37話 歓迎会
昇格試験に無事合格した私達は前の階級から2つ上の階級に昇格した
私達が書いた遺跡の地図がとても正確なものだと評価されたらしく、今回の階級への昇格が決まったようだ
その程度で2段階昇格かとは思ったが、元々の階級が低かったので当然といえば当然なのかもしれない
一先ずこれでギルドマスターの面子は保たれることだろう
シエルとの生活も数日が経ち、その数日で彼女の事がいくつか分かってきた
まず彼女には疲労というものが存在しない。そして睡眠も必要としないので基本24時間動く事が出来るらしい
その為始めは昼夜問わず働こうとして大変だった。稼働するエネルギーを抑える為の待機状態という睡眠に似たような機能があるようなので、今はそれを利用して決めた時間だけ働いてもらっている
せっかく部屋を用意して家具等も揃えたのだから使ってもらわないとな
次に食事だが、これは意外にも私達と変わらなかった
どういう仕組みなのかは分からないが、食べ物を摂取するとそれを魔力へと変換させて稼働する為のエネルギーとして蓄える事が出来るらしい
給仕型自動人形というだけあってシエルが掃除した場所は埃ひとつない
料理も栄養バランスが考えられていて、フィオナの普段の味付け等も一目見ただけで完璧に覚えていて驚かされたりもした
戦闘用に作られていないとはいえ普通の人間よりは力もあるので買い出しも多少多くても軽々と運ぶことができるだろう
彼女の働きぶりは文句のつけようがない程しっかりとしている。ただ気になっている点が1つある
それはシエルには普通の人間と同じように感情が備わっているのではないかということだ
本来自動人形には感情というものはない。しかしシエルは普通の自動人形とは違う
遺跡で私達と一緒に行かないかと誘った時や名前を付けた際には人間に近い、いや人間と変わらない表情を浮かべていた
とはいってもどちらも一瞬しか確認できていないしそれ以降表情の変化はない
もしかしたら長年放置されていたせいでまだ完全に起動しきれていないのかもしれない
何か刺激のようなものを与えれば変化があるだろうか・・・
「エレナ様、本日のお掃除完了しました」
「あっ、ありがとう。シエルも少しは休んだら?」
「いえ、私は給仕型自動人形ですので休憩は必要ありません」
「でも今のところ任せられる仕事はないしなぁ・・・」
家がそこまで大きいわけではないので掃除はすぐ終わるし洗濯物も既に済ませてあって午後からやることはもうない
やることといえば昼食を作ることくらいか。ここ最近は家でずっと食べていたからたまには外食にでも・・・
「そうだ!シエル、今日の仕事はもう終わり。これから街に行って皆で昇格祝いとシエルの歓迎会をしよう」
「そうでした!バタバタしててすっかり忘れてましたね。行きましょう行きましょう♪」
「パーッといきましょう!」
思えばシエルが来てからというもの細々としたものを買いに街に1回行ったっきり基本家にいてばかり
それでは変化なんてとてもじゃないが起こらないだろう
シエルの感情を動かすには色んなところを見せてあげた方がいいはずだ
「遊び・・・ですか?私は自動人形ですので必要ありません。どうぞ皆さんで行ってらして下さい」
「主役がいない歓迎会なんて出来ないよ。それに家にいたってやることないんだからさ」
「皆で行った方がきっと楽しいですよ」
「1人でいてもつまらないぞ!」
「・・・分かりました」
多少強引ではあるがシエルを街へ連れ出す事に成功した
祝いの会ということもあり何時も使う場所ではなく少しお洒落なお店を選択して入った
そのお店にはパーティプランなるものがあってちょうど良かったのでそのプランを頼んで個室へと入る
席に座って少しすると店員が入ってきてシャンパンを持ってきてくれたのでグラスに注いでもらう
シエルはその様子をジッと見つめていた。自分が接客されることに違和感を感じているようにも見えた
「それじゃあシエルが、家に来たことと冒険者階級昇格を祝って。乾杯!」
「「カンパ~イ!」」
「乾杯、です」
ぎこちない感じでシエルも乾杯に参加する
乾杯したあとはメニュー表から注文していき、料理が揃うと各々好きなものを取って食べ始めた
シエルは料理には手を出さず、私達が食べている様子を見守るようにただ座っていた
「ほら、シエルも食べて食べて」
「いえ、私が皆さんが食べた後で結構ですので」
「つべこべ言わずに食べろ~い!」
「むぐっ」
フレイヤがシエルの口へと肉を放り込む
シエルは意表を突かれるも表情を崩さずモグモグと口に入れられた肉を平らげる
「主役が遠慮するもんじゃない!」
「そういうものなんですか」
「そういうものだ!」
そう言われたシエルは少しの逡巡の後メニュー表を開いて指をさした
「あの、これを頼んでみたいのですが」
「いいよいいよ。好きなのドンドン頼みな」
フレイヤの後押しもあってシエルも自分が気になるものを注文し始めた
食べる際に逐一「これ食べていいですか」と確認してきてまだ遠慮するような感じではあるが変化はあったようだ
お店で一通り楽しんだ後は高台があるビアガーデンへと行き、沈む夕日と明かりが点いていく街の風景を眺めながら2度目の乾杯をした
「そうだ。はい、シエル」
「なんでしょうか?」
「大したものじゃないんだけどね」
シエルに渡したのは髪留め。ここに来る前にあった露店でたまたま見つけたものだがシエルに似合うかと思いこっそり買っておいた
「ほら、前髪が長いと見づらいかなと思ってさ。つけてあげる」
慣れない手つきで前髪を揃えて髪留めで留めてあげると隠れていた顔がハッキリとして現れ、綺麗な顔立ちがより一層際立った
「いいじゃないか!」
「似合ってますよ~♪こんな可愛い顔してたんですね」
2人から褒められるとシエルが突然自分の胸の部分をギュッと抑えるように手で握り締めた
お気に召さなかったのかとオロオロしているとシエルがおもむろに口を開いた
「ありがとうございます。大切に使わせて頂きます」
そう言う彼女の顔は以前より明るい顔をしていた
今回でシエルの心に多少なりとも変化はあったはず
まだ完全ではないだろうが焦ることはない。これから少しずつ取り戻していけばいいのだから
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