41話 家、快適にします
ニクスコングのボスに住処である洞窟に案内され、私達は今シュベルスト山脈を登っている
耐寒魔法の効果が切れそうだったので再度かけ直す。1度や2度なら問題ないが多用すると効果が弱まるようなので早いところ目的のフレイムメタルを手に入れて戻らなくては
ここまで来ると雪が膝の辺りまで積もっているのでかなり歩きづらいのだが、ボスが大きい手と持ち前の力で雪かきをして歩きやすくしてくれたお陰で楽々と進むことができた
それから暫く歩き、山の中腹の急勾配な場所まで来たところでボスが立ち止まった
様子を見るにどうやら目的地に到着したようだが雪に覆われていて洞窟は見当たらない
しばし周りを見渡した後、ボスが突然雪を掘り出した
するとそこから洞窟が現れた。雪のせいで埋もれて隠れてしまっていたのか
「ここが俺らが使っている洞窟です」
大きい体なうえに群れで使っているということもあって中はかなり広そうだ
明かりを灯してボスを先頭に洞窟の中へと進んでいく。その道すがら私は気になっていたことをボスに問いかけてみた
「そういえば今更だけどいつ人間の言葉を覚えたの?かなり達者みたいだけど」
「それはですね、話せば長くなってしまうんですが・・・」
ボスは幼い頃群れと逸れ仲間を探しているうちに他の魔物に襲われ、このシュベルスト山脈へと逃げるように来てしまい道も分からず途方に暮れていたところに1人の人間と出会ったという
その人間は自分を群れの元へと帰る手伝いをしてくれ、言葉はその際に色々教えてくれたそうだ
元々ボスは他の仲間より知能が高かったようでその人が教えてくれた言葉をどんどん吸収していき、今のようにペラペラと喋ることができるようになったらしい
魔物を助けたり言葉を教えたりするなんて変わった人もいるもんだなぁ。その魔物と話したり案内してもらったりしている私も大概か・・・
「あっ、着きました。ここが俺らの住処です」
話をしているうちにどうやら到着したようだ
その場所は大きな空洞になっていてボスの仲間達が全員入っても余裕がある程の広さがあった。地面の所々には枯れ草を集めて作られたベッドのようなものも置かれていた
これだけ広々としている場所なら作業もしやすい。早速取りかかるとしよう
私は掘っては駄目な場所がないかボスに尋ねた
「好きに掘ってもらって大丈夫ですよ」
自由にして構わないという事なので魔法で2人分のツルハシを作り出し早速掘り始める
一気に掘り起こす魔法もあるが、それだと誤ってフレイムメタルごといってしまいそうなのでこうして地道に掘っていくことにした
するとものの数分で硬い感触がツルハシから伝わり、お目当てのフレイムメタルが出てきた
「ご主人様~こっちからも出てきましたよ~」
「よし、どんどん掘り起こしていこう」
フレイヤと共に引き続き掘っていくとフレイムメタルが次々と出てくる
どうやらここはフレイムメタルができやすい環境みたいだ
この洞窟にやってきて正解だったな
2人で掘っては取り掘っては取りをくりかえしていると途中からボスも手伝ってくれ、更にその仲間もボスの指示で動き出してくれたお陰であっという間にフレイムメタルの山が出来上がっていき、大幅な時間短縮で目標の数に到達することができた
これだけあれば今年使う分は十分確保できたといえるだろう
「お陰でたくさん手に入れることが出来たよ、ありがとう」
「これくらいお安い御用です」
「ギャオギャオ!」
なんと言っているかは分からないが、自分達のボスが認めた相手だからと動いてくれたこのコング達にも感謝をしなければな
私はお礼として手伝ってくれたコング達に街で買っておいた食料をあげることにした
魔物といえどタダ働きさせるのは忍びない。お金なんて使わないだろうし見たところ食事もまだなようだからこれが一番喜ばれるはずだ
予想通り彼らは私が取り出した食料を凝視し、自分達にくれたのだと分かると手を叩いて喜んでくれていた
全ての目的を達成した私達は洞窟を出てコング達に別れを告げた
「それではお気をつけて。食料ありがとうございました」
「こちらこそありがとうね。町にいる人達にはこっちでちゃんと説明しておくから」
ボスにそう言い残して私達は町へと足を向けた
町に到着したら町長に今日の事を説明する為町長の自宅を訪ねる
幸いにも町長は私のことを知っていたようで、すんなりと家にあげてくれてボス達のことも受け入れてくれた
そもそも剣も持てない町の人達が山に登るような真似はしないので、お互いが不干渉であれば何も問題は起こることはないだろう
去り際には町長に10歳になる孫息子さんを紹介されて縁談をしつこく勧められたので軽くあしらって逃げ、最後にお世話になった宿の女将さんに挨拶を済まして私達は転移門でレジティアへと帰還した
「それにしてもご主人様、依頼とは別にいくつか掘り起こしましたけどそれは何に使うんですか?」
「帰ってからのお楽しみかな。まだ上手く出来るかも分からないし」
ギルドに報告と採掘したフレイムメタルを渡して報酬を貰った後は家へと戻り、フレイムメタルを使って制作を始めた
私が作ろうとしているのは涼しい風を作り出して部屋を涼しくしてくれる冷風機
以前から送風機はあったが、それでは風が生暖かいままで夏場に使うにはもうひと工夫必要だった
そこでフレイムメタルと風を生み出す魔力結晶を配合させれば涼しい風を生み出すことが出来るのではないかと考えた
結果は見事成功。ひんやりとした心地よい風が発生し、家の中の温度が段々と下がっていき快適な空間にすることができた
「はぁ~涼しいですぅ・・・帰ってきたら部屋がひんやりしてたので驚きました〜。これがあれば夜もぐっすり寝ることが出来ますねぇ♪」
「お疲れ様でしたエレナ様、フレイヤ様」
「ふぅ・・・これでこの夏はなんとかなりそうだよ」
依頼先で変わった出会いはあったものの、ボス達のお陰でつつがなく終えることもでき、本来の目的も成功し家がより快適になって今回の仕事は大成功と言っていいだろう
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