57話 魔王再誕?
慰労会を終えた私達は家へと帰ってきた。結局あの謎のセリフは最後まで言わずに済んだ
フィオナのあのセリフは、私達が以前接客の仕事をしたお店に1人で働きに行っていた際に店長さんに教えてもらったらしい
なんでもあれを可愛い女の子にやってもらうと美味しさが増すとかなんとか・・・
フレイヤに至っては逆にリヴィアさんにお酒を注がせ、女給が主人に注いでもらうという構図が出来ていた
その後も色々あったがまぁ生徒達も盛り上がっていたし余興ということで今回のことは目を瞑るとしよう
「シエルは・・・その服気に入ったの?」
「はい、動きやすいし頂けるとのことでしたので頂戴してきました」
家の中で着る分にはいいが外に出る時は着ていかないようあとでしっかり言っておかないとな
そんな格好でシエルが街の中を歩いていたらと思うとその後の展開が用意に想像できる
玄関の前に到着し鍵を持ってドアノブに手をかけると、鍵を掛けていたはずのドアノブが回った
「あれ、鍵が開いてる?閉めてきたはずだよね?」
「はい、出る際に鍵はしっかりと掛けました。記録にも残っています」
変だな。シエルが鍵を閉め忘れるなんて考えられないしな・・・空き巣か?
私達がいない隙を狙って盗みに入った輩がいたのか。家に盗むようなものなんて・・・あ、剣舞祭の時に貰ったドワーフの剣があったな
私達が出るのを見計らって侵入したのだとしたら盗人はもう家にいない可能性が高いな。とにかく中を様子を確認しなくては
玄関の扉をゆっくりと開け、息を殺して家の中を歩いていく
リビングの方まで辿り着いて辺りを見回すが、特に荒らされた形跡は見当たらない
懸念していたドワーフの剣もしっかりと飾られたままだ。あの剣が盗まれていないということは盗人が入ったというのは勘違いだったようだ
杞憂に終わったのならそれでいいが・・・なら何故鍵は開いてたんだろうか
警戒を解いて一息つこうとその時、ソファの方から微かに声が聞こえてきた
「ん・・・んぅ〜」
再び柄に手をかけて警戒に入る
声のした方へゆっくり近づいていき覗いてみると、そこには私と同じ髪色をしたなんとも可愛らしい少女が気持ちよさそうに眠っていた
「この子が犯人さんですか。私達に用でもあったんでしょうか」
「さぁ・・・こんな子街で見かけたことないけど誰かの知り合い?」
私の問いに全員首を横に振る
孤児院にもこんな子はいなかったしどこかの家の子で迷子になっちゃったのかな
よく見ると服も汚れているし所々破けてもいる
もう夜も更けっているし親御さんが心配して探しているに違いない
気持ちよさそうに寝ていて起こすのは忍びないがこの子から話を聞かなくては
「おーい、起きてくれるかな?」
「ん~・・・」
ぐっすりと眠っていて揺すっても起きる様子はない
もう一度肩を揺する。すると少女が寝返りを打ってこちらに顔を向けてきた
その時に髪が乱れ、そこから山羊のような黒く小さい角が現れた
この子亜人だったのか。しかしこの角、どこかで見た覚えが・・・
「ん・・・ふぁ~」
「あっ、起きましたね。おはようございます」
「んー?」
ようやく起きた少女はまだ状況が飲み込めていないのか、目を擦りながら家の中を見渡していた
そして意識がはっきりしてくると、ここにやってきた目的を思い出したのか急いで飛び起きてきた
「しまった!こっそり忍び込んだのはいいが疲れて横になっていたらつい眠ってしまった!」
「ご主人様!こいつやっぱり泥棒ですよ!焼き殺しましょう」
「ひぅっ!」
「落ち着いてフレイヤ。えっと、君は誰なのかな?どうして私達の家に侵入してたの?」
火を吹いて今にも少女を丸焼きにしようとしているフレイヤを宥め、その脅しで今にも泣きそうになっている少女に優しく問う
すると少女は私を見るなり睨むような表情へと変わった
必死に睨んでいるけど涙目でプルプル震えながらだから全く怖くない・・・
暫くして少女は口を開き私に対して衝撃的な事を喋りだした
「忘れたとは言わせないぞ!姿を変えても我の目を欺けると思うなよ!勇者エイク!」
「・・・・・・えっ?」
少女の言葉で心臓がドクンと跳ね上がる
どうしてこんな幼い子が・・・フレイヤと同じように私の魔力の反応を感じ取って来たのか?
だとしたら私の事を前世の頃から知っている者ということになる
「我は偉大なる魔王の娘、ラミアス・ボルディゴスだ!父アスタロトに変わってお前を討つ!」
「魔王の娘!?」
魔王に娘がいたなんて情報初耳だ。そんな話は誰からも聞いていない
けどあの角、初めて見た時から見覚えがあるなとは思っていた。魔王にも同じ角が確かに生えていたのを覚えている
本当に魔王の娘なら昔の私を知っていても不思議じゃないが・・・
「覚悟しろ勇者〜!」
「ご主人様!」
ラミアスは私に向かって飛びかかってきた
彼女の言葉に動揺していた私は反応が遅れる
攻撃を食らう。そう思って急いで身構えだが、ラミアスの攻撃が私の元まで辿り着くことはなかった
ラミアスは私の目の前で部屋中に響き渡るようなお腹の音を鳴らして倒れてしまった
「あぅ・・・お腹が空きすぎてもう一歩も動けない・・・」
「えーっとぉ・・・・余り物で良ければ出すけど食べる?」
「えっ!ホント!?あ、いや・・・ゴホン!し、仕方ないの。そこまで言うのなら頂いてやろう!光栄に思うがいい!」
私の誘いに疑いもせずに乗ってくるラミアス。魔王の娘、存外扱いやすいのかもしれない
一先ず彼女の話はお腹を満たさせてから聞くとしよう
読んでいただきありがとうございます!
「よかった」「続きが気になる」など思っていただけたら幸いです
少しでも気に入ってくれた方ブクマ、評価、感想等々頂けると大変励みになります!
次話投稿時間はTwitterの方で告知させて頂きます。よろしくお願いします!
※誤字訂正しました




