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1話 敗北と失意と不思議な本

「ソロキャンって、最高じゃなくって?」


 木の枝に刺して焼いただけの魚をワイルドに食い千切りながら、麗しい少女は呟いた。



  ◆◇◆◇◆◇



 王子の寵愛を巡る令嬢同士の争いに負けた。


 ただそれだけの話。


 普通であれば、たった1人の王子のもとに複数の令嬢が殺到するのだから、選ばれなくとも残念だったね~で済むものだが、運の悪いことにロザリア・シュネーは公爵家の令嬢だった。


 公爵家の令嬢が王子の妃に立候補するということは、すなわち婚約者で確定という意味を持つ。


 事実、集まった10人もの令嬢達の中でロザリアこそが最も高貴であったし、礼儀作法や立ち居振る舞いに最も気品があり、さらに生まれつき豊富な魔力を宿していた。

 性格こそ少し高飛車だったものの、公爵家の令嬢としてはむしろ控えめな方で、周囲からの評価が非常に高かったばかりか、国王夫妻からも好印象を持たれていたほどだ。

 公爵家という家格も財力も、王子の後ろ盾としてこれ以上ないほど頼もしい。


 だからこそ誰もが思っていた。

 ロザリアこそが王子妃に選ばれると。


 ──しかし、結果はどうだ。

 王子が選んだのは、集まった10人の中で最も身分の低い伯爵家の令嬢だった。


 あの瞬間の空気を、ロザリアは生涯忘れないだろう。


 悔しさを滲ませながら、しかし他ならぬロザリアが相手ならば認めざるを得ないと、清々しく胸を張っていた8人の令嬢達。


 由緒正しき血統と気品溢れる所作、明晰な頭脳と麗しい姿、そして豊富な魔力…すべてが揃った最高の娘を迎えられることを喜ぶ国王夫妻。


 男兄弟ばかりの中、義理とはいえ美しい姉が出来ると知って恥らう王子の弟達。


 この完璧な淑女をお守りするのだと、胸を高鳴らせていた城の騎士達。


 ──それらすべてが凍りついた極寒のパーティホール。


 誰も彼もが理解を拒み、カチンコチンに固まるなか、当の本人達だけが「殿下…信じておりました…っ!」「ああ、システィーナ!我が愛よ!」と盛り上がり、異様な雰囲気が漂っていたことも記憶に新しい。


 そんなワケで、予期せぬ敗北に失意のロザリアが屋敷に戻れば、兄は愕然とし、母は嘆き悲しみ、厳格な父は──怒り狂った。それはもうスゴかった。


 そのまま憤死でもするんじゃなかろうかと危ぶむほど顔を真っ赤に染め、怒りに震え、雷のような大声で唾を飛ばしながら怒鳴り、そして……ロザリアを家から追放した。


 声がデカすぎてよく聞き取れなかったけど、「公爵家に恥じぬ最高の環境を与え、最高の教育を施してやったにも関わらず、この体たらく云々(うんぬん)」的なことを言ってた気がするので、つまり父は負けるはずのない勝負に負けたのは、ロザリアの失態に他ならぬ、と判断したらしい。


 そうして下された父による判決は、家名の剥奪と家からの追放。


「まあ、殺されなかっただけ御の字ですわね」


 その場で切り捨てられなかったことに安堵したロザリアは、父の性格を熟知していたため、気が変わって殺されてしまう前にと考えてサクっと家を出たのだった。

 あの怒り狂った父相手に、縋り付いてもいいことなど1つもないのだから…。


 非力な令嬢の手でも持てる小さなバッグに、とりあえずハンカチと化粧品、あとは換金用の宝石をいくつか詰め込んだロザリアは、お忍びでお出かけするために用意していた質素なワンピースドレスを身に付け、父の目に付かないようにと裏口の扉からさっさと飛び出した。


 ──しかし、そこは生粋のお嬢様。


 少し歩いただけでも足が痛むし、休みたくても椅子がなければ座れない。

 ホテルがどこにあるのかなんて知らないし、馬車に乗りたくても手配などしたことない。

 宝石がお金に換わるという知識はあれど、換金できる場所なんて全く検討が付かない。


 友人達と一緒にお忍びで庶民のお店へ行ったことが何度もあったため、彼女自身は貴族令嬢の中でもしっかり者で経験豊富なつもりだったが、蓋を開けてみればこの有様。

 今までは、使用人達によるお膳立てのもとで楽しんだ、安全な遊びでしかなかったのだということを身をもって知った。


 公爵家の令嬢が知る必要のない馬車や金銭の手配などには一度も触れず、比較的治安の良い裕福な区画にある高級店で、令嬢が思い描いた「庶民っぽい」雰囲気だけを味わったに過ぎなかったのだ。


「これで経験豊富だなんて思い上がって、笑われてしまいますわね…」


 あの瞬間までは確かにあった自信も、すっかり萎んでしまっていた。

 こんな自分では、王子の妃に選ばれなくても仕方ないとさえ考えるほどに。


「はぁ…」


 溜め息を付き、目の前にあるどことも知れない川を眺める。

 本当は疲れているから、どこか座れる場所があればありがたい。

 しかしここは小石が散らばる川原。椅子なんてどこにもない。

 喉も渇いているけど、令嬢なので川の水を飲むという発想がない。


 座ることもできず、かと言って疲れた足ではこれ以上歩けず、ただただロザリアは川原に佇んでいた。


 どうしたらいいのか、どこへ行けばいいのか。

 答えの出ない問いを頭の中で繰り返しながら。


「…あら?」


ふと、目の前の水辺に何かが流れ着いていることに気付いた。


「これは…、まあっ! 本ではありませんこと?」


 誰かに拾わせようと辺りを見回して、そういえば家から追い出され侍女も誰もいないことを思い出し、ひとりで恥じらいながら自分の手で拾ってみれば、それは立派な丁装の本だった。


 本とはとても高価で貴重なもの。それがなぜ川に?


「『ヨシノリ・オオツカの一生』…? どなたかしら。変わった名前の方ね」


 いつもなら腕が疲れてしまうからと、ブックスタンドがなくては本を読まないロザリアだが、この本はそれほどページが多くないため、このままでも何とかなりそうだった。


 興味本位で最初のページを開いてみれば、目に飛び込んで来たのは──

はばかりながら初投稿です。

三千年と申します。みちとし、とお呼びください。

あたたかく見守っていただけたら嬉しいです(*^u^*)

よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話の展開スピードが速くて引き込まれます。 [気になる点] 主人公の父親がバカ過ぎる。 [一言] 全く落ち度のない主人公が幸せになりますように。
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