75話 森の中に佇む家に
スイムと暫く行動を共にすることが決まった翌朝、窓からの日差しで起床して私は隣にいる姉妹達の部屋の扉を叩いた
扉を開けてくれたのは姉のハンナさん。眠たそうに目を擦りながら朝の挨拶を交わした
「おはようハンナさん。随分眠たそうにしてるけど大丈夫?」
「はい・・・私は大丈夫なんですがネルがまだちょっと起きなくて」
部屋に入らせてもらいベッドで寝ているネルを見てみると泣き腫らした顔がそこにはあった
この様子だと昨夜両親達のことをネルに話したんだろうな
一晩中泣き続けて疲れたんだろう。ようやく眠る事が出来たのなら今は寝かせてあげよう
よく見るとハンナさんの顔も少し赤く腫れていた
「私達は出発する前に挨拶とか準備しなくちゃだからハンナさん達はもう少しゆっくりしてていよ。準備できたら呼びにくるから」
「何から何まですみません・・・あっ、宿の代金は必ず返しますので」
「そんなのはいつでもいいから気にしないで。今は妹さんと自分の事を第一に考えて」
ハンナさん達が休んでいる間に私達はギルドへと向かった
周りを見渡して目的の人物を探していると、あちらが先に私達に気づいてこちらに向かって手を振ってきた
「おはようございますリザさん。今日はお1人なんですか?」
「あいつ等は二日酔いらしくてまだ寝てるんだよ。あの程度でだらしねぇあっはっは!」
あの程度ってあの後樽2つ位空けてた気がするが・・・今も寝起きに酒を煽っているみたいだし魔法で中和してる私と違ってかなりの酒豪なんだな
私は準備が整ったらここを出ていくことをリザさんに伝えた
リザさんはそれを少し残念そうにしていたが、またいつでも来いと言ってくれたのでその時はまた一緒に依頼を受けようと約束をした
「っとそうだった。ギルマスからあんたに渡すよう頼まれたんだったわ。ほらっ」
リザさんが隣に置いてあった鞄からギルドマスターから預かったという4つ折りにされた紙を私に渡してきたので広げて確認してみると、紙には昨日奴隷を捕らえていた者が使っていた長い筒の武器の設計図が描かれていた
昨日報告をした時にライヒムさんにもその武器の事を話したのだが、私が興味を持っていると思ってわざわざ模写してくれたのだろう。所々走り書きの文字と説明文の語尾にまでにゃんとつけられている
あの長い筒の武器はどうやら"銃"という名称らしい。構造が理解出来れば自分で作ることが出来そうだ
リザさんにはギルドマスターへの感謝の言伝を頼んだ後別れを告げてギルドを去り、次に私達は昨日食べた食材を買いに市場へ出かけた
ここでしか見ない食材や土産品を自分達用とお世話になってる人に渡す用とそれぞれ購入し、道中で食べる弁当もついでに購入してから宿に戻ってハンナさん達に声をかけた
「ハンナさん、こちらは準備が終わりましたけど行けそうですか?」
「あっはい大丈夫です。ネル、もう出るよ」
「ん・・・」
ハンナさんに手を引かれて出てきたネルは起きたばかりなのかまだ意識がハッキリしてない様子
宿の外までハンナさんがおんぶで連れていき、借りてきた例の馬を用いない四角い箱の"自動車"に乗せた
城門の前に停められていて貸し出しを行っていたので興味本位で乗ってみることにした
検問所までこれを乗っていくつもりだが、あとで係りの者が回収しに来るらしいのでそのまま乗り捨てても問題ないらしい
操縦方法を教えてもらい私が運転してみたが、棒状の物を動かす事で前に進んだり車輪を動かしたて左右に移動でき、手綱を握るのとは全く感覚が異なり最初は中々慣れず右往左往したが慣れれば実に快適なものだった
道中ではまだ眠そうにしていたネルは遅めの朝食を食べた後はまた眠りについていた
食事中も元気はなくハンナさんの服を掴んで離さなかった
朝からずっとこんな調子みたいだが大丈夫だろうか・・・
「いやぁこの"自動車"というのは速いですねぇ。もうすぐ目的地ですよ」
「最後まで安全に頼むよフィオナ」
エルロンド帝国とハンナさん達の家のちょうど中間地点の辺りでフィオナと交代してから30分が経過して既に森に入り始めていた
徒歩で向かえば6時間、通常の馬車なら2、3時間はかかりそうな道のりでもこの自動車なら大体1時間で到着出来ることが分かった
お試しで乗ってみたが想像以上のものだ。この設計図も貰えればよかったなぁ
ただ難点が1つ。なまじ速度があるせいで馬車より結構揺れること
石畳で綺麗にされた場所ならともかく外での使用はちょっと大変だな。道が綺麗に舗装されたらきっと快適に移動する事が出来るだろう
ハンナさんに案内してもらいながら進んでいくとやがて森の中にポツンと佇む一軒家を見つけた
樹で作られた平屋建てのウッドハウス
外には手製のブランコがあり風が吹くと軽く音を立てて揺れ動く
暫く周りの手入れがされていなかった為、家の周りには落ち葉がたくさん落ちていた
「先に私達が中の様子を確認してきていいかな?」
「分かりました、お願いします」
鍵も掛けない状態で暫く留守にしていたので念を押してハンナさんに許可を貰い先に家の様子を見に行く
慎重に扉開け中を見ていくとベッドがある部屋に辿り着き、そこには血痕が残っていた
先に私達が入って正解だった。こんなのを見てしまっては卒倒してしまうだろう
2人が来る前に消しておかなければ
痕跡を消そうと魔法を使おうとしたら、それよりも早くスイムが名乗りを上げた
「私に任せて下さい!」
「どうするの?」
「こうするんです!」
そう言うとスイムは人型からスライムの体に戻り、血痕の上に乗ったと思ったら血を吸収し始めて少しすると跡形もなく消えた
あっという間に床に散っていた血痕が綺麗さっぱり無くなったので私はハンナさん達を呼びに行くことにした
しかし、スイムが怪訝な顔をしていたのが気になったので呼ぶ前にスイムに尋ねてみた
「どうしたのスイム?何か気になることでもあった?」
「うーん・・・すみません。ここの方は亡くなられてしまったと言っていましたよね?」
「そうだね。そう聞いてるけど」
「多分ですけど、まだその方達生きてますよ」
読んでいただきありがとうございました!
「よかった」「続きが気になる」など思っていただけたら幸いです
少しでも気に入ってくれた方ブクマ、評価、感想等々頂けると大変励みになります
次話投稿時間はTwitterの方で告知させて頂きます。よろしくお願いします!




