6話 同居することになりました
フィオナと街へ戻りギルドで報酬を貰った後、俺の部屋へと案内した
どこかで食事でもしながらとも思ったが、落ち着ける場所の方がいいだろうと思い自室を選んだ
女性寮は人数が少ない分一部屋が広く作られていてキッチン、お風呂等の設備が備え付けられているのでこうして人を招き入れる事もできる
部屋へと招き入れてテーブルに座らせ、お気に入りの茶葉で淹れた紅茶を差し出す
フィオナは俺の部屋に入ってからずっとキョロキョロしていたので聞いてみた
「どうかした?」
「いえ、なんというかエレナさんの部屋って女の子っぽくないですね」
部屋に置いてあるのは元からあった家具に父から貰った装備であとは服数着のみ
服も男物みたいなものばかりで当然スカートなんて一着も持っていない
この寮に長居する予定はないので必要最低限の荷物で生活していた
「私の事はいいから。相談したいことがあるんでしょ?というかどうして私?」
「エレナさんがギルドマスターに勝っちゃう位強いって聞きました。そんなに強い人なら何か知ってるかなって。それに女性なので話しやすいですし」
この子にもその話が伝わっているのか・・・一体どこまで広まっているんだ
フィオナが話を続ける
「それで相談というのはですね。実は数日前から突然魔法が使えなくなってしまったんです・・・」
魔法が突然使えなく・・・か。なるほどそれで試験に落ちてしまったのか
フィオナの言う症状って俺が知る限りあれしか思いつかない
ちょっと調べてみるか
「フィオナ、ちょっとごめんね」
俺はフィオナの背後へと回り背中に手を当て、魔力の流れを確認した
相手に意識を集中させることによって魔力の流れを見ることが出来るのだ
フィオナの体を診ていくと予想していた通り魔力回路に乱れが生じていた
魔力回路とは魔法を発動する際に魔力が通る血管のような役割をしていて、それに乱れがあると上手く魔法が発動できなくなったり最悪の場合暴発する可能性もあるのだ
魔力回路は普段無意識で使っているものなので詳しく知る者は少なく、こういった症状が発症しても原因が分からないというケースが多い
俺も受け売りの知識なので熟知しているわけではないが、魔力回路が乱れているだけなら俺でも治す事はできるはずだ
「フィオナ、ちょっと服脱いでもらっていい?」
「えっ!私達出会ったばかりなのにそんないきなり・・・」
「変な妄想しないでくれる?多分治せると思うからそのままじっとしてて」
「本当ですか!お願いします!」
魔力回路が乱れている場合は魔力を流し込んで調整してあげればいい
少しコツはいるがこの程度ならすぐ済むだろう
背中に手を当てたまま意識をフィオナに集中し、魔力回路が乱れている箇所を見つけては慎重に魔力を流して整えていく
その間フィオナは耳をピクピクさせたり体をモジモジさせていた
他人の魔力が入り込んでくると微細な電流のようなものが体に走るのできっとくすぐったいのだろう
「よし終わった。ちょっと試してみて」
「もう終わったんですか?」
ものの数分で治療が終わり、半信半疑なままフィオナが魔法を発動すると手のひらに火の玉が現れた
よし、魔力回路の調整はしっかりと出来たみたいだな
無事治った事を確認できるとフィオナは大喜びして俺に抱きついてきた
「凄いですエレナさん!ありがとうございます!」
「治ってよかったね」
「これで次の試験はいけると思います!あっ・・・でもそれまでのお金がないんでした。どうしましょう・・・」
そういえばもうお金が全然ないと言っていたな
森の中で暮らしているエルフは山菜やキノコといったもの採って自給自足の生活をしている為、お金を使う習慣がないから元々大して所持していなかったのだろう
すると今度は上目遣いで俺に頼み込んできた
「あのぉ、暫くここに置いてもらうことってできないでしょうか・・・?」
「えぇ・・・嫌だよー」
「お願いします!周りは知らない人ばかりでエレナさんが初めてできたお友達なんですよー!」
俺が拒否するとフィオナは目に大粒の涙を浮かべてすがりついてきた
一方俺はというと、友達という単語に打ち震えていた
知人や仲間は周りにいたが今まで友達という存在がいなかった俺にとってフィオナの何の気なしに言った言葉が無性に嬉しかった
意外とチョロいなぁ俺・・・それにもう乗りかかった船か
俺は管理人さんに事情を話してお願いすると、快く許可してくれたのでフィオナと暫く同居する形となった
「では無事許可も下りたので記念に私が料理を作らせていただきますね!」
そう言うとフィオナはキッチンに行き、保管してある材料を使って料理をし始めた
なんだか不安しかないけど・・・俺も料理が得意なわけじゃないから大人しく見守っていよう
しかし予想に反してフィオナは料理の手際が良く、次々と出来上がった料理がテーブルに並べられていった
見た目は美味しそうだけど肝心の味はどうだろうか
「頂きます・・・お、美味しい!」
「よかったですー!私の数少ない特技ですからね!」
自分で数少ないって言うのはどうかと思うが・・・
でも本当に美味しい。大した食材はなかったはずなのにこれだけ美味しい料理ができるなんて
材料費2人分で計算しても外で食事するより断然安上がりだ
正直毎日でもお願いしたい
「これからは私が食事を用意しますからね!」
「お、お願いします。食費は私が出すから」
まるで俺の心を読んでいたかのようだ・・・でもお陰で食事面は暫く充実するな
食後は自分用に摘んで乾燥させた薬草を浴槽に入れてハーブ風呂にして入った
ポーション程ではないが体の疲労を取り除いてくれるので昔から愛用している
俺がゆっくり浸かっているとフィオナが扉を開けて入ってきた
「エレナさん背中を洗わせて下さい♪」
「ちょっ、流石に狭いって」
「まぁまぁ、そう言わずに♪」
押しに負けて仕方なく背中を預ける。なんだかフィオナのペースに流されていくなぁ・・・
タオルで石鹸を泡立たせて背中を優しく擦る。そこまではいいのだが・・・身体を動かす度柔らかい感触がダイレクトに背中に当たっていた
本来であれば喜ぶべきシチュエーションなんだろうが、最近はなんだか女性の体を見てもそういった感情は湧かなくなってきている
もしかしたら身体だけでなく心も段々と女性の方へと変わっていってるのかもしれない
惜しいようなこれで良かったような複雑な気持ちだ
「そういえばさ、フィオナはどうしてこの街にやってきたの?」
「そうですねぇ。私、閉鎖的な里よりも外の世界で色んな経験をして楽しく暮らしたかったんですよ。だから里に帰る羽目にならずに済んで本当に良かったです」
確かにエルフの里はのどかではあるけど刺激が少ないからなぁ
目的自体は違えど、どことなく俺と似ているかも
まだ出会ったばかりで知らない事の方が多いけど・・・いいかもな
お風呂から上がってから夜が更けるまで談笑し、同じベッドで一夜を共にした
読んでいただきありがとうございます
次回更新は金曜日19時です。よろしくお願いします!
「よかった」「続きが気になる」など思っていただけたら幸いです