23話 教会のお手伝い 後編
孤児院の手伝いを初めて数日が経ち、毎日魔法の授業を行ったお陰か子供達は水を浮かせられるようになったので、第2段階として初歩である小型の雨を降らせる魔法を教え始めた
そして3分の1程の子供達がその魔法を使えるようになったある日、私はある提案をした
「今日は皆にお話があるの。実は今教会では皆で生活していくにはちょっとお金が厳しくて困ってるんだ。それで皆にはある果物を作って市場で売ってもらおうと考えてるの」
私は素直に今起こっている問題を子供達に告げた
下手な嘘をつくより正直に話し、理解してもらった方がしっかりと取り組むだろうという考えだ
「勿論売り物にするからちゃんとお世話ができないといけません。だからやるかどうかは皆で話し合って決めなさい」
シスターリリシアの言葉を聞き、子供達は顔を見合わせそれぞれ話し合い始めた
彼女には子供達に告げる前に事前に相談し、やるかどうかの判断は子供達に委ねる事に決めた
まだ10歳に満たないような子供ばかりだから無理にとはいわない
強制的にやらせては意味がないのだ
少して子供達の中で1番歳が上の男の子が口を開いた
「それをやれば僕達の生活が良くなるの?」
「今すぐというわけにはいかないけど、上手くいけばきっと良くなるはずだよ」
「・・・僕はやりたい。皆お腹一杯になれるように頑張る!」
男の子が自分の意思を告げると、それに呼応するかのように他の子達も僕も私もと手を上げ始める
やがて全員の手が上がり、満場一致で決まった事に一先ず安堵した私はすぐさま次の段階へと移る為、空き地へと移動した
「ノア、出てきていいよ」
「はーい。森の精霊ノアでーす♪」
「精霊さん!?すごーい!」
何も無いところから突然ノアが登場したことによって驚きと歓喜の声が子供達から聞こえてきた
ノアを呼んだ理由は勿論、今回育てる果物の苗木を提供してもらう為だ
始めは果物ではなく手頃な野菜をという話だったのだが、私がノアに育てやすくて味がいい、それでいてこの辺りでは見かけないような珍しい野菜はないかとダメ元で聞いたところ今回の果物にいきついた
自分で言っといてなんだが、そんな都合のいい果物があるなんて思いもしなかった
その果物は"パナモの実"というらしく、なんでもここより遥か南方にある果物で味は甘さと酸味を兼ね備えていて大変美味とのこと
育て方としては水以外に魔力を注ぎ込むことが重要らしい
そうする事で実の成長も早くなり、季節関係なく安定して収穫出来るんだとか
1人1人の魔力量は少ない子供達でもこれだけの人数なら当番制で行っていけば負担をかけることはないだろう
「よし、じゃあまずは皆で草抜きから始めよう」
「「はーい!」」
皆で協力して苗木を植える周辺の草を抜いていき、抜き終わったら栄養のある土と肥料を混ぜ合わせ軽く土を耕していく
苗木を植えたら水の魔法を使えるようになった子達に水やりを任せ、数人がかりで魔力を注ぎ込んでいく
あとはこの繰り返しだ。一月もすれば苗木は成長して立派な実をつける
今から実がなるのが楽しみだ
そしてあっという間に一月が経ち、収穫の時がやってきた
小さかった苗木は2m位の木に成長し、たくさんの実がなっていた
この1ヶ月間皆が真面目に取り組み頑張ってお世話してきた結果だろう
子供達の収穫を手伝いその中から出来のいいものを選別して私達は市場へとやってきた
この日の為に市場での販売許可は既にとってある。あとは売れるかどうかだ
少し形が悪くて売り物にならなそうなのを皆で試食してみたが、味はかなりいい
これを通りがかった人にも試食してみてもらえばきっと気に入ってくれるはずだ
「ちゃんと売れるかなぁ・・・」
「大丈夫。皆頑張ったんだからきっと売れるよ」
緊張する子を落ち着かせ、試食用に盛り付けた皿を渡す
すると早速1人の婦人がこちらに近寄ってきてパナモの実を珍しそうに眺め始めた
私は少女を励まして婦人の元へ行かせる。練習通りやればきっと上手くいくはずだ
「あ、あの・・・おひとついかがですか!」
「あら、頂いていいの?」
少女が差し出したパナモの実を婦人は口に入れた。それを子供達は固唾を飲んで見守る
「あら、初めて食べる味だけど美味しいわね」
「ありがとうございます。この辺りではとれない珍しい果物なんですよ。良ければおひとついかがですか」
「そうね、それじゃあ1つ頂こうかしら」
記念すべき1つ目が売れた事に子供達は喜んだ
自分達が毎日頑張って育てた物が認められたのが嬉しかったのだろう
試食作戦はものの見事に上手くいき、試食していったお客さんは皆買っていってくれた
次々とやってくるお客さんに瞬く間に買われていき、2時間程で完売となり初日は大成功に終わった
「やったー!全部売れたよー!」
初日ということもありあまり数を出さなかったが、これならもう少し多くも良かったな
口コミで広まってくれれば更にお客さんは増えるはずだから明日はこれの倍でも良いかも知れない
それに今はパナモの実のみの販売だが、資金と収穫量が安定してきたらジュースやジャム等の加工品を販売しても面白いかもしれない
ノアには感謝だ。今度何かお礼しなくちゃな
教会へ帰り他の子供達にも吉報を知らせてあげたら大いに喜んだ。今回できっと自信もついたことだろう
私達の役目もこれでもうおしまい。あとはこの子達とシスターだけでもやっていけるはずだ
私達は子供達を集めお別れを告げることにした
「皆、今日までよく頑張ったね。今日見てて私達がいなくても大丈夫って思ったよ。だから明日からは君達だけでやっていくんだよ」
「大変な事もあるかもしれないですけど皆なら大丈夫ですから頑張って下さい!」
「サボったりしたらダメだからな!」
それぞれ別れの言葉を言い終えると、子供達が駆け寄ってきてパナモの実を渡してきた
「絶対また明日来てね!」
「また今度魔法教えて!」
「次来たときはもっともっーとたくさん実がなってるからその時は一緒に食べようね!」
子供達1人1人の言葉にしっかりと頷き、また来ることを約束した
成り行きで始めたギルドの依頼からここまでの事になるとは思わなかったが、子供達のあの笑顔が見れただけで十分な報酬だ
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