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60話 卒業

「よし、じゃあ行ってくるね」


「エレナ、どこか行くのか?」


「講師の仕事で王都までね。夜には帰ってくるよ」



私が講師を勤め出してからもうすぐ2ヶ月になる。始めた頃は真夏の季節で厳しい暑さが続いていたが、今は大分落ち着いてきていて夜は肌寒く、秋の季節がもうそこまでやってきているのをその身で感じた

そして今日は生徒達があの施設を卒業する最後の訓練日。これから本格的に冒険者として活動を始めることとなる

彼らに現時点で教えられる事は大方教え尽くしたので私の役目はこれで終了。あとは実戦で経験を積んで反復練習を繰り返して成長していくしかない

家を出ていこうとするとラミアスが裾を掴んで制止してきた



「我も行ってみたいぞ!」


「ごめんね、仕事だから連れていけないんだ。それに行っても退屈だと思うよ」


「むぅ〜・・・なら仕方ないな」



あれからラミアスと何度か一緒に買い物に行ったり時には皆で外食に行ったりとしていたらすっかりこの街に順応していた

冒険者のような武器を持っている人はまだ苦手なようだが、普通の人ならもう随分と平気に振る舞えるようになっていっていた

最近連れて行った孤児院では子供達と仲良くなって、次来た時には遊ぶ約束もしたみたいだ

幼い故に偏見なく目の前の事実を受け取ることができているのが功を奏しているのかもしれない

そして暫く一緒に行動することが多かったからかラミアスにはすっかり懐かれてしまい、今ではどこに行くにもついてこようとしてくるようになった

理由を告げればちゃんと家の手伝いをしながら帰りを待ってくれているので私自身もその姿にとても癒やされている



「じゃあ、行ってきます」


「お気をつけてご主人様!」


「早く帰ってくるのだぞ!」







施設に到着すると早く着きすぎてしまったようで、まだ生徒達も来ていない様子だったので時間になるまで軽く散歩でもすることにした

訓練場の方へ向かって歩いていると、何やらかけ声のようなものが聞こえてきたので声のする方へ行くとタクトが1人素振りをしていた

こちらに気づく素振りもなく、一振りする度に滝のようにかいた汗を飛ばしていた

私が来る時間よりもずっと前から来て素振りを行っていたようだ


ここに来た時は力みまくりで剣筋がブレていたりしていたが、今では余分な力が抜けていて綺麗な線を描けるようになっていた

動きのキレも増していて剣術クラスの中で1番成長した生徒だ。元々向上心が人一倍あったから当然といえば当然かもしれない

私はタクトに声をかけてタオルと飲み物を差し入れした



「おはよう、最終日だけあって精が出るね」


「ん?おうあんたか。明日から本格始動だと思ったらいても立ってもいられなくてな」


「パーティの感じはどう?上手くやれてる?」


「あぁ、うちのメンバーは皆優秀だからな。たまに意見が合わなくて言い合いになるけどな」



ダンジョンでの訓練から少し経ったあたりから生徒達は各々自分の戦闘スタイルと合う人、気が合う相手等からパーティを作り始め、個人の特訓以外に連携の訓練も行っていた

これから一蓮托生となる冒険仲間だ。自分の意見もどんどん言って時には喧嘩をし、時には切磋琢磨しながらお互いを高め合っていけばいい

他の生徒が来るまでの間そんな他愛のない話をしていると、突如タクトが真剣な面持ちになり私に向かって頭を下げてきた



「頼みがある。最後にアンタの本気の一撃を受けさせてくれないか?」


「私の一撃を受けたいの?戦うんじゃなくて?」


「悔しいが今の俺じゃまだまだアンタとまともに打ち合う事はできないからな。だからせめて本気の一撃をこの体で味わいたいんだ」



確かにタクトは強くなったし将来性は感じるが、今のところまだ駆け出し冒険者の域から出ていない

私と試合したところで軽く流しておしまいだろうな

だからせめて本気の一撃を受けたいと・・・それが今後の糧になるというのなら付き合ってあげよう

タクトの頼みを私は了承して絶対動かないよう予め伝えておき、位置につかせて剣を構えさせた



「それじゃあ行くよ」


「あぁ、頼む」



剣を抜いて1度深呼吸をし、前方で構えて待つタクトの剣に狙いを定めて踏み込み、一瞬で目の前まで距離を詰めて大きく振りかぶった渾身の一撃を放った

剣と剣が激しくぶつかり合い、骨の軋むような音が聞こえてくる

私の一撃をタクトは鼻血を垂らしながらなんとか踏ん張っていたが、先に剣の方が限界を迎えてしまい真っ二つに折れてしまった



「ったぁ・・・手がジンジンして上手く力が入らねぇ・・・ミノタウロスなんかよりずっとやばかったぜ」


「それ、間違っても私以外の女の子に言っちゃだめだからね?殺されるから」


「剣はダメになっちまったが・・・でもそれ以上の価値はあった。サンキューな」


「あぁ剣についてなら問題ないよ。っと、ちょうど他の生徒も来始めたみたいだしその話はまたあとでね」



タクトを回復魔法で癒し終える頃には全員集まり終えていたので、皆の前に出てこの最終日に合わせて作っていたある物を渡すことにした

私は"空間保管(アイテムストレージ)"から生徒の人数分ある武器を取り出した

生徒達の武器は安価なもので訓練で酷使していたこともあって刃こぼれ等ガタがきていたので、サプライズで今まで使っていた物より質のいい武器を作ってあげようと考えていたのだ

生徒1人1人にそれを配っていくと、感謝の言葉をくれる生徒や中には涙する生徒までいてサプライズは大成功に終わった

訓練中に武器の感触を確かめてもらったが、全員に満足してもらえたようなので一安心だ

最終日はいつもより長く、日が完全に落ちるギリギリまで訓練に励んで終わりを迎えた。別れ際泣いて抱きついてくる女生徒もいて名残惜しさも感じたが、最後は皆に笑顔で別れを告げた



「皆の活躍が聞けるのを楽しみにしてるよ。頑張ってね」


「「はい!ありがとうございました!」」


「見てろよ!絶対アンタより強くなって見せるからな!」



こうして約2ヶ月に及ぶ新人冒険者の育成が終了した

人にものを教えるのは中々大変だったが生徒達が成長していく姿は見ていて楽しかった

次の生徒が入ってくるまで暫くは休みだ。久々に冒険者として依頼を受けるのもいいしお金もそれなりに貯まったから皆でどこか遊びに行くのもいいかもしれない

今後の予定を考えながら私は帰路についた



読んでいただきありがとうございました!

番外編で生徒達の話も書けたら書こうと思います!

「よかった」「続きが気になる」など思っていただけたら幸いです

少しでも気に入ってくれた方ブクマ、評価、感想等々頂けると大変励みになります

次話投稿時間はTwitterの方で告知させて頂きます。よろしくお願いします!

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