27話 女神爆誕?
【悲報】書き溜めてあった小説のデータが吹っ飛びました!!
衝撃で頭が真っ白だけど、バックアップを取ってなかった私の落ち度ですごめんなさい…。
どうにかデータの復旧を試みつつ、内容を思い出しながら書いてます…。
今まで以上に更新頻度が下がっちゃいますが、頑張りますので応援よろしくお願いします!
最近、スナーヴル国で有名な職人がいる。
主に宝飾品のデザインや作製を請け負っているのだが、虫や爬虫類などをモチーフにした一風変わったデザインと、小さな細工にも関わらず傷も歪みもない見事な腕前、そこへ安い素材から作られたがゆえの価格の安さも相俟って、スナーヴルを訪れた観光客──ではなく、そこへ住まう一般庶民達からの人気を集めていた。
大金を持った観光客じゃなくても買える、普段のオシャレに最適だと評判の工房は大繁盛。今日も今日とて、嬉しい悲鳴を上げながら休みなく品物を作っている。
──それが、今のボクだ。
ドワーフとして生まれたにも関わらず貧弱な身体は、いくら鍛えても親方のような筋骨隆々には程遠く、熱した金属をブッ叩くことも、丈夫な革を自在に扱うことも出来なかった。
どうしても人と上手く話せない臆病な性格じゃ、材料の仕入れ交渉ひとつマトモにできなくて、不純物の多い金属や不透明なクズ石をわずかに買うことが精一杯。
とうとう修行先の親方からも見放され、追い出されてしまったから、己の未熟な腕前を承知で泣く泣く自分の工房を開くしかなかった。
ドワーフが収入を得るには、工房で物を作るかギルドで冒険者になるしかないけど、ボクみたいな臆病で貧弱なドワーフじゃ魔物に食われるのがオチだから、選択肢なんかなくて。
修行に最後までついて行けなかったことが恥ずかしくて、大きな看板を堂々と飾るなんてできなかった。
中古の格安で買った狭い一軒家の表に小さな板切れの看板だけ取り付けて。
1日中、奥に篭ってはわずかな材料をやりくりしながらチマチマとアクセサリーを作る日々。だけど上手く宣伝できず、おかげで客なんかほとんど入らない。
さすがにそのままじゃ食っていけないから、ときどきご近所の人からちょっとした小物の修理を請け負って、お小遣いみたいなはした金を貰いながら生きていた。
飯代と細工品の材料、たったこれだけでお金が消えるから、もう服なんて何年も買えてないけど、貧相なまま成長しない身体は昔の服でも難なく着れるからちょっと助かる。
…だから何だって話だけどね。
だって、こんな生活をいつまでも続けられないでしょ?
将来が不安で眠れない夜は数え切れないほどある。
そういう夜は決まって、眠ることを諦めるんだ。
寝床を抜け出して、外へ出て、月明かりの下へ持ち込んだランプに集まる虫やら何やらをじっと観察する。
虫や爬虫類って、よく見ると結構キレイな造形してるから、ボクはデザインを考えるときの参考にしてるんだ。
そうして夜が明けると、少ない材料をやりくりしながらアクセサリーを作る。
眠れなくなるたびに増えるアクセサリーは、いまやテーブル1つを丸ごと占拠するほど。
段々と増えていく不安の象徴達は、まるでボクの未来を暗示しているようで、見るたび鬱々とした気持ちになってしまうけど、どうしようもなくって。
──その日もボクは、来ない客を待ちながら手遊びにアクセサリーを作っていた。
近所の人から修理の依頼も来ないから、少しでも節約するため今晩のご飯を我慢しよう、なんて考えていると、ふいに聞こえた控えめなノックの音と誰かの声。
「お、お邪魔いたします…?」
女の子の声だ。
近所のおじさんやおばさんの声じゃない!?
ドワーフばかりが集まるこの辺じゃ全く聞かない、高く澄んだ綺麗な声だった。
どうしよう、どうしよう…?
ガンガンと煩いノックや、ボクを呼び出す大声なら慣れてるけど、こういう場合はどうしたらいいんだろう? なんて返事をしたらいいんだろう?
あたふたしているうちに、とうとう女の子が工房に入ってきてしまった。
ここでサッと姿を現してアクセサリーの紹介でもすれば、ちょっとは売れるのかもしれないけど、そんなことが出来たらこんな苦労なんてしてないよ。
すっかり混乱してビビってカチコチに固まっていたら、なんだか上機嫌な女の子から声を掛けられてしまった!
簡素な自己紹介で盛大にどもるという情けない姿を見られたのに、何故か彼女から褒めちぎられた挙句、アミュレット作製のオーダーが舞い込んでボクは驚いた。
これはもしかして、ボクの都合のいい夢なんじゃ? と思って頬を何度も抓ったけど、そのたびに痛みで悶絶したからどうやら夢じゃないみたいで…。
──今になって思えば。
その依頼こそが、ボクの運命の転機だったのかもしれない。
驚くほど美しい女の子が相手なんて気後れしてしまって、でも断る勇気もなくて、なによりこの依頼を受けたら今晩のご飯を買えるんじゃないか…なんて欲が出て、緊張しながらなんとか聞き取った注文は、「小物入れにもなるアミュレット」だった。
女の子…キュアさんが大事に握り締めていた奇妙な白い四角い道具? のようなものを持ち歩きたいという要望で、旅の神の紋章を彫って欲しいという。
アミュレットの形を色々と打ち合わせした結果、小ぶりな香水瓶のような見た目になった。なかなか斬新なデザインで、久々にワクワクしたのを覚えている。
瓶のキャップ部分が留め金になっていて、それを外すとパカッと縦に割れ、挟み込むように白い四角い道具がぴったりハマるようにしてみた。
ついでに、依頼が嬉しくて調子に乗ったボクは、自分なりに洒落た装飾を彫り込んでみたりして。そうして完成した品を見せたら…。
「まぁっ! なんて素晴らしいのっ!?
私、こんなに素敵なアミュレットを初めて見ましたわ!
歪みもなく傷ひとつなく、優美なデザインに繊細な神の紋章…。
サイズも私のキャンピングカーにピッタリ!
あぁ…、溜め息が出てしまうほど理想的なアミュレットですわ」
絶賛に次ぐ絶賛! 降り注ぐ雨、いや、滝にような誉め言葉の数々にボクは溺れてしまうかとさえ思った。
それと同時に心臓が爆発するように強く脈打って、顔や頭にカッと熱が集まる。
思いっきり叫びたいような、暴れたいような、そんな衝動が湧き上がる。
──ああ、ボク、嬉しいんだ。
いつまで経っても未熟者、ドワーフになりきれない半端者。そう呼ばれて修行先を追い出され、追い詰められるように開いた工房でも小遣い稼ぎの修理ばかり。
そんなボクが、初めて感じたドワーフとしての喜び。
絶え間なく囀る小鳥のようにボクを褒めちぎったキュアさんは、最高品質のアメジストみたいな瞳でボクを見つめて、真っ白で柔らかな手でぎゅっと握手をして、たっぷりの銀貨が詰まった重たい革袋をボクへ握らせ、そうして風のように去っていった。
最後に1つだけ、助言を残して。
『ランペッツさん、貴方は工房の正面に大きな窓を作るべきですわ!
そうして、そこへアクセサリーを並べたテーブルを置くのです!』
「大きな窓を…」
そんなことして何になるんだろう…なんて考えながら、でも住宅街の奥の奥にあるせいで薄暗い工房内の改善になればと思って、ボクはキュアさんの言うとおりにしてみた。
でも、窓を作ってから数日は工房の中が明るくなっただけで特に何もなかった。
変化が起きたのは、10日も経った頃。
そろそろ近所の奥さん方が鍋の修理か包丁の砥ぎでも頼みに来るかな、なんて思っていたある日。ふと外へ目をやってびっくり。数人の奥さん方が、窓にへばりついて展示していたアクセアリー達をじっ…と見つめていたんだ!
おそるおそる外へ出て声を掛けて…、それからはアッという間だった。
値段の安さについて根掘り葉掘り聞かれたかと思えば、窓にへばりついていた奥さん全員がアクセサリーを1つずつ買って帰ってくれたんだけど、彼女達から話を聞いたらしい別の奥さんがやって来て、今度はまだ若い娘さんが友人を連れて来て、どこまで話が広まっているのか別の住宅街からも人が来て…。
気付けばボクの工房は連日大賑わい。
目が回るほど忙しくて、せめて受け付けカウンターでお会計だけでも手伝ってくれる人を雇おうと募集を掛けたら、なぜか弟子希望のドワーフが何人も殺到したり。
「キュアさん、貴女は女神さまだったのかな」
今や「庶民のためのアクセサリー」だなんて言われて、作っても作っても追いつかないほど人気の工房へと成長を遂げたけれど、誰のおかげかと聞かれたらボクは迷いなく彼女のおかげだと胸を張って答えるだろう。
キュアさん。ボクの女神さま。
きっと、アミュレットの依頼はボクへの試練だったんだ。
神はボクを見捨てていなかった。キュアさんという形のチャンスをくれた。
ボクはそう信じている。




