39話 フレイヤ、2人の時間を満喫する
フィオナとシエルの2人に留守番を任せ、私達は今北の大地にあるシュベルスト山脈へと向かっている
今回もフレイヤに飛んでもらい空から目的地を目指す
ただ以前よりも距離がある為、途中で通る町で一晩過ごして翌日シュベルスト山脈へと向かうことに決めた
町へと向かっている最中、フレイヤは鼻歌交じりでとても機嫌がよかった
「フレイヤなんだかいつもより上機嫌じゃない?」
「ふふふっ♪ご主人様と2人きりになれたのが嬉しいのです」
それでか。言われてみれば確かにフレイヤと出会う前には既にフィオナがいたし、仕事をする時も基本は単独か3人で行うかのどちらかだったからこんな風に2人で旅をするのは初めてだ
昔はよくこうして世界中を飛び回っていたのを思い出すなぁ。まぁその先に待っていたのは血みどろの戦場ばかりだったけど・・・
休憩を挟みながら移動を続けて半日程が経過したところで今日の目的地としていた"コルト"という小さな町が見えてきたので、竜が襲撃してきたと誤解されないように町から離れた場所に降りてそこから徒歩で町を目指した
町があるその先には私達が目指しているシュベルスト山脈のそびえ立つ姿が見えていた
この辺りはまだ天候に左右される場所なのか雪は降っていないようだが、もう少し進んだらきっと辺り一面が雪で覆われていることだろう
それでもここはレジティアより標高が高いので気温も低く、吐く息が白くなる
「結構寒くなってきたね。フレイヤは大丈夫?」
「この位でしたら問題ありません」
今のところは問題ないようだがこれから日が沈んでいくにつれてどんどん気温も下がっていく
日が出ているうちに泊まれる場所を探すとしよう
宿を探しに町の中へと進んでいくととふくよかな体型をした女性と目が合い、こちらに声をかけてきた
「あんた達見ない顔だね。行商人・・・ではなさそうだけど、どこから来たんだい?」
女性はジロジロと私の腰に差している剣を見てそう尋ねてくる
滅多にやって来ない冒険者のことはあまり見慣れていないのだろうか
門にいた衛兵も珍しい顔して対応していたしな
私は冒険者でシュベルスト山脈に採掘の依頼でこの町に寄った事を説明すると女性はすんなり受け入れてくれた
「はぁ〜。レジティアの街からこんな田舎までよく来たねぇ!という事は今晩の宿を探しているのかい?」
「はい。どこかいい場所はありますか?」
「ならちょうどよかったね。私はこの町で宿の女将をやってるんだ。よければ家に来なさいな」
声をかけてきた女性はどうやらこの町で宿をやっている人のようだ
探す手間が省けてよかった。私達は二つ返事で女将さんの宿に泊まることを決め、宿までの案内を頼んだ
道中通りすがる町の人達からも物珍しい目を向けられていた
だがこの程度視線、レジティアで向けられるものに比べればどうということはない
この町までは私のことは広まっていないのか、剣を見ても特に反応を示さない。それよりも隣で尻尾をフリフリと揺らせているフレイヤの方が周りの目を引いていた
暫く歩くと宿へと到着した
女将さんの宿は宿というよりどちらかといえば酒場がメインに作られている感じだった
泊まりに来るお客の数を考えるときっと宿屋だけでは稼げないのだろう
「大したものは出せないけど温かい食事と寝床は保証するよ」
「いえ十分です。お世話になります」
私達は2階に上がり荷物を置いてから下に戻り、少し早めの夕食にしてシチューを頂いた
こういう寒い場所で食べると美味しさがより増したように感じる
「それにしてもこんな可愛い子達が冒険者ねぇ。そういえばさっきあの山に行くと言ってたけど今はやめておいた方がいいんじゃないかい?」
「どういうことですか?」
女将さんに理由を聞くとなんでもここ最近ニクスコングの群れがシュベルスト山脈に出没しているらしい
ニクスコングとは力が強く分厚い毛皮に覆われていて、30〜50匹程の群れをなして行動する魔物
確かシュベルスト山脈よりもっと先の豪雪地帯を住処にしているはずだ。こんなところまでやってくることは普通であればありえない
山脈からこの町まで距離があるので流石にここまで来るなんて事は考えにくいが、そもそもこの辺りにやって来ることが異常事態
万が一という事も考えられるので早めに手を打っておいた方がいいかもしれない
「情報ありがとうございます。良ければ私達が追い払っておきましょうか?」
「えっ?いやあんた達にそんな危険な事任せるなんて・・・」
「大丈夫です。私達こう見えてそこそこ強いので」
「猿の100匹や200匹どーんとこいだ!」
ここに来るまでの間に駐屯兵が訓練をしているのを見かけたが、この町にいる駐屯兵の数は20人程
1人1人の力量を考えると倍近くいる魔物相手にそれでは圧倒的に数が足りない
そもそもこんな滅多に魔物が出ない地域では実戦経験なんて皆無だろう
採掘前の準備運動と考えればなんてことはない
「そうかい?でも無理はするんじゃないよ。あっそうだ、お風呂なんだけど生憎家にはお客用のはなくてね。近くに銭湯があるからそこを使ってくれるかい?」
「分かりました」
夕飯を済ませて一息ついた後は女将さんが教えてくれた銭湯へと1日の疲れを癒やしに行く
といっても基本私はフレイヤの背中に乗っていただけなので大して疲れていないが
「おいでフレイヤ。背中洗ってあげる」
「いいんですか!」
「今日1日頑張って飛んでくれたからこれくらいはね」
「ではお言葉に甘えて!」
上機嫌な様子でこちらに向けてきたフレイヤの背中を泡立てた布で優しく擦る
こうして改めて見ると本当に小さな背中だ。なんかこの背中に乗ってたと思うと途端に申し訳なく感じてくるな・・・背中だけのつもりだったけど頭も洗ってあげるか
「くっふふふ・・・!くすぐったいですご主人様!」
頭の角に触れるとこそばゆいようでフレイヤは足をバタバタとさせた
シスカに触られそうになった時は激しく拒絶したが、私であれば問題はない。主従の契約を交わした特権とでもいったところだろうか
体を洗ったあとは湯船に肩まで浸かり体の芯までしっかりと温めた
銭湯から出てくると冷たい風が火照った体を冷ましてくれた。心地よいがこの状態でいつまでも外にいたら確実に風邪を引いてしまう
私達は足早に宿へと戻り、早めに就寝することにした
「ご主人様、そちらに行ってもいいですか?」
「別にいいけど。今日はいつになく甘えてくるね」
「こんな機会中々ないので!はぁ〜あったかいです〜♪」
他の人がいる前ではここまで露骨に甘えてくるようなことはしてこない。ずっと我慢していた分の反動か
まぁこれで明日の活力になってくれるのなら安いもの。ついでに頭も撫でてあげよう
その夜は2人で1つのベッドを使い、フレイヤが寝るまで頭を撫でていたらいつの間にか眠りについてしまっていた
翌朝、私達は明朝に準備を始めシュベルスト山脈へ移動を開始した
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