59話 一緒にお買い物
ラミアスが家に来てから数日。あの日から彼女は家で生活を続けている
彼女は意外にも律儀な子だった。口はアレだが何かしてもらったらお返しをしないと気が済まない性格なようで、家事の手伝いをよくしてくれていた
まぁちょくちょく失敗しては涙目になっている・・・私が修復すればいいだけだから問題ないが
魔王の娘だからもっとふんぞり返って威張り散らすのかと思ったが、街にいる子供達となんら変わらない普通の可愛らしい女の子だ
「今日は講師の仕事も休みで丸1日空いてるしちょうど食材が無くなりかけてるみたいだから買い出しに行ってくるかなぁ」
「でしたらお供しますよご主人様!」
「そうだなぁ・・・いや、今日はラミアスと一緒に行こうかな」
「我とか・・・?」
ここに来て以降、家に籠もりっぱなしでまだ1度も敷地内から出ていないし流石に退屈してきただろうと思いラミアスを誘ってみる
人間がたくさんいる所を歩くのは彼女にとって相当な覚悟がいるだろうが、このままずっと家の中にいてもラミアスの為にならない
勿論強制はしないが今の人間は怖くないということを教えてあげたい
「人間がたくさんいる場所・・・この前は夜だったから人が少なめだったが昼間はたくさんいるんだよな・・・」
「難しかったら無理しなくていいよ」
「んー・・・いや!行こう!」
ラミアスはしばし悩んだ末行く事を決意してくれた
フレイヤも行きたがっていたが、フレイヤはよくラミアスをからかって遊んでいて買い物にも支障が出そうだから留守番を言い渡して私とラミアスの2人で買い出しに出掛けた
お店に行くまでの間ラミアスはかなり緊張している様子で隣を歩いていたので、私は手を差し伸べてみた
「手でも繋ぐ?」
「なっ!ば、馬鹿にするな!手など繋がずとも平気だ!」
「そう?繋ぎたくなったらいつでも言ってね。守ってあげるから」
ラミアスがここまで緊張する理由は自身の強さも関係していると思う
彼女は魔王の娘ではあるが、魔王のような絶対的な力を持ち合わせていない
魔族の子供は父親か母親どちらかの能力を遺伝として授かるのだが、ラミアスは母親の方に似たようで残念ながら戦闘に使えるような能力を授かることはなかった
それでもラミアスを生かそうとする配下がいたのだから強さを持ち合わせていなくてもきっと慕われていたんだろうな
街の中心に到着すると、ラミアスは人の多さに身を震わせていた
「こ、これは凄い人だかりだな」
「今からあの人混みに入るよ。大丈夫?」
「あ、あぁ・・・しかし本当に角を隠さなくてもよいのか?」
「大丈夫だよ。ここには亜人もいるから浮くことはないよ」
レジティアは少ない方だが亜人も生活している
中には全身獣の姿をした獣人もいるのだからラミアスの角の事を気にする人なんていない
ラミアスもそのあたりは理解しているんだろうが、そう直ぐに切り替えられるものではないんだろう
「エ、エレナよ。やはり手を貸してくれないか・・・?」
「いいよ、はい」
先程は断られたがやはり不安が拭い切れないようで、自ら手を差し出してきたからその手を取り人混みの中へと入っていった
握っていると震えが伝わってきたので離れないようしっかりと握ってあげ、お店へと向かった
買い物をしている途中ラミアスは私の後ろにピッタリとくっついて離れなかった
お店の人と話している時も家にいる時はまるで別人の様に大人しくしていて、買い物が終わるのをソワソワしながら待っていた
「よしっ、ここでの買い物は終わったから次はここのお店に行って最後にこのお店に行けばいいか」
「なぁエレナ、あれはなんだ?」
次のお店へ行こうと踏み出そうとするとラミアスが私を引き止めてきた
ラミアスが指をさしていたのは氷菓子のお店
昔は氷菓子なんてなかったからな。そもそも魔族はあまりこういった凝った物は作らないからきっと珍しいのだろう
「あれはジェラートっていう氷のお菓子だよ。食べてみる?」
「いいのか!」
「皆には内緒ね。すみません、2つ下さい」
「あいよっ!おっ、可愛い嬢ちゃんだねぇ。姉妹でお出かけかい?」
姉妹?
あぁ、髪の色でそう思われたのか。白髪は珍しいからな
カップに入れてもらったジェラートをラミアスに渡すと恐る恐るスプーンで掬ってそれを口に運んだ
「なんだこれは!冷たくて甘い!こんなに美味しものは初めて食べたぞ!」
一口食べた途端ラミアスは目を輝かせて一口また一口と口に入れていった
ここに来て初めて見せたラミアスの笑顔。それ程気に入ってくれたようだ
「はっはっ!ジェラートを食べるのは初めてかいお嬢ちゃん。ほらっ、美味しそうに食べてくれたお礼だ」
「いいのか!感謝するぞ!」
お店の人がラミアスの食べっぷりを気に入ってカップにもう1つジェラートを追加してくれたのでそれを食べながら残りの買い物を済ませる為にお店へと向かった
買い出しを終えた後はラミアスが気になったお店を回る事にした
ラミアスはどれも美味しそうに食べるからお店の人にも気に入られ、まけてくれたりおまけをつけてくれたりとラミアス様様だ
口に食べカスを付けていたので拭いてあげたりもした。なんだか本当に妹が出来たみたいで楽しかった
帰宅途中、私はラミアスに今日の感想を聞いてみた
「どうだった?楽しかった?」
「うむ、我が父に聞いていた人間とは大分印象が違っていた。特にジェラート!あれは美味かった♪」
「また買い出し行く時に食べよっか」
「うむ!」
どうやら人間に対する恐怖心は多少なりとも緩和されたようだ
何度か一緒に買い物して慣らしていけばそのうち1人で買い出しできるようになるかもな
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