5話 エルフがやってきました
冒険者になってからもうすぐ一月が経つ
俺は薬草の採集や近隣に発生した魔物を倒し、順調な日々を過ごしていた
基本はパーティを組んで足りない部分を補い合うのが定石だが、俺は1人で活動している
先日の件で新人冒険者には自分達と力量の差がありすぎると思われて避けられてしまっているらしい
中堅より上は俺のような異物が突然入ってこられても連携に狂いが生じるかもしれないから誘ってくることはないだろう
負傷かなにかで欠けた時に臨時で募集とかならあるかもしれないが今のところそういったのは無い
唯一誘ってくる奴等はというと・・・
「エレナちゃ〜ん。俺達とパーティを組まないかい?」
「はぁ・・・結構です」
パーティに誘ってくる奴の大半がこういったチャラチャラしていてあからさまに下心丸出しな連中だ
曲がりなりにも女として生きてきて、男がどういう意図で声をかけてきているのかなんとなく分かるようになった
こういうパーティに入ったら何をされるか分かったもんじゃない。当然却下だ
けどパーティが組めないからといってデメリットばかりじゃない
単独だと効率は落ちてしまうがその分報酬を分配しなくて済む。何より気が楽だ
まぁ高難度の依頼を受けるつもりもないし、無理に探さず気長にやっていけばその内気が会う相手が見つかるだろう
ひと仕事終えてギルドの中にある食堂で食事をしていると、入口の方が騒がしくなり始めた
何事だとそちらに目を向けると珍しい種族がそこに立っていた
エルフだ。金髪の髪に翡翠色の眼、そしてエルフ特有の長い耳
長命で普段は森の中で自然と共に暮らしているエルフがこうして人間が住んでいる場所にやってくるのは非常に珍しい事だから皆が注目するのも無理はない
しかしこのエルフに至ってはそれだけではなかった
「おい見ろよあれ・・・」
「あぁ・・・とんでもねぇな」
男達の目線がある一点に集中する
基本エルフはスレンダーな体格の人が殆どだが、このエルフは他より発育が良く男達の視線を釘付けにしていた
当のエルフは周りの目線等気にする素振りもなく受付へと歩いていく
「あのぉすみません。冒険者になりたくて来たんですがここで合っていますか?」
「あ、はい。試験の申込みですね。こちらの用紙に記入をお願いします」
冒険者になりにきたのか。人間より魔力を多く有し、魔法の扱いに長けているエルフなら合格はまず間違いないだろう
冒険者となってくれればもしかしたら俺への注目が少しはあの子に向くはずだ。合格することを密かに祈っていよう
数日後、いつものように依頼を受けようとギルドに赴くと例のエルフを見つけた
無事冒険者になることができたのだろうと思い、受付のお姉さんとの会話に耳を傾けてみる
「あのぉ・・・次の試験はいつですか?」
「約一ヶ月後になりますね。それまではお待ちただくしかないです」
「そんなぁ・・・ここに来るまでにお金使い果たしちゃってもう一文なしですよぉ・・・」
俺は耳を疑った。この子試験に落ちたのか
体調でも崩したんだろうか?まさかエルフが試験に落ちるとは思っていなかったから驚きだ
気の毒だけど次の試験まで日銭でも稼いでなんとか凌ぐしかないだろうな
俺は落ち込むエルフの横を通り過ぎて受付のお姉さんの元へ依頼を受けに行った
「おはようございます。今日も採集の依頼をお願いします」
「あ、エレナさんおはようございます。今日も採集ですね。エレナさんが持ってくる薬草は品質が高くて助かっています。それで、昇格の件なんですが・・・」
「いやぁ、私は今の階級で満足してますから昇格は遠慮しておきます。それじゃあ行ってきます」
お姉さんの誘いを軽く流しつつ、受付で手続きを済ませて森へと向かう
最近よく昇格の話を持ちかけられる
普通の冒険者ならば昇格する為、血眼になって自ら活動しているのでわざわざギルド側から言う必要はないが俺は例外らしい
本当あの試験は失敗したな・・・
別に高階級の冒険者を目指しているワケじゃないし階級を上げると難しい依頼を任せられたりするから面倒なんだよなぁ
採集をしにギルドを出て森へと向かうエレナとすれ違ったエルフの少女は受付へと戻りお姉さんに尋ねた
「あの、あの人は?」
「あぁ、エレナさんといってあの人も一月前に冒険者になったばかりなんですが、なんとギルドマスターに勝った方なんですよ。模擬戦でですが」
「え!?そんな強い人だったんですか!」
「はい。でもあまり階級を上げる事には興味がないみたいで・・・ギルドとしては実力ある人にはどんどん上にいってもらいたいんですけどねぇ」
エルフの少女はギルドを出て颯爽と森へ駆けて行きエレナを追いかけた
街から出て少し離れた所にある森へとやってきた俺は薬草採集にとりかかる
今日探しにやってきたのは青くギザギザした葉が特徴的なオルナ草という薬草
オルナ草は木の幹のそばによく生えている比較的見つけやすい薬草で、ポーションの原料として使われる薬草なので需要が高い
それを次々と摘んで"空間保管"の魔法が付与されている小袋へと入れていく
俺は"万物創造"を使っていく内に新たな発見をした。この魔法は物だけでなく魔法まで作り出すことが出来るのだ
魔法で魔法を発動するという不思議な感覚だが、イメージする事によって全ての魔法が扱える
しかもどんなに強力な魔法を使ったとしても消費するのは万物創造を発動した魔力のみ
万物創造の魔法自体は今の俺の魔力量でも十分扱えるので非常に費用対効果が高い
魔法士であったらきっと喉から手が出る程欲しい魔法だろうな
この魔法は文字通りなんでも作り出す事ができるのだと改めて実感した
だからこそ堕落しないよう肝に銘じておこう
「よし、こんなもんかな」
薬草は取りすぎると次生えてくるのに時間がかかってしまうので適量だけ取るのが暗黙のルールだ
空間保管が付与されているこの袋に入れておけば摘みたての品質を保ったままギルドに渡す事ができる
採集の報酬はその素材の状態が良ければ良い程上がっていくので、これに入れる事によって毎回高単価の報酬を貰えていた
帰り支度を済ませて街へ帰還しようとしたが・・・流石にもう反応してもいいだろうか
俺が薬草を採集してる最中、ずっとこちらの様子を窺っている者がいた
先程のエルフの子だ
こちらに害を及ぼす気はないみたいだし気になって仕方ないから声をかけてみるとするか
「あの、私に何か用?」
「うひゃあ!?ど、どうして気づいたんですか!」
そりゃああんな顔を出していたら誰だって気づくでしょ・・・この子、ちょっと抜けているところがあるのか?
まぁそれはそれで可愛げがあるが・・・とりあえず自己紹介でもしておこう
「貴方ギルドにいた子だよね。名前は?私はエレナ」
「あ、私の名前はフィオナと言います」
「フィオナね。それでどうして隠れて私を見ていたの?」
「実は・・・エレナさんに相談したいことがありまして」
相談ってなんだろうか。女性の悩みなんて俺には答えられないぞ
でも彼女の顔を見る限りかなり深刻な感じみたいだし、話くらいは聞いてあげた方がいいだろう
フィオナの話を聞く前に薬草をギルドに渡したかったので一旦街へ戻ることにした
読んでいただきありがとうございます
次回更新は水曜日19時です。よろしくお願いします!
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