3話 新たな旅立ち
女神から授かった"万物創造"の魔法を使えるようになってから更に6年が経過し、俺は16歳となり成人を迎えた
ここ数年で特に女性らしさが増していくのを実感し、自分で言うのもなんだが中々の美女へと成長を遂げていた
絹糸のような白い髪に透き通るような肌。整った顔立ちにスラッとした体型と非の打ち所がない
今でこそこの姿に慣れて気にすることなく過ごしているが、始めの方は色々と苦労したもので特に風呂に入る時なんかは自分の体であるにも関わらず直視しないようにしていたくらいだ
唯一胸が控えめだったのが救いで、母曰く大きいと色々大変らしいのでこれ以上育たないことを切に願う
隣町まで買い物に行くと周囲の目を集めた
両親共に黒髪だが自分はこの辺りでは見かけない白髪ということもあってか、より注目されるのかもしれない
だがそれは悪い意味でではなく、むしろ・・・
「エレナさん、俺とお付き合いを!」
「いや、町長の息子である僕なら必ず幸せにすることが出来ます。どうか僕と結婚を前提に!」
「ごめんなさい。そういうのはちょっと興味がないので・・・」
こうやって毎回必ずと言っていい程交際若しくは求婚を迫られる
普通の女の子であれば言い寄られて悪い気はしないんだろうが・・・
外見がどれだけ美しくなろうと中身は男のままなので適当にあしらって全て断った
更に10歳で攫われたあの日を堺に人攫いに襲われる頻度も増えていた
奴等にも情報網みたいなのがあるのか、1人になるのを見計らって定期的にやってくる
こちらとしては練習相手にちょうどよかったので、襲ってきた奴等を1人残らず返り討ちにして毎回牢にぶち込んでいるのだ
両親や村を襲うような事をしたら一線を越えるつもりだったが、幸いそういった被害はなかったので骨を数本折る程度で許してやっていた
前世で幼い頃聖騎士長にトラウマになるかという程扱かれた訓練法で基礎能力を上げた
もう2度とやるか!と誓ったものだが、また世話になる日がくるとはな・・・
家の手伝いが一通り済んで時間に余裕ができた時は両親に一言告げてから森の奥へと入って小屋がある場所まで行き、そこでいつも魔法の研究をしている
この魔法は自分がイメージできるものなら本当になんでも生み出すこと出来た
父親が作った鉄の剣を持ち出し、その剣の複製を作って切れ味や耐久度等差異がないか試してみたりもした
素材が分かれば全く同じ物も出来るし、そこに新たに鉱石を加えればより上等なものにすることも可能だ
一生懸命鉄を叩いて作り上げた父親の剣をあっさりと超えてしまいなんだか申し訳ない気持ちになった・・・
お金を生み出すことも出来たが、これは今後使わない
もし誰かにバレたりでもしてそれが広まってしまったら面倒事に巻き込まれるのは明白だ
そんな事になったら俺の平穏な生活を送るという目標が泡となってしまう
「そろそろいいかな・・・」
俺はこの村を出て冒険者になろうと考えていた
冒険者になる理由は2つ。1つは簡単になれて無理せず安定な収入が手に入るからだ
簡単といってもあくまで俺基準での話で、冒険者になるには月に1度行われる試験があってそれを突破しなければならない
毎回数十名が受けていてその中で篩いにかけられて選ばれた数名が冒険者となることが出来る
難易度の高い依頼を受けずとも採集の依頼や弱い魔物、害獣を倒せば1人で暮らすには十分なお金になるだろう
もう1つは俺を襲ってくる奴等への対策だ
冒険者になればギルドの庇護下にあるので迂闊に手を出すことはできくなくなる
もし襲った事がバレでもすればギルドの報復を受けることとなる為、相手が余程の考えなしでもなければ襲ってくることはない
俺も成人したことだしコツコツお金を貯め、土地を買って家でも建ててのんびり1人暮らしでもしようと考えていた
土地さえ買えれば家はこの魔法でどうとでもできる。どんな家を建てるかと今から想像を巡らせる
自宅に戻り俺は冒険者になることを両親に切り出した
「あら、そうなの?気をつけてね」
いつも俺の事を気にかけてくれていたから村を出ていくことを伝えたらどうなるかと思っていたが・・・あまりにあっさりとしていて拍子抜けしてしまった
それを察して母シェリーが優しい口調で話し始めた
「貴方は私以上に強気で男勝りな性格だし普段から体を鍛えてたみたいだったからなんとなく想像はついてたわ。貴方の人生なんだから好きなように生きなさい」
「ありがとう母さん」
母シェリーは快く承諾してくれた。一方、父カインはというと「まだ早いのではないか」「風邪を引いたらだれが看病するんだ」等と成人したのにこの子供扱いっぷりである
自分の事を想ってくれるのは素直に嬉しいが流石にそこまでいくと少し引く・・・
結局母の助けもあり、父からも了承を得ることができたので俺は1週間後にこの村を出ていくことにした
出ていくといってもここから1番近い街の冒険者ギルドに行くつもりだから帰ろうと思えば数日で帰ることができる
出発までの期間は村の皆や町でお世話になった人達に挨拶をしに回った
勇者だった時は俺が勇者の地位だから優しくしてくる人達が殆どだったが、ここではちゃんと俺を1人の人間として見てくれている
それが当たり前のことなのかもしれないが、俺にはそれが嬉しかった
そして出発当日、俺が纏めた荷物を背負い家を出る準備をしていると父が声をかけてきた
「エレナ、これを」
父親が渡してきたのは剣と防具一式
普段作っている物より数段いい素材を使っているのが見て取れる
冒険者になると告げた次の日から毎日遅くまで工房で何かやっているなとは思っていたがこの為だったのか
「娘の門出に装備なんてどうかとは思ったが・・・俺にはこれ位しかできないからな」
「いや嬉しいよ、ありがとう父さん。大切に使うね」
魔法で作ればこの装備よりいいものは作れるしなんなら前世身につけていた勇者の装備も作り出すことが出来るだろう
だがそんなものより父親が娘の為を想って作ってくれたこの装備の方が俺にとってはずっと価値のあるものだった
貰った装備を早速身につけいよいよ家を出る
父は号泣していて、母がその姿を見て背中を思い切り叩く
このやりとりも暫くは見れないと思うと少し寂しくもある
「辛くなったら何時でも帰ってきていいんだからな・・・」
「体には気をつけてね」
「父さんも母さんも元気でね。それじゃあ行ってきます!」
両親は俺の姿が見えなくなるまで手を振って見送ってくれ、それに応えながら村をあとにする
16年間過ごしてきた村にも感謝の念を捧げながら俺は街へと歩き出した
読んでいただきありがとうございます
次回更新は月曜日19時です。よろしくお願いします!
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