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20話 森の精霊

「うーん・・・ここ!」


「はい、チェックメイト」


「あぁ!うぅ・・・私の負けですぅ。もう1回お願いします!」



王都から戻ってきてからというもの、私は家に籠もって畑仕事や家事、買い出しをして暇ができたらこうしてフィオナやフレイヤにチェスの相手をしてもらって過ごしていた

ギルドに行こうと思ってもまたあの質問攻めされると思うと足が重くなる

けど一方で体も訛り2人ばかりに稼いでもらっているのが忍びないという気持ちがあったので、そろそろ復帰しようかとも考えていた

フィオナの相手を片手間にそんなことを考えていると、畑の方からフレイヤの声が聞こえてきた



「ご主人様ちょっと来てください!」



慌てた声を出すフレイヤの元に駆け寄ると驚きの光景が目の前に広がっていた

なんと昨日までまだ葉っぱだけだったはずの野菜達が一晩で立派な実を実らせていたのだ

しかも最近種を蒔いたばかりのものまでもだ。この成長速度は明らかに異常

土に混ぜた肥料ではここまでにはならない。とすればこの現象を引き起こせる者を私は1人しか知らない



「森の精霊の仕業かもしれないね」


「精霊ですか?」



精霊は様々な種類がいるが、その中で森を住処にしている精霊の事を私達は森の精霊と呼んでいるのだ

森の精霊が生活している場所周辺の植物は成長速度が著しく向上する言われている

その現象がこの畑に起きているということはここに森の精霊がいる可能性が高い

けど本来森で暮らしているはずの森の精霊がどうしてこんなところに・・・?



「精霊さーん出てきて下さーい」



フィオナが声をかけるも反応なし

精霊は基本気さくで普通であれば呼び出さなくても勝手に出てくるはずなんだけど・・・警戒されているのだろうか?

こちらとしてはここにやってきた理由が知りたいから姿を現してほしい

少し強引だが精霊と契約する際に呼び出す魔法"精霊交信"を発動させ、強制的に精霊との接触を試みることにした

精霊交信の魔法を発動すると魔法陣が地面に現れ、そこから緑の髪に背中から透き通った蝶のような羽を生やした女の子が姿を現す



「君が森の精霊?」



問いかけるも精霊の女の子は怯えていて返事がない

やはり強引に呼び出したのは失敗だっただろうか

するとフィオナがその子の元にゆっくりと歩み寄り、そっと抱擁し頭を撫でて呟いた



「安心して下さい。あなたに危害を加えるような人はここにはいないですよ」


「・・・本当?」



優しく諭すように話しかけてきたフィオナに精霊の女の子は少し安心したのか、ようやく口を開きそのまま身を委ねた

流石の包容力だ。こういう事は不慣れだから勉強になるな

私達は一先ず少女を家の中へと連れていき、落ち着かせてから話を聞くことにした



「これ冷たくしたハーブティーです。心が落ち着きますよ」


「ありがとう・・・んくっんくっ。美味しい・・・」



フィオナが淹れてくれたハーブティーを小さな口に運ぶと、気に入ったのかあっという間に飲み干しておかわりを要求してきた

大分落ち着いてきたようなので少女から話を伺うことにした


「まずは君の名前を教えてもらってもいいかな?」


「私の名前はノアだよ」


「ノア。随分怯えていたようだけど森でなにかあったの?」


「実はね・・・」



女の子はポツリポツリと喋り始めた

なんでもノアが住処にしていた場所に精霊(スピリチュアル)喰らい(イーター)が出現したというのだ

ノアはそいつからなんとか逃げ切ったが、住処に帰ろうにも奴が待ち構えている可能性もあって森に帰れずにいた

どうしようか迷っていたところにちょうどうちの畑が見え、そこで暫く身を隠そうと考えたそうだ

実を実らせてくれたのはせめてものお礼ということらしい


ノアを襲った精霊喰らいついてだが、奴は精霊達の天敵で姿を隠している精霊でもその居場所を感知し、長い舌を素早く動かして食らう魔物

気づかれないよう透明化し、気配を殺して近寄ってくるので人間にとっても厄介な相手だ



「そいつに襲われた場所はどこ?」


「クラシーラの森」



近いな。クラシーラの森は新人冒険者がよく赴く場所だ。新人にあれの相手は危険すぎる

精霊が見つからなければ活動域を広げてくる可能性もある。早急に対処した方がよさそうだな



「分かった。私が行ってくるよ」


「えっ?エレナさん1人で行くんですか?流石に危険じゃないですか?」


「大丈夫大丈夫。ここ最近畑仕事以外碌に働いてなかったしたまには役に立たないとね。皆でお菓子でも食べててよ」



訛った体を戻すのにはちょうどいい相手だ

早速準備を整えクラシーラの森へと向かおうとする私をノアが心配そうな目で見つめてきた



「心配しないで大丈夫だよ。すぐ戻って来るから。あっそうだ、ちょっと鱗粉貰ってもいいかな?」


「え?う、うん」



私の申し入れを了承してくれたノアの羽から鱗粉を頂く

この微量な鱗粉でも精霊喰らいは反応してこちらに向かってくるはずだ



「じゃあちょっと行ってくるね」



3人はエレナを見送ってから再び家の中に入り、待っている間フィオナが作った焼菓子を食べたり、収穫した野菜で何を作ろうか等の話をしながら帰りを待った


2時間後、エレナがクラシーラの森から戻ってきたので皆でそれを出迎えた

体には傷はおろか返り血すらついていない

一先ず無事に帰って来た事に安堵した後、フィオナが尋ねた


「エレナさん!早かったですね。まさかもう倒してきたんですか?」


「倒したよ。ほら」



"空間保管(アイテムストレージ)"から精霊喰らいを取り出し3人にお披露目する

体長5mはありそうな巨体。倒し方は至極単純で熱を感知する魔法で相手の位置を特定した

奴は透明化して気配を殺しても自身の体温までは変えることは出来ない。それを応用し、ノアから貰った鱗粉に反応してのこのこ近寄ってきたところを返り討ちにしてやった


倒された精霊喰らいを目の前にしてノアは少し驚いていたが、脅威が去った事を実感すると両手を上げて喜んだ



「これでもう森は安全だよ」


「うん!本当にありがとう!バイバイ!」



感謝の言葉を述べるとノアは嬉しそうに森へと飛んで帰っていった

これでお別れかと思いきや、ノアはここが気に入ったのかそれからもちょくちょく私達の元にやって来ては森で採れた新鮮な果実を持ってきてくれるようになり、その果実を使って皆でスイーツ作りをしたりと大いに楽しんだ




読んでいただきありがとうございます

ブクマ、評価大変励みになります!

「よかった」「続きが気になる」など思っていただけたら幸いです

次回更新は水曜日19時です。よろしくお願いします!

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