2話 転生したら・・・
「おぎゃー!おぎゃー!」
「生まれたぞ!」
真っ暗だった視界から一転、突然の光に目が眩む
呼吸が上手く出来ないので肺を膨らませる為に精一杯泣き叫んだ
ここはどこなのかと手足を必死にバタつかせていると誰かに持ち上げられた
徐々に明るさに慣れていきゆっくりと目を開けると、ぼんやりとした視界の先に見知らぬ男がいて俺は抱き抱えられていた
どうやら俺は赤ん坊として無事生まれ変わったようで、男の啜り泣きながら喋る声が聞こえてくる
「うぅ・・・よく頑張ってくれた、ありがとうシェリー。見てくれ、凄く可愛いぞ・・・ひっぐ」
「もう、父親なんだからしっかりしないさいよ。でも本当ね。まるで天使のよう・・・」
この2人が俺の新たな両親か。父親の方は少し頼りなさなそうな気もするが温かみを感じる
母親が続けて
「ねぇ、貴方が名前をつけて頂戴よ」
名付けを任された父親は抱いていた俺を母親に預けて暫く頭を悩ませる
そしてようやく思いついたのか徐に口を開いた
「そうだな・・・エレナなんてどうだ?」
おいおい、可愛いらしい名前だがそんな女の子につけるような名前じゃなくてもっと男らしい名前にしてくれ
母親からのツッコミを待っていると予想外の答えが返ってきた
「エレナ・・・いい名前ね。貴方の名前はエレナよ」
いやいや!どう考えてもその名前はないだろ!
しっかりしているように見えたが実は抜けているところがあるのか?
まだ思うように動かない体を必死に動かして抗議するが、その意図は両親には伝わらない
このままでは本当にエレナという名前になってしまう
どうしたものかと思考を巡らせる。しかし父親の次の言葉で俺は衝撃を受けることとなった
「母さんのような綺麗な女の子に育つんだぞ~」
は?女の子?・・・まさかとは思うが!
さりげなく下半身の方へと手を移動させてあるものを確認する
悪い予感が当たってしまった。男についているハズのものがない
数秒間思考が停止した後、心の中で思い切り叫んだ
なんじゃこりゃあああ!あの女神様、俺を女として転生させたのか!
予期していなかった事態に数多の修羅場を潜り抜けてきた俺も流石に動揺した
するとタイミングを見計らったかのように脳内に直接語りかけてくる声が聞こえてきた
「新しい体の具合はどうですか?」
「女神様!?これはどういうことですか!どうして女の子なんかに・・・」
「お任せしますと言われたので私の好みで決めますねって言ったではないですかぁ」
希望を聞かれた時、確かに男してくれとは言わずに女神に任せはしたが・・・まさか女の子に転生するなんて思わないじゃないか!
文句を言いたげにしている俺を無視して女神は話を続ける
「貴方にはもう1つ転生の特典としてこの魔法を差し上げます」
女神がそう言うとどこからともなく小さな光の玉が現れ、それが俺の体へと入ってきた
体内に消えていくのを確認すると女神が魔法の説明をし始めた
「その魔法の名は"万物創造"、ありとあらゆる物を創造することができる魔法です。この魔法を使う時は創造するものをイメージするのが大切なので忘れずに。強力な魔法故に幼い時に使うと体に影響があるかもしれないので10歳位になるまでは控えた方がいいかもしれませんね。では用も済みましたので私はそろそろ消えますね。よい人生を〜」
「あ、待って下さい!まだこっちの話が終わって・・・」
女神様を呼び止めようとしたが反応がなくなった
一方的に説明だけして消えてしまった・・・どうやら本当にこの姿で生きていかなくてはいけないようだ
これからどうするか。といっても赤ん坊の姿ではどうすることもできないし一先ずこの状況を受け入れて生きていく他ないか・・・
それから月日が経ち、俺は順調にすくすくと育っていった
父の名はカイン。鍛冶師で腕っ節には自信があるようだが見た目の割に気弱な性格
母の名はシェリー。体が弱く家で針仕事をしている事が多かったが、父とは正反対の強気な性格でいつも父を尻に敷いている
俺が5歳になると率先して家事の手伝いをして母の負担を減らすよう努めた
裕福な家庭とは言えなかったが充足した日々を送っていた
両親から話を聞いたがどうやら俺は2人目の子供らしい。濁すような言い方だったが1人目は母親のお腹の中で帰らぬ人となってしまったようだ
そのせいもあってか、俺は両親からたくさんの愛情を注がれて育った
精神年齢では両親より上の俺はその愛情を受け取るのは少し気恥ずかしかったが、悪い気はしなかった
この村に暮らして数年、魔物が突然村を襲うようなことは滅多になく、来たとしても村の住民で対処できるような弱い魔物ばかり
前世では魔王が生み出した魔物から守る為、小さな村にすら数十人規模の兵士が常駐していたことから考えると200年後の世界は平穏そのものだ
そんな暮らしを経て10年。俺はようやく女神から与えられた魔法を使える年齢になった
「さて、どこで試そうか・・・」
流石に人目のつく村で使うのはまずいので村の外れにある森で試すことにした
両親からは森の中は危険だから1人で入ってはいけないと口酸っぱく言われていたが、少しだけなら問題ないだろう
森の奥へと進んでいき、ある程度村から離れたところまで行くと小さな池がある場所に辿り着く
ここまでくれば多少大きい音がしても問題ないだろう
「何からいくかなぁ」
手始めに簡単なものからいってみようと魔法を発動しようとしたその時、突然背後から羽交い締めにされて首に刃物を突きつけられる
「おっと、騒ぐんじゃねぇぞ。大人しくしてるんだ」
男が脅してくるが・・・前世ではもっと危険な相手と戦ってきたからこんなちゃちな武器で脅迫されてもなんとも思わない
とはいえこの10年で訛ったものだなぁ。背後から近寄ってくる気配にも気づけないなんて
今後の為にも最低限の目安くらいまでは鍛え直した方が良さそうだな
けど今反抗するのは得策ではないしとりあえず大人しく従って機会をうかがおう
俺は男の指示に従うと更に森の奥へと連れていかれ、小屋がある場所へとやってきた
小屋に入ると男の仲間と思われる3人組がいて、体を柱に縛り付けられ身動きがとれないようにされた
「こいつは上玉だ。よく捕らえてきたな」
「1人でのこのこと森にやってきたところを捕まえてやったんだ。まだ若いがこの見た目なら高く売れるだろう」
この男達は盗賊の類なのか、どうやら俺を奴隷か娼婦にでもして一儲けしようとしているようだ
どの時代にもこういう奴はいるもんなんだな・・・
俺を捕らえた男はここから移動する為に馬車を動かす準備をしに外に出ていった
さて、ここからどうやって抜け出すか。この体では自力で縄をどうこうする程の力はないしな
(せめてナイフでもあればなぁ。よし、さっき邪魔されて出来なかったし試してみるか)
万物創造を使い女神に言われた通り頭の中でナイフの形状をイメージする
すると次の瞬間、何もないところからナイフが現れ手で握っていた
これがこの魔法の能力。無から有を生み出すことが出来る便利な魔法だ
俺は気づかれないよう縄を切っていき、いつでも動けるようにして相手の出方を見た
外で馬車の準備をしていた男が戻ってきて仲間に声をかけた
「おい、準備が出来たぞ」
「よし、早いとこずらかろう。こいつの親が探しにやってくるかもしれねぇからな」
そう言って男が俺の方へと近寄ってくる。やるなら今しかないか
男が自分の目の前までやってくるのを確認すると思い切り股間に蹴りを入れた
男は突然の痛みに立ち上がる事が出来ず蹲る
「こいつ!いつの間に縄を!取り押さえろ!」
3人の男が一斉に襲いかかってくる
それを俺は悠々とかわしていった
まだ力はないが、この程度の動きなら目を瞑ってでも避ける事が出来る
殺すのは忍びないと思いナイフから自分の背丈と同じ位の頑丈な棒を創り出し、相手の急所に次々と打ち込んでいく
力がない分同じ箇所に何度も打ち込むと、中途半端な威力がかえって苦しめる形となったようで相手は完全に戦意を失っていた
「わ、悪かった・・・もうやめてくれ!」
相手が慈悲を求めてくるが、勿論俺は許すことなく相手にとどめの一撃を与え、4人全員を気絶させた
その後鎖を創って男達を拘束し、俺は村へと戻ってその事を村の皆に伝えた
勿論俺がやった事は伏せて通りすがりの冒険者に助けてもらったと言うことにして話した
まぁ真実を言ったとしてもこの見た目では信じてもらえるとは思わないが・・・
両親からは勝手に森に入った事についてもの凄い叱られたが、最終的には無事で良かったと泣いて抱きつかれた
申し訳ないことをしたと心の中で反省し、その日は久しぶりに両親と共に眠りについた
読んでいただきありがとうございます
次回更新は金曜日19時です。よろしくお願いします!
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