13話 ソロキャンしか勝たん
多忙につき投稿の間が開いてしまいました…。
ちょくちょくこういうことが今後もあるかもしれませんが、あたたかく見守っていただけたら嬉しいです。
「なんだか、こうして1人でのんびり過ごすのが、とても久方ぶりに思えますわ」
トリスタンと共に過ごしたのは、ほんの一週間程度だというのに。
双眼鏡を覗きながら、ロザリアは溜め息を吐く。
しかし物思いに耽りながらも、鳥をスケッチする手は止まらない。
現在、バードウォッチングの最中である。
「…今日はこのくらいにしておきましょう」
2枚のスケッチを手に車内へ戻ったロザリアは、なにをするでもなくベッドへ寝転がった。
「う~ん……」
トリスタンと別れてから、ずっとこんな調子だ。
なんとなーくヤル気が出なくて、なんとなーく憂鬱で、あんなに夢中だった釣りやバードウォッチングも何故か色褪せて見えて、何をしてもなんとなーく楽しくない気がする。
「はっ! …もしかして私、寂しいのかしら?」
今までにない心地の悪さに戸惑っていたロザリアはひらめいた。
これが「寂しい」というものではないか、と。
ほんの少し前までは、どこへ行くにも何をするにも侍女や護衛を引き連れて、ひとたび外へ出ようものなら家柄や身分に相応しい所作か否かと注目される生活をしていたロザリアは、思えば1人きりになるという時間が極端に少なかったのだ。
寂しいという感情を抱く機会すらなかったのだから、仕方ないことだった。
さらに、家を出てキャンピングカーと共に一人旅をするようになった当初は、圧倒的なまでの開放感に酔いしれて、寂しさを感じているヒマがなかったのも理由のひとつだろう。
それが一変。一人旅に慣れて段々と落ち着いてきたタイミングでトリスタンとの出会い。
侍女でも護衛でもない、己を値踏みすることもない、気を使う必要のない、いわゆる友人ってヤツ。
家同士の付き合いで用意された「お友達」とは全く違う存在との出会いは、ロザリアにとって思いのほか大きいものだったらしい。
元の一人旅に戻っただけで、寂しさを感じてしまうほどに。
「そう、私、寂しいのね…」
消え入りそうな声でしんみりと呟き、溜め息混じりに窓の外を眺めるロザリアは、初めての寂しさを胸に戸惑う日々を過ごした──のも束の間。
「いいお天気。絶好の塩焼き日和ですわっ!」
釣ったばかりの魚を捌きながら、ロザリアは晴れ晴れとした笑顔で言い放った。
──トリスタンとの別れから早一週間。
寂しさにメソメソしていたのは最初の3日だけで、すっかり元の調子を取り戻した彼女は魚の塩焼きを求めて適当な川原に来ていた。
久々の釣りを堪能して、今は手に入れた3匹の魚をサクサクと捌いている最中。
「思えば…トリスタンと過ごした日々は確かに楽しくありましたわ。
でも、決して自由だったとは言えませんでした!
そもそも男性と一緒という時点で自由に振る舞うなど出来なくってよ」
ロザリアとて立派な淑女だ。
ゆえに、家族ですらない男のトリスタンと同じ空間にいては心が休まらないし、ましてや今までのように自由な振る舞いなどもってのほかだった。
本当ならシャツ1枚でベッドに寝転がりたかったし、食後は片付けもせず1時間くらいダラダラとソファでくつろぎたかった。
好きな時間にシャワーを浴びたかったし、シャワーから上がった後は水気が乾くまではパンツ一丁で過ごしたかった。
川や湖でじっくり釣りをして、その場で捌いた塩焼きに思いっきり齧り付きたかった。
…しかし、それらは全て淑女がやっていいことではない。
「それに、トイレさえ落ち着いて済ませられませんでしたもの」
扉1枚を隔てたすぐ向こう側に男がいるのだ。
音が聞こえたらどうしよう。
ニオイが残っていたらどうしよう。
トイレの時間が長いと思われたらどうしよう。
淑女として育ってきたロザリアとしては、どうしても気になってしまう。
確かに、トリスタンと過ごした日々は騒々しくも楽しかったし、彼との別れはロザリアに寂しさをもたらした。
──だがそこに、彼女の愛する自由はなかった。
寂しさと自由を天秤に掛けて、どちらに傾くかなど考えるまでもない。
「寂しい気持ちなど3日で消えますもの。
それならば私は1人で自由に過ごすことを選びますわ」
実はロザリア、あれから少し考えたのだ。
ヨシノリ・オオツカのようにアウトドア趣味の仲間達と集まってワイワイやることへも憧れがあるから、旅の仲間を募るのはどうかと。さらに、同性ならば気兼ねなく一緒に過ごせるのではないかとも。
しかし残念なことに、この国では旅をするのも野宿するのも男性ばかり。
冒険者ならば女性を見かけることもあるけど、彼女らは基本的に男性とパーティを組んでいる。
トリスタンと一緒に立ち寄ったギルドで知ったのだ。
女性のみのパーティは皆無だと。
…性的被害などを考えると、仕方ないとは理解できるけど。
つまり、だ。
旅の仲間を募ったとして、都合よく女性だけ来てくれる可能性はゼロに等しい。
ヨシノリ・オオツカの記憶には一人でキャンプを楽しむ女性もたくさん登場したが、あくまでそれは治安レベルMAXな彼の国だからに他ならない。
仲間になってくれそうな女性を誘ったところで、男もセットになって付いてくるならトリスタンの二の舞になる。それでは意味がない。
だからロザリアは改めて決心したのだ。
1人で自由気侭に生きていくことを。
「はぁ~塩焼き美味しいぃ~っ!」
自由だ何だと言ったところで、誰かと一緒だとどうしても人目を気にしてしまうことを今回の旅で自覚したロザリアは、お上品に振る舞うため封印していた塩焼きを堪能しながら、しみじみ呟いた。
「やっぱりソロキャンが最高ですわ…」




