46話 地竜の怒り
ケイティから逃げ切ったあとは皆で昼食を済ませ、午後は適当にぶらぶらしながらお店を見て回った
日も傾き始めてそろそろ帰ろうと町を出て村に向かおうとしていると、山側からこちらに向かって馬を走らせてやって来る集団が見えた。よく見るとそれは朝方山へ向かったガイン達だった
今日はもうこれ以上トラブルは勘弁だと思いすれ違わないようさっさと村へ帰ろうとしたが、ガインが腕に抱えているあるものを見てしまい、思わず声をかけてしまう
「ちょっと!それってもしかして・・・」
私が呼び止めるとガインは馬を止めさせて抱えているものを得意げに見せてきた
「あぁ、地竜の卵だ。ギルドの情報通り地竜を1頭見つけてな、巣穴を見たら卵があったから呑気に眠ってる隙に取ってきてやったぜ」
普通の卵と違って表面が所々鉱石で覆われていて人間の子供くらいあるサイズ。間違いない地竜の卵だ
地竜が本当にいた事実よりこの卵の方を持ち帰って来た方がよっぽど問題だ。この馬鹿達はどれ程しか危険な事をしているか分かっていない
竜の卵は物凄い高値で取引されていて、売れば豪邸を建てられる位の金額を貰うことが出来る
その額に目が眩む者も多いが、それだけの金額で取引されるのは当然その分のリスクが高いからだ
基本温厚な地竜だけど彼らを一度怒らせると手がつけられない
ましてや育てていた卵が盗まれたなんて知ったら怒り狂って間違いなくここへ取り返しにやってくるぞ
卵にはその親だけが感知できる特別な匂いが付着されていてどこに逃げようとも地の果てまで追いかけてくる
それに先程1頭と言っていたが卵があるという事は当然だが地竜は番いで暮らしている
卵を見張っていたのは恐らく雌の方で、眠っていたのは産卵したばかりで疲れていたのかもしれない
雄の方は雌の為に食べるものでも取りに出ていたのだろう。地竜2頭にこの町が襲われたら半刻と経たずに壊滅してしまうだろう
そうなってしまう前に一刻も早く卵を返して謝罪しなければ。こんな奴等の尻拭いなんてまっぴら御免だがそれよりも町に被害を出すわけにはいかない
ガインから卵を奪い取ろうと魔法を発動しようとしたその瞬間、森の奥から大地を揺らして目の前に立ちはだかる木々の事などお構いなしになぎ倒してこちらに一直線猛スピードで駆けてくる2頭の地竜が姿を現した
遅かった・・・町に障壁を張っておきたかったが想定より早くやって来てしまった
「貴様らか。大事な子供を取っていった盗人は」
声色からして分かる。完全に殺る気だ
雌の方もここからでも伝わる殺気をビンビンに放っている。こうなってはもう対話を申し込んでも聞き入れてもらうのは難しいかもしれないな
町の方は・・・よし、まだこちらの様子は誰にも気づかれていないな。幸いなことに地竜が現れたのは町から見えづらい場所なようだ
けど町に出入りする人達もいるから時間は限られている。早いところ和解しなくては
「この卵は返します!なので少しでいいから話を・・・」
「黙れ!盗人の話など誰が聞くか!子供を返してもらったあとはこの町を何もない平地に変えてやる。我らの逆鱗に触れたこと後悔するがいい!」
ダメ元で試みてみたがやっぱり無理か。この状況じゃ仕方ないにしてもこっちまで盗人扱いされちゃったじゃないか。無関係なのに・・・
あちらに非はないので心苦しいがここまできたらやるしかないようだ。催眠系の魔法で眠らせたいところだが、竜種クラスに使うとなるとある程度ダメージを与えた状態でなければ効果は発揮されない
あとで回復するので許して下さい・・・
町の住民がこの騒ぎを聞きつけてやって来ないようにこの辺り一帯に私達の認識を阻害させる魔法を発動し、更に音を遮断させる魔法に人除けの魔法を同時に展開させる
「フレイヤ、片方任せていい?こっちは雄の方を対処するから雌の方をお願い。フィオナは私の後方支援をお願い!シエルは卵を見てて」
「任せて下さい!」「分かりました!」
「ご武運を」
戦闘態勢に入り相手の攻撃に備えようとしていると、隣にいたガインがどういうつもりなのかこちらの動きを止めるように前に出てきた。嫌な予感しかしない・・・
「あいつは俺の獲物だ。ここであの地竜を倒せば俺の名は王都だけでなく国中に広まるだろうからな」
「お、おう!やっちゃってくださいガインさん!」
・・・底なしの馬鹿なのかこの男は。こんな時にまで自分の事しか考えてないなんてとことんどうしようもないな
自身との実力差を計れないような奴が戦っていい相手じゃないぞ
仲間に煽られ単騎で突っ込んでいくガインはハルバードを立ち尽くす地竜の脚目がけて目一杯ぶつけた
「何っ!?」
「なんだそれは。痛くも痒くもないぞ」
「ぐへっ!」
「ガインさーん!」
地竜に攻撃を食らわせるもガインの一撃は通るはずもなく、ハルバードもヒビが入り粉砕されてしまった
そこへすかさず地竜が強烈な尾の一撃を食らわせてガインを吹き飛ばした。火に油を注ぐ行為にすらなってないじゃないか・・・
今ので確実に骨は数本逝っただろう。実力はともかく比較的まともな装備のお陰で即死は免れたようだし運が良ければ死にはしないはずだ
というか死なれたら困る。今回のことはギルドに報告してしっかり処分してもらわなければ。少しはお灸を据えてやらないとこいつは懲りないだろう
「次は貴様らだ。覚悟しろ」
「来るよ!」
今度は狙いをこちらに定めて幾度目かの助走後、凄まじい速度で2頭の地竜が攻撃を仕掛けてくる
フレイヤは本来の竜の姿へと変わり、フィオナに身体強化の魔法をかけてもらった私は剣を構えそれぞれ地竜を迎え撃った
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