44話 朝からの災難
翌朝、私達は買い出しも兼ねて町へと出かけた
町ではレジティアから来たと思われる冒険者達が数組程だが歩いているのを見かけた。ここは他の村や町と比べて魔物や害獣の被害が少ないのでギルドに依頼する件数も少ない
私が村にいた頃、よく魔法と剣術の訓練の為にこっそり森へ入っては練習台として魔物や害獣を倒していった
そのお陰なのか魔物達は森の奥へと逃げていったのでこの辺りの農作物が荒らされる被害は激減した
また増えてきているようなら保存食ついでに狩りにでも行こうかと思ったが、今回は帰省で来ているだけだし他の冒険者もいることなのでここは任せることにしよう
大通りを進んでいって路地に入りその道抜けると目の前には市場が現れてくる
普段はなんの変哲もないただの広場だが、週に何度か行商人が運んできた食料品や洋服、装飾品等が並べられて屋台も出る為、町の人達が朝から集まってきて賑やかな場所へと姿を変える
普段あまり見かけない珍しい物が出回っていたりする時もあるので見て回るだけでも暇を潰すことができる場所だ
「今日はここで朝食にしようか」
「お店がたくさんで色々目移りしちゃいますねぇ」
様々な料理が立ち並んでいる屋台を見て回り、各々好きな物を購入して席と移動した
空いている席を見つけてそこに料理を置こうとしたその時、同じ席を利用しようしていた相手と鉢合ってしまった
相手の方が少し早かったのでここは引き下がって他の席を探そうとすると、今度はその相手が「ゲッ・・・」という言葉を発してきたのでなんだと思い相手の顔を見る
その顔を見てこちらも思わず「ゲッ・・・」と同じ言葉が出てしてまった
私の前にいたのは以前剣舞祭で戦ったガインとその仲間達
お互いの目が合った瞬間、嫌な奴に出会ってしまったという表情を浮かべた
「貴方は確か剣舞祭の時エレナさんにズルまでしたのに無様に負けた・・・誰でしたっけ?」
「ガインさんだ!お前等より上の階級なんだから名前位覚えてろ!」
「あぁ、思い出した。あのしょうもない奴か」
「なんだとお前〜!」
当の本人達を置き去りにしてフィオナ、フレイヤとあちら側の仲間が言い合いを始め、周りの目線がこちらに集中する
楽しい朝食を迎えられると思ったのに・・・台無しになってしまったではないか
それにしても前々から気になっていたがこの男の名前、父さんの名前とそっくりだから嫌なんだよなぁ・・・性格は似ても似つかないが
段々と人が集まってきてこのままでは収拾つかなくなってしまうので2人を宥める
あちらもガインが叱咤したことで冷静さを取り戻しようやく言い争いが収まった
シエルはこの件に関して無関係だということで終始傍観者に徹していた
剣舞祭の一件に関して許したつもりはないが、結果的にこちらが勝ったので特段怒っているわけではない
お互いまだ睨みを利かせているが、これ以上事を荒立てるような真似をする様子はなさそうなので私はガインに何故王都からかなり離れたこの町にわざわざやってきたのか尋ねてみた
「ここには何をしに来たんですか。作物を荒らす魔物でも狩りにきたんですか?」
「はっ、そんなしょっぱい依頼を受けるわけないだろ。俺らは別の依頼でやってきたんだ」
「別の依頼?」
ガインから聞けたのは1つだけ。町から少し離れた場所にある山に地竜が住み着き始めたとギルドに報告が来たのでその事実確認としてやってきたそうだ
地竜とは四足歩行の魔物で地中や洞窟等の暗い場所を好んで住処にし、食べる物が主に岩や鉱石で自身の鱗1枚1枚が硬い鉱石で出来ている
食べた鉱石を消化した後体内で特殊な鉱石へと変質させて鱗となる。生半可な剣では傷をつけることはおろか、逆に剣が折られてしまう程の硬度を誇っている
「なんだ、あの土竜蜥蜴のことか」
フレイヤが言う土竜蜥蜴とは竜種が使う地竜に対しての渾名
地竜は他の竜種と違って翼がない。始めの頃は他の竜種と同じように翼があったと聞くが、住処にする場所が場所なのでそのうち不必要となり無くなっていったそうだ
竜種でありながら空が飛べないと馬鹿にされている為、他の竜種からは格下扱いらしい
小馬鹿にしているような渾名だが、当の地竜は温厚な性格でそんな事は微塵も気にしていないと以前フレイヤが出会って話した地竜がそう言っていたと聞く
とはいえ竜は竜だ。この町に住んでいる人達の様子を見る限りまだその事は広まっていないようだが、近くに竜がいるなんて知ったら気が気でないだろう
人間に対しても対話に応じてくれると思うので、もし本当にあの山にいるようならどうにか住処を変えてもらえないかと交渉してみるのも手かもしれないな
「行くぞお前ら。ここじゃゆっくり朝飯も食べれやしないからな」
「う、うっす!」
そう言ってガイン達は料理を持って別のテーブルへと移動していった
「全く朝から嫌な顔を見ちゃいましたね。さっ、気を取り直して朝ご飯にしましょう」
「そうだね、冷めちゃうから早く食べよう」
「いただきまーす!」
「頂きます」
朝から大変な目にあったが、屋台で購入した美味しいご飯のお陰で皆の機嫌をすっかり元通り。朝食を済ませた後は買い出しに行くお店が開くまでの時間、市場で色々な物を見て回って余暇を過ごした
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