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3話 ロザリアのはじめて

「こうして見ると…なんて素晴らしい…っ!」


 ロザリアは改めて感動していた。

 ヨシノリ・オオツカが、金に糸目をつけずこだわり抜いたキャンピングカーに。


「馬車より大きいとは言え、こんな箱の中によくぞここまで詰め込んだものですわ!

 ソファにテーブル、小さなキッチン、いたるところに収納があって、こちらが…寝室ねっ! なんて立派なベッド…ここが今日から(わたくし)のお部屋!

 クローゼットに鏡まで付いて…まぁっ、こんなところにも収納が!

 そしてこちらが…バスルーム! お年を召したオオツカ様でも何不自由なく使えるほどゆとりがあるから、全く狭さを感じませんわ。

 …あら、あの上に付いているのはエアコン? 助かりますわ~、これで1年中快適に過ごせますもの!」


 さらにありがたいことに、ヨシノリ・オオツカが車内に揃えていた日用品や消耗品、果ては食材に調味料、インスタント食品までそっくりそのまま存在するのだから、恐れ入る。


 きゃあきゃあとはしゃぎながら車内を探検するロザリアは、ちょっとした隙間すら利用してみせるという、いっそ執念深さすら感じるほどの機能美にうっとりと見蕩れた。


「はぁ…なんて素敵…なんて美しい…。でも私は知っておりましてよ。

 このキャンピングカーは、これだけではございませんことをっ!」


 スイッチオン♪ と、入口の横にある操作盤をタップすると、音もなくスルスルと車内の一部が広がっていく。


「トランスフォーム…だったかしら? これでより広く快適になりましたわ!」


 ヨシノリ・オオツカが一目惚れした機能で、リビングダイニングのスペースと寝室部分の2ヵ所が大きく外へ張り出して、キャンピングカーの車内がより広がるのだ。


「本当は運転も試してみたいのだけれど…もう日も暮れてきましたし。

 今日はもう、このままお夕飯を食べて眠ってしまいましょう!」


 白昼夢で幾度となく登場していたインスタント食品を手に取ったロザリアは、勝手知ったるキャンピングカーのキッチンからケトルを取り出して蛇口を捻った。


「…そういえば、お水の残りはいかほどかしら?

 補充が必要なら、どこかへ移動する前にこの川で済ませてしまいましょう」


 まだ薄ら明るいうちに確認しようと外へ出たロザリアは、車体のサイドにある小さな扉を開いて、首を傾げた。


「あら? お水のタンクにこんなメーター付いていたかしら?」


 手のひらより小さな液晶画面が、給水タンクと排水タンクにそれぞれくっ付いていた。ヨシノリ・オオツカの白昼夢ではこんなものなかったはずなのに。


「えっと…この数字はリッターを表しているとして、こちらの数字はなにかしら?

 時間・分・秒がカウントダウンされているから…タイマー? でも何の?」


 しかも、メーターの上部にはデフォルメされた光のようなマークまである。

 このマークが各国共通で魔力を現す記号であることは、平民貴族関係なく誰でも知っている。


「魔力…リッター…カウントダウン…、ダメね、わかりませんわ」


 ただ、どんどん減っていく数字が本当に時間のカウントダウンならば、明日の朝日が昇る頃にはちょうどゼロになるはず。


「あら、バッテリーにも同じメーターが付いてますわ。

 うう~ん…これ以上は考えても仕方ありませんわね。

 明日ちょっと早めに起きて、ゼロになる瞬間を待ちましょう」


 何度でも言うが、ロザリアは疲れている。

 たった1日で人生が変わってしまったのだから。

 適当にお腹を満たしてさっさと寝てしまいたい。


「そろそろお湯も沸いてる頃ですし。

 うふふ、インスタントって実は気になってましたの!」


 もちろん白昼夢の中では大塚義則として何度となく味わった。

 しかし、現実で食べるのは今この瞬間が初めてなのだ。


「お湯を注いで…、3分経ったらできあがりですわ。

 どれどれ。んん~っ、熱いわっ! ちょっと濃いけど美味しいっ!」


 インスタントといえばコレ! という定番の某ヌードルを夢中で完食したロザリアは、片付けもそこそこにワンピースドレスを脱ぎ捨て、下着姿でベッドへころりと横になった。


「うふふ、今日は初めてなことだらけ!」


 ネグリジェも纏わず、ご飯を食べてすぐ横になるなんて、とクスクス笑う。

 普段なら、こんなことをしたら侍女達から口煩く言われてしまうが、今日からはもう誰もロザリアに注意する人はいない。


「うふふ…ぐすっ、ふふ、ひくっ、ふ、うぅ…」


 ロザリアは、少しだけ、ほんの少しだけ泣いた。

強い子や元気な子の希少な涙が好物です(^p^)

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