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2話 白昼夢とキャンピングカー

もいっちょ投稿!

 ロザリアは夢うつつのような曖昧な意識の中で、とある男の一生を追体験した。


 見たことも聞いたこともないニホンという国に庶民として生まれた、大塚義則(オオツカ ヨシノリ)という男。


 平凡な幸せに包まれて、普通に育ち普通に進学し普通に就職した彼は、ひたすら自由な男だった。

 休みの日になれば、友人達と連れ立って釣りや登山を楽しみ、休みが数日続けば旅行やキャンプに出かける、結婚や子育てなどしてる暇はない! 自然が俺を呼んでいる! …そんな男だった。


 しかし彼も気付けば60歳を目前に控え、さらには身体を壊してしまった。


 これで少しは大人しくなるかと思いきや、この男は諦めることを知らず、彼は今までせっせと働いて貯めたお金で立派なキャンピングカーを一括購入。


 移動可能なプライベートルームで自分の身体を労わりながら、あちらこちらへ出かけることができる環境を手に入れた男は、退職してからますます精力的に歩き回り、そして80歳の誕生日まであと1ヵ月という日に、旅先の海で釣り糸を垂らしながら、眠るように息を引き取った──…


「──ッ! い、今のは…?」


 居眠りから飛び起きたような感覚で意識を取り戻したロザリアは、先ほどと変わらず川原に佇んだままだった。


「は、白昼夢…だったのかしら?」


 それにしては、あまりにも現実味の強い──まるで、一人の男の人生を実際に体験したかのようなリアリティのある白昼夢だった。


 夢の内容の濃さと、いくら疲れているとはいえ立ったまま眠っていた事実に、愕然とするロザリアの手から何故かあの本が消えていた。


「まぁ、嫌だわ。ぼうっとしている間に落としてしまったのかし、ら……」


 本を探そうと足元に目をやれば、自身の周りが薄暗いことに気づく。


 空は快晴で、時間はまだ夕方のはず。

 加えて、ここは景色をさえぎるものなど何もない、とても見通しのいい川原だった。ゆえにロザリアは、眩い日差しに背を向けて立っていたのだ。


 では、薄暗く感じるほどの大きな影を落とすものの正体は…?


 まさか魔物? でもそれにしては邪悪な気配は感じない。

 そもそもこんな王都の、しかも公爵家から令嬢の足で辿り着けるような範囲内にある川原に、ここまで大きな魔物が出るなど考えられない。

 もし本当に魔物だったとして、目撃情報だけでも騎士団が即座に動くのだから、とっくに討伐されてるはず。


 じゃあこの影はなに…?

 恐る恐る振り返ると、そこにあったのは──


「えぇッ!? きゃ、きゃんぴんぐかーが…なぜここに!?」


 白昼夢だとばかり思っていた、あのヨシノリ・オオツカの人生で登場したキャンピングカーが、ロザリアの背後で堂々たる存在感を放っていた。


「ぇええ~…? これ、どう見てもキャンピングカー…ですわねぇ…?」


 ヨシノリ・オオツカが情報収集を重ねたうえであちこちの店を渡り歩き、思う存分に吟味し細部までこだわり、オプションも盛りまくった、こだわりの「動く家」。連れ歩けるプライベートルーム。


 大きな純白の車体にスタイリッシュなロゴ、大小いくつもの窓の配置、そして極めつけはナンバープレート。刻まれた数字は「1185(いい箱)」の語呂合わせ。

 歩き回って前後左右からまじまじと観察したロザリアは確信する。


「間違いありません、これは()()キャンピングカーですわっ!」


 なんか知らんけど、大塚義則のキャンピングカーがある!!


 ──ロザリアは、考えることを止めた。


 だって、ぶっちゃけ今の彼女にとって非常に都合のいい状況なのだ。

 移動手段も宿泊場所も確保できないロザリアの目の前に、移動手段と宿泊場所を兼ね備えたキャンピングカーが何故か現れてくれるなんて。


「ああ、神よ…! 感謝いたします…!」


 細かいことは気にしない。これはきっと哀れな自分へ与えられた神の奇跡だ。多分。きっと。おそらく。

 とにかくロザリアは疲れている。さっさと安心できる場所で休みたい!


 ほんの一瞬だけ、これはなにかの罠かしらという考えが脳裏を過ぎったけど、もし罠ならもっと自然に仕掛けるだろうとロザリアは考え、罠説を秒で否定した。


 だって、ここにあるのは夢の世界の乗り物キャンピングカー。

 怪しさ満点すぎて、むしろ逆に安全な気がする。


 時刻は夕暮れ。夜が迫っていることもあって、もうなんでもいいから安全な場所へ駆け込みたかったロザリアは、余計な考えを振り払ってキャンピングカーの入口へ突入した。


「まぁ、普通に開きましたわ。(わたくし)、鍵など持っておりませんのに…」


 ヨシノリ・オオツカの一生を追体験したロザリアは、知っていたからこそ首を傾げた。

 この手の乗り物は、鍵がなければ動かすことはおろか乗り込むことさえ出来ないはず。


「あ、もしかして。 …やっぱり、ありましたわ!」


 ヨシノリ・オオツカがいつも鍵を入れていた、運転席の横にあるフタ付きの小物入れを見れば、そこには手のひらサイズの楕円形をしたリモコンタイプの鍵があった。


「…神様、そしてオオツカ様。

 ありがたくキャンピングカーを使わせていただきます!」


 ロザリアは神妙な面持ちで、両手のひらを合わせたニホン式の祈りを捧げた。

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