97話 元凶捕縛
「くそっ!一体何が起こったんだ!いきなり辺り一面が光り出したと思ったら殆どの魔物が消滅しているなんて・・・!」
魔物の軍勢が発生していた場所から数キロ離れた場所で黒装束で身を隠した男が静かに声を荒げる
この男こそが今回の騒動の発端で魔物を使役していた張本人。王都襲撃を画策していた男は自身の計画が破綻してしまったことに激しい憤りを感じていた
ここからどうやって巻き返そうかと思考を巡らせたが、大半の魔物を失っては王都を襲撃する事は最早不可能
自分1人ではどうすることもできず、苦肉の決断ではあるがこの場から撤退することを決断した
男にとっては耐え難い屈辱。唇を強く噛み締めながら呪詛を唱えるように呟き続ける
「見ていろ、次こそは必ず。今度はこの倍・・・いや5倍の数で攻め込んで王都を血の海にしてやる。ふふっ、ふふふふ・・・!」
「見つけた。こんな所にいたのか」
男がこの場を去ろうとしたその時、別の者の声が聞こえてきた
咄嗟に振り返るとそこには竜とその背中に乗っている白髪の女がいた。男は何故自分の居場所がバレたのか見当がつかなかった
気配も消して周囲には隠蔽の魔法を施してカモフラージュまでして用意周到だったはずなのに目の前にいる奴等は迷わず自分の元までやってきた
竜まで使役していることも考えてこの時点で男はこの女が只者ではないことを理解して警戒レベルを最大まで引き上げた
「ど、どうかされたのでしょうか?私はしがない旅人で隣町からたった今来たばかりでこれから王都に入ろうと思っていたところだったのですが・・・」
「・・・・王都なら今魔物に襲われててその対応に追われているので入るのは危険だと思いますよ」
「なんですって!魔物の大群が王都を!?教えて下さりありがとうございました。残念ではありますが今回は諦めようと思います。それでは失礼します」
なんとか誤魔化してこの場を切り抜けてやる。そして次こそは必ずこの国を滅ぼして・・・・!
男は目の前にある危険から逃れようと足早に去ろうとしたが、女性の言葉によって再び行く手を阻まれる
「そう、大群。確かに大群でしたね。でも私は魔物と言っただけで大群とは一言も言っていませんよ。どうして今来たばかりの貴方がそんな事を知っているんですかね」
「そ、それは先程魔物の声が多数聞こえてきたのできっとそれだと思いまして・・・・」
「さっきここに来たばかりって言ってましたよね。それにここからでは王都にいた魔物達の声までは聞こえませんよ」
「ぐっ・・・!」
下手を打った。普段ならこんなヘマはしなかっただろうに想定外の事態が立て続けに起きて口を滑らせてしまった
こうなってはもう言い逃れはできない。なら強行手段を取るしかない
あの竜を使役して飛んで逃げれば流石にあの女も追ってくることは出来ないはず。男は振り向きざまに竜に向かって魔法を放った
「竜よ!我が下僕となれ!"魔物支配"」
「ん?今何かしたのか?」
「んなっ!?」
発動した魔法は間違いなく竜に命中した。それなのに目の前の竜には効いた様子はなく、使役することができなかった
そんなはずはないと何度も試してみたが結果は変わらず。他の魔物は簡単に使役できて失敗するようなことはなかったのに目の前にいる竜には通用しない。残されていた唯一の手段も失った男は思わずたじろぐ
「ど、どうしてだ!何故使役できない!」
「もしかして他の魔物のように私を従えようとしたのか?そんなものが私に効くはずがないだろう。その程度の魔法が通用するのはお前が使役していた大したことのない魔物位だぞ」
「た、大したことない・・・・うわぁぁぁぁ!」
王都を襲撃する為、これだけの為に魔物支配の魔法を覚えて長い年月をかけ死にもの狂いで集めた数々の魔物を大したことないと一蹴された男に最早まともに思考を巡らす力はなく、最後のあがきとして目の前に敵に向かって飛びかかっていった
魔物を使役していない自分が攻撃したところでどうすることもできないのは分かっている。しかしそれでも僅かな望みをかけて飛び込んで行った
しかしその微かな望みさえも一瞬にして消え去り、男は女に捕らえられた
「どうしてだ・・・・どうしてここに俺がいると分かったんだ」
「木を隠すなら森の中とは言うけど木があまりに目立ってたら意味がないよ」
「ど、どういう意味だ・・・・」
「あなたに教える義理はないよ。暴れられても困るから暫く眠ってもらうから」
女が手をこちらに向けてくると唐突な眠気が襲ってきた。睡眠系の魔法か
よく見たらこの女が持っている剣・・・そうか、この女と竜が俺の魔物達を倒したのか
あの出鱈目のような魔法もこいつがやったんだろう。この国の実力者は調べ上げてユリウスただ1人を警戒しておけば他は取るに足らないはずだったのに・・・もしかして国が極秘裏に隠していたというのか
そうとしか考えられない。たまたま王都にいた奴に計画を潰されたなんてそんな都合のいい話があるわけがない
「10年間コツコツと魔物を使役して今日の為に備えていたというのにこんな事で無に帰すとは・・・・」
男は最後にそれだけ言い残し、魔法によって深い眠りについた
「終わりましたねご主人様」
「そうだね。さっさとこの男を連行して早く戻ろう」
拘束した男を連れてエレナとフレイヤは皆が待っている王都へと向かった
食事を中断されたからか動いたらまたお腹が空いてきたな。シエルやラミアスも待たせているし早く戻るとしよう
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