17話 微熱もまた楽し
ちょっと短いですが…。
「37.2度…、微熱ですわねぇ…」
大きな恐怖から無事に逃れて気が抜けたのか、フューバル伯爵領に辿り着いたロザリアは朝から熱を出していた。
思えば、キャンピングカー生活を始めて以来、寝込むのはこれが初めてだ。
「きっと、大人しく眠っていれば治りますわ…」
以前なら、たとえ微熱でも屋敷中が大騒ぎして医者や薬師を呼びつけて、24時間体制で看病されたものだが、今のロザリアは自分でどうにかするしかない。
しかし、彼女は特に心配していなかった。
「解熱剤も鎮痛剤も咳止めも、なんでも揃っておりますもの。
平気ですわ。うふふっ」
ヨシノリ・オオツカは一人でアウトドアを楽しむことのリスクもきちんと把握していた。
ゆえに、キャンピングカーには立派な薬箱を備えていて、中には臨機応変に対応できるよう多種多様な薬や、応急処置のための道具などが常備されている。
ヨシノリ・オオツカの常備薬は驚くほどよく効くのだ。
それは、車酔いで苦しんだトリスタンを10秒で救った実績で証明されている。
あれはすごかった。
気休めになればいいな~なんて考えながら渡した酔い止め薬を飲んだトリスタンの顔色が、あっと言う間によくなったのだから。
トリスタンなど、あまりの効力に自分がエリクサーを飲んでしまったのでは、と大慌てしていた姿をロザリアが指を差して笑った記憶がある。
だから何の不安もない。
不安はない、が…。
「…少し、寂しいような、気がしますわ…」
可憐な外見とは裏腹に健康優良児だったロザリアは、人生で数えるほどしか寝込んだことがない。だからこそ、弱っているときの心細さというものに耐性がない。
誰かとの別れとはまた違う寂しさ。心細いという気持ち。
これもまた、ロザリアは家を出て初めて知った。
「ふふ、私、初めて知ることばかりですわね」
旅を始めて1ヵ月以上経つというのに、未だ「初めて」だらけ。
だからこそ、楽しい。
寂しいことさえ楽しいロザリアは、寝込んでいようと最強なのだ。




