19話 麗しき書庫の君
「ギルドの書庫にすンげぇ可愛い子がいたんだよ!」
「へぇ、どんな?」
「なんていうか…こう…すんげぇ…可愛い…」
「とりあえず可愛いのは分かった」
「俺が見た子は細くて色白で、ちょっとキツめのドえらい美人だったぞ」
「そう!! それ!! その子で間違いない!!」
「へぇ~。ギルドの書庫にいたってことはその子も冒険者なのかな」
最近話題の可愛いあの子。白い肌が眩しいあの子。
何を隠そうロザリアのことである。
Dランク昇格を目指すロザリアは、知識を求めて毎日のようにギルドの書庫へ通っているのだが、その姿が冒険者達の目に留まったようだ。
広まった噂は当然ロザリアの耳にも届いていた。しかし、まさか噂の色白なカワイ子ちゃんが自分のこととは露知らず。
「あら、私以外にもどなたか書庫を利用なさっているのね」
同じ女の子同士、仲良くなりたいですわ~。と、当の本人は考えていた。
これは認識の違いから生まれた勘違いである。
なにせロザリアの認識だと、自身は「ソロキャンとアウトドアを嗜む元気いっぱいな日焼け娘」だが、自他共に認める元気いっぱいな冒険者達から見れば、ロザリアはまだまだ色白でお淑やかな高嶺の花なのだ。
貴族生まれ貴族育ちのロザリアは、色白の肌を保つため日光を徹底的に避ける生活をしていたため、元が色白を通り越して青白かったという自覚がない。
それに、貴族の女性は肌の色が白ければ白いほどマーベラス…!という価値観なので、いっそ不健康なほど青白い肌が持て囃されていることも要因の1つだと言える。
そのため、ロザリア的価値観では青白→色白は日焼けなのだが、日焼けなんぞ恐れていたら生活できない側の人間にとっては、ロザリアの肌は驚きの白さに見えている。
さらに、より良い子孫を残すべく頭脳や美貌や魔力が秀でた者との婚姻を繰り返してきた貴族というものは、外見からして平民や冒険者とは違うもので、ロザリアもまた例外ではなく、平民から見れば眩いほどに美しい女神なのだが、知らぬは当の本人ばかり。
今日もまた、冒険者達から遠巻きにされていてもなんのその。
種族毎の魔物に適した討伐方法を頭に詰め込むべく、書庫に通うロザリア。
「…そろそろ一度討伐に出てみようかしら」
この辺りに出没する魔物の知識は大体頭に入った。
となれば、あとは実践あるのみ。
「──というワケでして。Eランクの魔物討伐依頼はございませんこと?」
「えっと、昇格目的の討伐であれば、依頼がなくても討伐部位を提出してくれたら記録してあげますよ」
「あら、そうでしたの」
ギルドといえば、まず何をするにも依頼…という先入観があったロザリアにとって、受け付け嬢の話は目から鱗だった。
…そういえばトリスタンも、ギルドへ寄らずに魔物を討伐してたっけ。
魔物を倒した後にギルドへ立ち寄り、受け付けで何かを出していた記憶があるけど、つまりアレこそが討伐部位の提出だったのでは?
自分も同じことをすればいい、と納得したロザリア。
さっそく討伐に出掛けようと踵を返した。
──後を付けられていることも知らずに。
最後がちょっと不穏…。




