210話 怪物の侵攻
「インフェルノ・グラトニー・・・?」
聞いた事も見たこともない魔物だ。いや、そもそもあれは魔物なのか?
あの生物からは魔族のような、いやそれ以上の禍々しさを感じる。これだけの大きさになるモンスターを生み出す為にわざわざ魔物の大群を集めたのか。この展開になることを見越して準備していたとなるとかなり厄介だな。あれがどういう存在なのかは分からないがあれは放っておけない相手だと私の直感がそう告げている。魔族の元に向かうのは一旦やめてまずはあの魔物を倒さなくては
ザカリスはあの生物がどういう存在なのか知っているようだったしこの男から情報を引き出せるかもしれない
私が近づくとザカリスは何かされると悟った様で拘束された状態で後退りをする
「な、何をする気だ貴様」
「あの化け物の情報を洗いざらい吐いてもらう。傀儡操作」
「や、やめ・・・!」
ザカリスに洗脳系の魔法をかけて情報を引き抜こうと試みる。しかし私の魔法はザカリスに抵抗されてしまった
ザカリスに抵抗する程の力が残っているとは思えないし失敗したわけでもない。持っていた杖も回収したし洗脳をかけようとした時のあの慌てようは演技には見えないしどういう事だ?
原因は不明だが失敗した以上何度も試す余裕も時間もない。ラミアスと共に魔族の元へ向かう予定だったのを変更し、私はインフェルノ・グラトニーがいる場所へと移動を開始した
移動の最中グラトニーは巨体をゆっくりを動かしながら新たに張られた結界の方へと歩みを始め、結界にのしかかるように倒れこんでいた。結界はその巨体を跳ね除けようと必死に抵抗を見せるが、のしかかった部分の結界が徐々にグラトニーの体に吸収されていってるのが見えた
吸収されると同時に結界が再展開されなんとか侵攻を食い止めようとしているがグラトニーの吸収力に抗うことができず瞬く間に結界が突破されてしまった。一番外側の結界を抜けるとそのまま奴は二番目の結界の吸収を始める
せっかく元に戻した結界なのにあのよく分からない化け物のせいでまた破られてしまったら魔力結晶の残存量を考えるとまた戻せるかは怪しい。一刻も早くあれの侵攻を食い止めなければあの脅威がそのまま国民に向かうこととなってしまう
「この!結界から離れろ!」
魔物を倒しに回っていたフレイヤとフローリアが戻ってきて両サイドからグラトニーにブレスを放ち討伐を試みる。防壁を守る騎士達も結界越しに次々と魔法や投擲、あらゆる手段を用いて攻撃を浴びせていく
通常の魔物であればひとたまりもないもないだろう。しかし2人のブレスと騎士達の攻撃をまともにくらったのにも関わらずグラトニーは少し立ち止まった程度で全く効いている様子はなく、それどころか攻撃を吸収することによってその巨大な姿を更に増していった
あれはどうやら自身に対する攻撃に対して全て無効化してしまう能力をもっているようだ。中途半端な攻撃を浴びせても逆効果、明確な弱点が見つからない限りは迂闊に攻撃はしない方がいいんだろうがそんな悠長な事は言っていられない
グラトニーの侵攻を食い止めようとあらゆる属性の魔法攻撃を浴びせていく。絶え間なく攻撃を浴びせ続けていると歩みを止めなかったグラトニーが立ち止まった。こちらの攻撃効いていたのかとも思ったが奴の次の行動でそうではない事が分かった
グラトニーは巨体から口のような部位を出現させるとそこから黒い吐瀉物を結界に向けて吐き出してきた。それが結界と接触すると徐々に侵食されていくと同時にグラトニーに吸収されていった。先程よりも短時間で2つ目の結界が破られ残す結界は1つのみ、黒い吐瀉物はその勢いのまま最終防壁を突破しにかかってくる
「た、退避だー!」
指揮官と思われる者の退避という言葉に防壁で攻撃を放っていた騎士達は断念し避難を開始。そうしている間にグラトニーは遂に最後の結界を突破してしまった。騎士達がいた防壁もグラトニーに飲み込まれていき、通過した場所は抉り取られたかのようになっていた。そこから先程の黒い吐瀉物が中にまで流れ込んできて建物を飲み込んでいく。飲み込まれていった場所はまるでそこに最初から何もなかったかのようにまっさらな平地へと変えられていった
「あそこにいた人達の避難は!」
「あ、あそこの区画は既に避難が完了していた場所で先程防壁にいた私達が最後だ」
防壁から退避してきていた騎士の1人を半ば強引に引き止め被害を受けた場所に民衆がいなかった問いただす。幸い避難が済んでいる場所だったようで被害に遭った人はいないようだが、あの黒い液体はジワジワと迫ってきている。このままではいずれ法国は跡形もなく消されてしまうだろう
グラトニーが壊した防壁の隙間からは外に残っていた魔物が中へと入ってきている。あれの相手もしなくちゃいけないのに面倒な・・・
「クリエイト・ウォール!」
侵攻してくる敵の前に防壁と同程度の大きさの壁を五重にして築き法国にこれ以上液体が侵入しないようにする。この壁も突破される前提で焼け石に水に等しい行為だろうがやらないよりはマシなはずだ。これで少しでも時間を稼いでその間にグラトニーをどうにかして倒す
隙間から入ってきた魔物も万が一突破された時のことを考えて倒しておきたいところだが相手をしている余裕はない。後方にいる騎士達をアテにしたいところだが目の前の化け物を相手に戦意喪失しかけている。ある程度の犠牲が出るのを承知でやるしかないか・・・・
僅か数秒の間立ち止まり思考を巡らせる。その間に後ろからやって来ていた人物に声をかけられらことで我に返った
「エレナ!」
「ラミアス!それにシエルも。ここは危険だよ。早く後方の安全なところに戻った方がいい」
「エレナ、中に入ってきた魔物は私達に任せてくれないか」
行動を別にしていたラミアスとシエルはこちらの状況を察してフィオナとセレーネにザカリスを任せ、キューちゃんの背中に乗ってこちらに戻ってきたようだ。確かに周りにいる魔物程度ならラミアス達でも倒せるだろう。だがこの何が起きるか分からない状況で任せていいのだろうか
フィオナもいれば防御面は解決する、けど無抵抗とはいえザカリスを戦えないセレーネ1人に任せるわけにもいかないし腕の立つ者は置いておきたい
ラミアスとシエルの目は真剣そのもの、彼女達なりに力になろうとしてくれているのだろう。ならば・・・
「ラミアスこれだけは約束して、絶対に無茶はしないこと。少しでも危険だと思ったらすぐに戻ってくるんだよ。勿論シエルもね」
「分かった!」「畏まりました」
「キューちゃん、2人をよろしくね」
「キュウ!」
葛藤はあったが2人の事を信じることにして周囲の魔物の掃討を任せることにした。いざとなればキューちゃんの全力疾走でにげられるはず
3人が無事帰ってくる事を心の中で祈りつつ私はグラトニーの元へと駆けた
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