26話 ついに見つけた理想の職人
誤字報告ありがとうございます!
投稿前に修正しつつ何度も読み返しますけど、自分では気づけないものですね…。
「うぅ~ん……」
ロザリアは悩みに悩んでいた。
「アミュレットか? おう、作れるぜ!」
「小物入れにしたいって? ああ、出来るぞ!」
「旅の神の紋章ねぇ。よし任せろ!」
このあたりの工房ときたら、訪ねる先々で色よい返事をもらえるのは嬉しいのだが、展示してある見本の品々を見る限り、どうも作りが粗いというか…。
良心的に見積もっても、ロザリアがお金を出してもいいと思える品質の物を作れそうにない雰囲気なのだ。
だって、己の命と同じくらい大切なキャンピングカーを収める予定なのに、粗が目立つような品物しか作れない程度の腕前の職人にお任せするのは、ちょっと…いや、かなり不安に思っても仕方ないというもの。
きっと彼らは、壊れた鍋をガンガンぶっ叩いて直すことは得意なのだろう。
擦り切れるほど使い込んだ日用品なんかを、とりあえず使えるレベルにまで持っていける──そんな腕前を持っている職人達なのだ。
分かる。住宅街に構えた工房に求められる主な役割は修理であると。
あるいは安く買えて、雑に扱っても壊れにくい道具の作成であると。
だからこそ、彼らは緻密な作業を必要とする細工物を作るには向いていない…ということもロザリアは分かってしまった。
適当に笑顔で誤魔化して工房を出ること4回。
ちなみに、工房へ入らず外からチラ見しただけで候補から除外した回数も入れると、すでに9回に達する。次でダメなら記念すべき10回目だ。
これはマズイ。
お断りした数がお断りされた数と並んでしまう。
さすがにそれはどうかと思って、ちょっぴり焦るロザリア。
「今度こそは…!」
祈るように手のひらのキャンピングカーを握り締め、次なる工房を探す彼女の目に飛び込んできたのは、薄汚れた一見の家──否。家にしか見えないが、小さな看板があるためおそらくあそこも工房なのだろう。
正直あんまり期待できそうにない店構えだが、職人の腕前は品物を見るまで分からない。
「お、お邪魔いたします…?」
看板横の、普通の玄関に見える扉を開けて中を覗き込んだロザリアは驚愕した。
目に飛び込んだ大きなテーブル、その上へ几帳面に並べられた輝きに思わずハッと息を呑む。
「まぁ、なんて素敵なアクセサリー! 指輪にブローチにペンダント…。
珍しいモチーフばかりですが、デザインの素晴らしこと。
そして、どれも傷も歪みも見受けられません、文句なしの品質ですわね!」
貴方の作品かしら、とロザリアは振り向いた。
そこには、受け付けカウンターの向こう側にヒッソリと佇む人影が。
「ランペッツさん、かしら」
外の小さな看板には、ランペッツ工房とあった。
こういうのは職人の名前と相場が決まっている。
「ひゃ、はいッ、ぼく…っじゃない、えと、わっ私がランペッツです、ハイ…」
見るからにコミュ障といった話し方をするこの男こそが、この工房に見えない工房の職人ランペッツで合っていたようだ。
おそらくドワーフなのだろう、小柄なロザリアと同じくらいの背丈の彼は、しかしあまりドワーフらしくない控えめな筋肉と、ヒゲのない顔をしていた。
ボサボサの髪で目の辺りまで覆われていて、いかにも硬そうな髪質だけがドワーフの面影を残しているように感じられる。
「まぁ、どうか畏まらないでくださいませ。
お初にお目にかかります、私、キュア・ロザリアと申しますの」
船の上で決めた偽名の初披露だ。船上に咲く一輪の花、キュア・ロザリア!
あの変身アイテムのような小瓶の形をしたアミュレットなんて素敵かも、など考えながらも可憐な唇は滑らかに動き続ける。
貴族の令嬢たる者、考えと異なる言葉を吐きだすくらい朝飯前でしてよ。
「こじんまりとした素朴な佇まいの工房ですのね。
思わず興味を惹かれて訪れたところ、この素晴らしい品々に胸を打たれました。
モチーフこそ風変りではありますけれど、デザインはどれも素晴らしく、繊細な装飾には傷も歪みも見当たりません。
確かな腕前がなくては、このような品を作ることはできないことは素人の私でも存じておりましてよ。
私、大切な物を入れて持ち運ぶための、小物入れのようなアミュレットを作っていただきたくて、何件もの工房を見て参りましたが……決めましたわ」
流れるような足取りでスルリと男──ランペッツへ近づいたロザリアは、ボサボサの前髪の奥で戸惑う瞳を見つめる。
「ランペッツさん。どうか、私のアミュレットを作ってくださいませ!」




