4話 チートな相棒と旅の始まり
「謎はすべて解けましたわっ!!」
昇る朝日に照らされて、若干むくみ顔のロザリアは声高に告げた。
目の前には、例のメーターが付いた給水と排水のタンク。
有言実行のロザリアは、夜明け前にセットした目覚ましのアラームで起床し、それからずっとメーターを見張っていたのだ。
刻一刻と減っていく時間。
ついに6桁すべてがゼロになった瞬間、ロザリアから大量の魔力がごっそりと失われ、軽い眩暈に襲われたが、すぐに持ち直してタンクへ目を向けると、そこには驚くべき光景があった。
23:59:41と再び24時間のカウントダウンが始まったメーター、そして…満タンになった給水タンクと空っぽになった排水タンクがロザリアの目に飛び込んだ。
「これはつまり…24時間毎に自動で私の魔力を吸い上げて、水の補給と排水が行われるシステムになっている…そういうことですわっ!!」
バッテリーにも同じメーターが付いていたことを思い出して確認すると、やはりこちらもタンクと同様にカウントダウンがリセットされ、フル充電状態になっていた。
「なんということ…ッ! 面倒な給水と排水も、設備がないからどうしようか悩んでいた充電も、私の魔力さえあれば自動で済むなんて…!!」
さらに、生まれつき魔力が多いロザリアにとってこのシステムは非常にありがたかった。
多すぎる魔力を定期的に教会で抜いてもらわなければ、頭痛や発熱に悩まされることになってしまう彼女にとって、24時間毎に勝手に魔力を消費してくれるだけでなく、面倒くさいけど生活するうえで必須な水の補充や排水を自動で行ってくれるのだから、まさしく一石二鳥。
「ああっ、神様! オオツカ様!」
感謝感激の祈りを熱心に捧げてから車内に戻ったロザリアを待っていたのは、更なる驚愕だった。
「こっ、これは…まさか…!?」
昨日食べたはずの某インスタント・シーフード味を、キッチン収納の中に見つけたのだ。
このキャンピングカーは、昨日の時点でヨシノリ・オオツカが死んだ瞬間の状態のまま現れた。
だからこそ、彼が好んで食べていた某インスタントのシーフード味だけ減りが早く、インスタント食品のストックの中に残り1個しかなかったのだ。しかも、その1個しかないシーフード味は昨日ロザリアが食べてしまった。
「なのにここにある…。
ゴミ箱の中は…空っぽ。シーフードのカップが消えてますわ。
片付けないまま置いていたケトルもフォークも収納の中に戻っておりますのね」
これはいったいどういうことなのか。
もしかして、とロザリアはひとつの仮説を立てた。
「24時間毎に補充…ではなく、リセットされるのかしら…?」
魔力の消費に伴なって減ったものが補充されるだけならば、消費したはずのシーフード味や、棚の中に戻されたケトルとフォークの説明が付かない。
しかしリセットなら…?
水のタンクもバッテリーの充電も、ケトルもフォークも「元に戻った」だけ。
それならば、この不思議な現象のすべてに説明が付く。
「…でも、そのリセットにも条件がありそうですわね」
なぜなら、カウントダウンがゼロになる瞬間、ロザリアのバッグは車内にあった。
もし何もかもがリセットされてしまうというなら、バッグは車の外に放り出されていなければおかしい。彼の死の瞬間には存在しないものなのだから。
しかし、実際はどうか。
彼女のバッグは今も昨日と変わらず座席にちょこんと置かれたまま。
どうやら、色々と調べる必要がありそうだ。
「でも、まずは……場所の移動ですわ!」
忘れていたけど、ここは公爵邸から令嬢の足で辿り着ける範囲にある川原だ。
こんな場所にいつまでもいたら、怒髪天の父親に見つかってしまう。
そうでなくとも、キャンピングカーなんてこの世界では目立つこと間違いなし。
幸い、今は夜が明けてから1時間も経っていない。人が起き出す前に、下手に注目を集めてしまう前に、さっさとここから立ち去ろう!
ロザリアは高鳴る胸を抑えながら運転席へ乗り込み、白昼夢で見たヨシノリ・オオツカの手順を思い出しながら、慎重にブレーキペダルを踏んで丸い大きなボタンを押す。
──ドゥルルル…ブゥン!
「エンジンが掛かりましたわっ!」
まるで命が宿ったかのような微細な振動を感じながら、ロザリアはほう…と息を吐く。
なんだかキャンピングカーが大きな生き物に思えて、今日からはコレと一緒に生きていくのだと、改めて頼もしさを実感した。
「…よろしくね」
──ブゥン!
アクセルペダルを軽く踏めば、エンジンが返事をするように唸る。
サイドブレーキを解除し、ギアをDにして、いざ発進!
どういう原理かは不明だが、カーナビには何故かこの世界の地図が表示されている。ありがたいことに、目的地を王都の外へ設定するとたちまち道順が現れた。
『目的地を「ヴルツァーリ王国・王都外」へ設定しました。案内を開始します』
「ええ、お願いするわ」
直進しろ、右へ曲がれ、なにかとおしゃべりなナビに案内されて、ロザリアは見知らぬ道をゆく。
でも怖くなんてありませんわ。頼もしい相棒が一緒なんですもの!
こうして、公爵令嬢の新たな人生がスタートした。
基本的にはコメディで、なんの気負いもなしに読める内容にしてるつもりです。