して、水際にキャンプ用の折りたたみ椅子を設置、水を溜めたバケツを傍に置いたら準備完了。
彼が最期の瞬間までそうしていたように、どっしりと腰を落ち着かせて、釣り糸を飛ばし、あとはひたすら待つだけ。
「いつでも来なさい。私の塩焼き…!」
そう、ロザリアは塩焼きを食べたかった。
ヨシノリ・オオツカの好物で、川や湖といった淡水で釣りをした際には必ず食べていた魅惑の塩焼き。
釣った魚を枝や串に刺したら、塩を振って焚き火で炙る…それだけであんなにも美味しいだなんて反則だ。まさしくシンプル・イズ・ベスト。
夢の中で魚にかぶりついた彼を思い出すだけで、ロザリアの口の中は唾液の洪水状態。
「大丈夫、私は釣りの初心者ですわ。ビギナーズラックで何かしら釣れるはず…」
果たして、彼女の予想は当たった。
「オーッホッホッホッホ!! 大漁ですわぁ!!」
ビチビチ跳ねるバケツいっぱいの魚達を天に掲げ、とったどー! とロザリアは吼えた。