24話 剣舞祭
孤児院の子供達の面倒をみたあの日から時は経ち、季節は夏季に突入しようとしていた
あれからしばしば差し入れがてら子供達の様子を見に何度か行ったが、特に問題なく順調にやっていた
体調を崩していたもう1人のシスターも復帰したみたいだしシスターリリシアの負担も減ることだろう
そして私達は普段の生活へ戻っていった
つい最近まで孤児院へ通いつめていたからこうしてのんびりするのも久しぶりだ
また暫くはこんな生活を送りたいものだ
そう思っていた矢先、一通の手紙が私の元へ届けられた
「手紙なんて珍しいですね。誰からですか?」
「んーっと。ん?これは・・・王族の紋章だ」
王族からの手紙とか嫌な予感しかしない。一体何が書かれているんだろうか・・・
恐る恐る封を開けて手紙の内容を読み上げていく
「えっとなになに・・・『愛しのエレナさんへ。夏が近づき蒸し暑い日が多くなってきている今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。私は毎日エレナさんの事を想いながら業務に励んでおります。先日過ごしたエレナさんとの時間は私にとって』・・・ってなにこれ」
これは十中八九、というか完全にセフィリアの手紙だ
普通は代理の者が用件だけを認めて送られてくるもの。それでも稀な事なのに王族が直々に一個人の平民へ手紙を送ってくるなんて聞いたこともない
しかも愛の囁き付き・・・
「あの女狐めぇ・・・!性懲りもなくご主人様を誑かそうとしているな!やっぱりあの時消し炭にしておけば良かった!」
「まぁまぁ落ち着いて下さい。それで書いてあるのはそれだけですか?」
「2枚目に本題が書かれてるみたい」
前半部分の私への愛の囁きを省いて本題を読んでいく
なんでも今年から開催することとなった王国剣舞祭というものに私を招待したいということのようだ
開催は1週間後。移動費や宿泊費等はこちらで全て負担するとの記載もされている
今年から開催って・・・この招待状といいどう考えても私が聖剣を抜いたことがきっかけだろ
ついこの間勇者の生誕祭をしたばかりなのにお祭り好きな国だなぁ・・・
直々の招待を無下にはできないし国王には聖剣の件で色々融通を利かせてくれたからな。これ位のことなら引き受けよう
なるべく目立たないようにしたいが・・・まぁ無理だろうな
剣舞祭開催前日。王都グランデリアへと向かう日がやってきた
今日まで簡単な討伐依頼で体も慣らしておいたからコンディションも問題ない
支度も済ませ、いざ出発というところでフィオナが質問を投げかけてきた
「あのエレナさん、今からどうやって王都に向かうんですか?完全に間に合わないと思うんですが」
「大丈夫。これを使えば一瞬だよ。"転移門"」
2人の前に亜空間が生まれ、そこからは王都グランデリアが見えていた
転移門は自分が1度行ったことのある場所へと一瞬で移動することの出来る魔法だ
前回の警護依頼の時も実はこっそり試したが、前世の記憶だけでは転移門は使えずこの体で実際に赴かないといけなったようなので普通に移動したが今回は問題なく使う事ができた
「エレナさん転移門まで使えたんですね!確かにこれがあればわざわざ旅をする必要はありませんね」
「ご主人様にかかればこんなのちょちょいのちょいだ!」
「よし、じゃあ行こうか」
転移門を潜ると王都が見える草原に到着した
そこからは徒歩で向かって検問を抜け、私達は予約されている宿屋へと向かうことにした
日は経ったとはいえ、顔を覚えている者がいるかもしれないので私は聖剣を隠し変装をして王都の街の中を進んでいった
当日どうせ姿を明かさないといけないが、それまではできるだけ平穏に過ごしたい
道中の王都は勇者生誕祭時ほどではないがかなりの賑わいを見せていた
以前と違うのは道を歩いているとよく剣を装備している者とよくすれ違うこと
この中の大半が今回の剣舞祭に参加するのだろう
剣といっても種類は様々で大剣、レイピアにサーベル。他にも槍や斧を装備している者までいる
刃はあれば意外となんでもありな催しなんだな
予約されている宿屋に到着すると私達は目を疑った
セフィリアが用意してくれた宿はこの王都で1番高いと知られている高級宿だ
貴族身分の者達が使うような宿屋であって平民の私達が気軽に泊まれるような場所じゃない
中へ入ると女給のような服を身に纏った女性に声をかけられる
「お客様、当宿は予約制となっております。お名前を伺ってもよろしいですか?」
「エレナと言います。剣舞祭に招待されてこちらの宿をとってもらっているはずなんですが・・・」
「エレナ様ですね。確認してまいります」
うーんあの対応。やはりこの宿にこのいかにも平民の服ではひやかしだと思われているな
もう少しまともな服にすればよかったか?
女性が受付の方に確認しに行き、少しすると慌てて戻ってきた
「エレナ様!大変お待たせしました!ご案内しますのでどうぞこちらへ!」
「は、はぁ・・・」
大して待っていないが・・・先程と打って変わって態度が豹変したな
多分王族からの招待というのが分かったのだろう。そりゃあ下手な事は出来ないだろう
女性に案内された部屋は1つ1つの家具が一級品で、座るのが憚られる
シスカの屋敷も中々だったがここはそれを上回る。流石王都一と言われているだけある
「ふぉー!ご主人様!このベッド凄い跳ねますよ!」
「凄い!エレナさんここキッチンもついてますよ!」
この2人は全く気にしないんだな・・・
まぁこんな機会は滅多にないんだ。満喫するとしよう
その夜は用意された豪華なディナーを堪能し、柔らかいベッドで明日の剣舞祭に備えて眠りについた
読んでいただきありがとうございます
「よかった」「続きが気になる」など思っていただけたら幸いです
少しでも気に入ってくれた方ブクマ、評価して頂けると大変励みになります!
次回更新は水曜日19時です。よろしくお願いします!




