66話 神話の魔物
地上に降り立った私達は空から見つけた泉と思われる場所へとやって来た
目の前まで来て覗いてもその透明度は変わることはなく、底までしっかりと見えている
恐らくこれがロデリオさんが言っていた泉なはずだ。確証はないが確信はあった
底から湧き出ているこの水からは魔力を感じる。ここが特別な場所というのは間違いないだろう
話では体に水をかけたり飲んだりするだけでは効果は発揮されないらしく、体全体を泉に浸からせないといけいないとか言っていたな
「どうしますか早速入ってみますか?」
「そうだね、じゃあ服脱ぐから見張っててくれる?」
「こんな所に誰も来ませんってばぁ。それに今のエレナさんは子供なんですから見られたって減るもんじゃないですよ〜」
そうかもしれないがそれはそれでなんかムカつくな・・・
というか過失とはいえ誰が原因でこんな事になってると思ってるんだ!
服を脱いで泉の前に立つ。私だけ全裸で2人からの視線が私に集中してきて気恥ずかしいのでもうさっさと終わらせてしまおう
「じゃあ入るね」
「どんな風になるのか楽しみです!」
「思い切りザブンといっちゃって下さい♪」
人を実験台のように・・・
泉に足を入れて浸かろうとしたその時、茂みの方からガサガサと音がした
「覗きか!?」
フレイヤの言葉で咄嗟に体をタオルで隠す。恐らくは魔物だろうが・・・こんな近くにやって来るまで全く気配を感じなかった
この姿で戦闘は出来ないから気配だけは何時もより一層気をつけていたつもりなのに
相手は相当な手練れに違いない。気をつけなければ
「こらっ!コソコソしていないで出てこい!来ないのならこっちから行くぞ!」
茂みの奥にいる相手が様子を窺っているのか、中々出てこない事に痺れを切らしてフレイヤが茂みに近づいて行く
すると突然目にも止まらぬ速さでその魔物はフレイヤを突き飛ばした
「フレイヤ!」
「ぬわ~!」
人の姿とはいえフレイヤが吹き飛ばされる姿を見るなんて何時ぶりだろうか
大したダメージはないだろうが今のでフレイヤに火がついたようで、竜の姿に変わって本気で相手をするようだ
敵の姿を見れば無理もない、私もその姿を確認した時は目を疑った
四足歩行の巨体で長い尻尾に白黒の縞模様の特徴を持つ最古にして神話級の魔物
以前北の大地でニクスコングから聞いた特徴と一致する。まさかこんな場所で出くわすことになるとは
「アポストロス・・・」
この魔物の呼称が不明の為、私達の間ではそう呼ばれている
そう呼ばれているのはこの魔物が大昔、国に迫ってきていた災害を何度か防いだことがきっかけとなっている
ある時は国1つ丸呑みにしてしまう程の大津波を魔法で消し飛ばしたり、またある時は干ばつの影響で飢饉に瀕していた国に雨を降らして救ったりと様々な伝説があり、昔の人達が神の使徒だと崇め始めたことでこの名がつけられた
あくまで本で読んだ内容で全てが本当かは分からない。なんせ魔王が生まれるよりも遥か前の話だから生き証人なんて当然いないし本も読みやすくする為に書き換えられているから創作も加わっているだろう
魔王誕生後、突然姿を現さなくなったから私達の間では殆ど作り話として語られていた
しかしいざ対峙して分かった。この魔物にはどう足掻いても勝つことが出来ない
魔王と戦ったあの時のプレッシャーとは似て非なるもの、神々しさとでも言うべきものを放っていた
「ご主人様逃げて下さい!」
フレイヤが私と相手との距離を離そうと攻撃を仕掛ける。しかしフレイヤの全力の攻撃は全て軽くあしらわれ、攻撃を繰り出す度にカウンターを浴びせられていた
ここまで一方的にやられるフレイヤは久々に見た。フィオナの支援攻撃を躱しながらそれをやってのけている
しかも相手はまだまだ余裕があるようだ
このままでは為す術なくやられてしまうと思ったフレイヤは最終手段で一番強力なブレスを放とうとしていた
「あっこら!ブレスはダメだって!」
私の制止を聞かずにフレイヤはブレスを放った
全魔力を使ったアポストロスを飲み込む程の高火力ブレス
しかしそれが相手に当たることはなかった
「フッ」
「なにっ!?消された!?」
アポストロスが使った魔法の効果なのか、白い吐息がフレイヤのブレスに触れた瞬間消滅してしまった
そしてそのまま長い尻尾でフレイヤを締め付け、身動きをとれなくしたところで眠らされた
「スヤァ・・・」
「はわわわ・・・・フレイヤさんがやられてしまいましたよ」
こちらは残りはフィオナのみ。魔法専門で近接に慣れていないフィオナには荷が重すぎる
眠らしたフレイヤを地面に捨ててアポストロスがこちらに体を向けてきたタイミングで私と目が合った
すると一瞬で私の目の前までやってきて、動きを止めて抵抗できない生まれたままの姿の私をつま先から頭のてっぺんまでじっくりと見てきた
「お前は・・・」
「は、はい?」
襲って来るのかと思ったがどうやらそうではないようだ
あまりに平然と喋りかけてきたものだったから思わず反応してしまった
「そうか、お前があの方の恩恵を授かった・・・」
何やら突然ブツブツと喋り出して言っていることはよく聞こえなかったが、アポストロスは少しして私に背を向けてこの場から立ち去っていった
いきなり現れて襲ってきたかと思えば何もせずに消えて・・・何がしたかったんだ?
フレイヤの事も倒そうと思えば簡単に倒せただろうに軽い傷を与えただけで眠らせただけだし明確な敵意はなかったように思える
「エレナさん大丈夫でしたか?」
「う、うん。よく分からないけど見逃してもらえたみたい」
アポストロスが何を考えていたのかは分からない。そもそもあれはイレギュラーな存在だから考えるだけ無駄かもしれない
色々思うところはあるが一先ず皆無事でよかった。気を取り直して私は泉へと足を進めた
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