28話 逆転劇
重力魔法で動きが鈍くなった私は迫りくるガインの一撃を横っ飛びし、既のところで回避した
「ちっ、その状態でまだ動く事が出来るのか。予想していた以上・・・だが」
「・・・っ!」
直接の攻撃は回避することが出来たが、ガインのハルバードが地面に叩きつけられた時に飛び散った大きめの破片が右足に強くぶつけてしまったようだ
致命傷ではないがやられてしまったのが利き足で踏ん張りがきかなくなってしまった
それを見越していたガインは攻撃の手を緩める事なく攻め立ててくる
私はその攻撃をなんとか捌こうとするも、やはり重力魔法が影響して上手く受けることが出来ず致命傷を避けるのがやっとだった
みるみるうちに傷が増えていき着ていた服は瞬く間にボロボロにされ肌が露わになってきていた
「どうしたエレナ選手!昨日の動きとは打って変わって足どりが重たいぞ。対するガイン選手は次々と攻撃を繰り出していてかなり優勢な戦況です」
戦っていて分かった事はこの重力魔法はこの周囲に発動しているのではなく私個人限定に発動している
だから審判も気づくことができないのだろう。こういう類の魔法は相手との接触が必要だがこのステージは些細な魔法でも使えば必ず反応する仕組みになっていると聞いた
なので握手を交わした時ではない。それより前・・・トーナメント表を見ていた際に肩を叩かれたあの時か
今まで妙に接触を図ってきたのはこの為だったというわけか
「その状態でそこまで動き続ける事が出来るとは驚いた。だがそれもいつまで持つかな?」
鍔迫り合い状態のままガインが私に向けて呟いてくる
足の負傷でいつもの力が出せない私はガインの力に押し負けて吹き飛ばされてしまう
場外ギリギリのところなんとか留まるも蓄積されたダメージと足に力が入らないことで膝をついてしまった
「あーっと!ガイン選手の猛攻でエレナ選手が今大会初めて膝をついたぞ!このまま決まってしまうのかー!」
「ガインー!そのままいっちまえー!」
「エレナさん負けないでー!」
「「ガーイーン!ガーイーン!」」
ガインが優勢なことで私を応援してくれている者の声はガインを応援する者の声で殆どかき消えてしまう
膝をつくなんていつぶりだろうか。魔王と戦った時でさえ一度もつくことがなかったのにこんなつまらないことで膝をついてしまうなんて・・・
以前だったらこのような事態になる前に魔法の反応に気づいて対抗することができただろうし、されたとしてもここまでの醜態を晒すことはなかったはず
転生してからというもの、相手になる者が現れなかったことから無意識のうちに油断と驕りがあったようだ
昔はどんな相手でも全身全霊をかけて挑んでいたというのに。この結果はなるべくしてなったという訳か
己の不甲斐なさを自覚し俯きかけたその瞬間・・・
「エレナー!」
「エレナ!頑張れ!」
会場から聞き慣れた2人の声が会場内に響き渡る。母と父の声だ
ガインを応援する者達の声に負けない2人の声援がこちらまでハッキリと聞こえてきた
喉を痛めてしまうのではないかという程叫ぶ母の姿を初めて見た。そんな大声を出したら体に障ってしまうかもしれないのに・・・
父は父で涙を堪えながら応援しているのか声が震えているように感じる
隣にいるフィオナにフレイヤは私が劣勢である状況にも関わらずただただ静観していた
それはまるで私が勝つということを信じて疑っていないかのようだった
私は馬鹿か。くだらない事で意気消沈して2人を心配させてしまって・・・これ以上無様なところを見せるわけにはいかない
「よそ見するとは余裕だな!」
相手から視線を外していた私に対してガインが止めの攻撃を繰り出してくる
それを私はすかさず立ち上がり、剣を持っている片手のみで止めて見せた
先程までと明らかに動きが違う事をガインは察知したのか、反射的に後退りした
それを逃すまいと私は一瞬で相手の元まで距離を詰め攻撃を放つ
重力魔法はかかったまま。ただそれを意に介さない程の力で対抗しているだけ
魔法が使えないこの試合ではこれ位のことしかできないが、それ故に相手は動揺しているようだ
一撃の速さと重さが増した私の攻撃をガインは防ぐことしかしか出来ず、焦りの色が出始めていた
「何故だ!重力魔法がかかっていて足も負傷しているはずなのにどうしてそれ程の動きが出来る!?」
「ありがとう。お陰で初心に返ることができたよ」
それだけ言い残して私は剣を振り下ろす
ガインはハルバードで防ごうとするがお構い無しに思い切り叩きつけ、ハルバードを破壊してガインを地へ沈めた
その勢いでステージにまで亀裂が走り、審判の人はよろけながら判定を下した
「しょ、勝者エレナ選手!」
「き、決まったー!序盤は苦戦したエレナ選手でしたが最後はいつも通り、いやそれ以上の動きを見せてくれました!」
今までとは比較にならない威力に観客は一瞬静まり返ったが、私が一礼すると今までにない位の歓声があがった
一先ずなんとかなったな。ガインは未だにピクリとも動いていないようだが死んではいないだろう
武器も壊してしまったがルール違反をしたのだからこれ位のことは瑣末なこと
「エレナー!」
「よくやったぞー!」
「エレナさんお疲れ様ですー!」
「ご主人様ー!」
父と母、そしてフィオナとフレイヤの声が聞こえてくる
私1人だったら負けていたかもしれない。本当に助けられた
私がステージをかなり壊してしまったので、修復する為に次の試合まで時間が出来た
こちらも服を変えたり痛めた箇所を回復しないといけないのでちょうどいい
残すは準決勝と決勝の2試合。全力で挑んで恥ずかしくない試合をしよう
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