199話 神託
剣姫と数日後に戦う事が決まった私は皆との法国での観光を捨てて鍛錬を行った。観光したい気持ちも勿論あったが生半可な鍛錬ではプラメアに勝つことは到底不可能なので、屋敷の裏に建てられていた修練場でひたすら研鑽を積んでいる
今頃皆は法国観光を楽しんでいるのだろうか、お土産を買って来てくれるとは言っていたからどんな物を買ってくるのか楽しみだ
朝から昼までひたすら鍛錬を行い、お昼の時間になると給仕の人が軽食を修練場に持ってきてくれたのでそれをつまみながら休憩をしていると屋敷の物陰から気配を感じたので見てみるとこちらにやって来るリュミエールの姿があった
「リュミエール様、この様な場所にどうされましたか?ここにはプラメアさんもクリスティアさんもいらっしゃいませんが・・・あっセレーネですか」
「訓練中に失礼します。今日はどなたでもなく貴女に会いにやって参りました。貴女とは機会を見つけて2人きりで大事なお話をしたいと思っていたのです」
「私とですか?」
聖女様がわざわざ私に会いに来てまでする大事なんて話とは一体なんだろうか。とりあえず立たせたままでは申し訳ないので椅子を用意して座ってもらうことに。とはいっても修練場に置かれている椅子なんて最低限の物しか用意されておらず聖女様を座らせるには少々不相応だが、そんな椅子でもリュミエールは気にすることなく用意してくれた私にお礼まで言って腰をかけた。幼馴染であるプラメアといた時の様子を見てしまった後なのでどうしても調子が狂ってしまうが聖女様なのだから失礼のないように振舞わなくては
「そういえば今日はお付きの人達はいらっしゃらないのですね。お1人でここまで来られたのですか?」
「いえ、今は屋敷の外で待機しています。今日は大事な話があるからと無理言って外してもらっているだけです。そういえば今度プラメアと試合をされるんですよね、あの子がご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いえ、唐突な申し入れではありましたがこちらも剣姫様の腕前をこの身で体感してみたかったので」
「プラメアは強い人を見かけるとすぐ戦いを挑むんです。今回はいつも以上に鍛錬に励んでいるようなので余程楽しみなんでしょうね。そうそうあの子ったら・・・」
私に大事な話があると言っていたからどんな話しをしてくるのかと思ったが内容はプラメアの話ばかり。もしかしたら大事な話というのは建前で本当は話し相手が欲しかっただけなのかもしれない。きっと忙しい公務の合間に息抜きがしたくて適当な理由をつけたのだろう。こちらもちょうど休憩中だしこの後も鍛錬する位しかやる事がないから問題はない。私が選ばれたのはセレーネが外出中で目当ての人物が不在だったからお鉢が回ってきたといったところだろうか
リュミエールがここに来た理由を考え話に相槌を打ちながら聞いていると突然思いもよらぬ爆弾がリュミエールの口から飛んできた
「しかしプラメアと戦われるとなったらその体では厳しいと思うのですが大丈夫なのでしょうか?エイクさま」
「そうなんですよね。この体だとどうしても・・・ん?今エイクって・・・ングッ!」
「だ、大丈夫ですかエイク様?」
突然の事で思わず口に含んでいた食べ物が喉に詰まってしまい呼吸困難に陥る。そんな苦しんでいる私のところへリュミエールが水を差し出してくれたのでそれを一気に飲み干す
落ち着いた途端今度は冷や汗がダラダラと溢れ出てきた。何故、どうやって、いつから?そんな思いが延々と頭の中を駆け巡る。もしかしてセレーネと話している時にセレーネが口でも滑らせてしまったんだろうか?とにかく沈黙のままでは肯定と捉えられるかもしれないのでとにかく否定することに努めた
「申し訳ありません、驚かせてしまいましたね」
「いやぁ、いきなり勇者様の名前で呼ばれたので驚いてしまいましたよ。リュミエール様もそんな冗談を言われるんですね、ははははっ!」
「冗談などではありませんよ。実はエイク様がこちらに来られるまでにご神託があったのです」
「神託・・・?」
リュミエールの口から神託という言葉を聞きどういう事なのかと説明を求めると、私達が法国に来る前いつもの様に祈りを捧げていると女神ルキナス様からのお告げがあったらしい。聖女には他の信徒とは違い祈りを捧げる事によって神の声を聞くことができる。といってもこちらから話しかけるということは出来ず基本的に神様の方が話しかけてこない限り会話をすることは出来ないそうだ。それでルキナス様から元勇者である私エイクが来るという神託を受けたということらしいが、もしかしてセレーネの事も最初から気づいていたのではないかと思い聞いてみるとやはり知らされていたらしく、対面した時はなるべく表情に出さない様我慢していたそうだ。一応事情は察してくれているようで公にはしないと約束をしてくれたのでホッと胸を撫で下ろした。適当に誤魔化して難を逃れようとしていたが早々に正体を打ち明けることにした
「女神様の神託と言われたら言い訳はできませんね。そうです、私は元勇者のエイクです。今はこんな姿ですけどね」
「勇者エイク様、お会い出来て光栄の極みでございます」
「ちょっ!やめてください!元ですからそんな畏まらないで下さい!」
私がエイクであった事を白状するとリュミエールは膝をついて頭を下げ始めた。こんなところを誰かに見られてしまったら一発で騒ぎになってしまう。慌てて頭を上げてもらい今まで通り接して欲しいとお願いした。ようやく頭を上げ席に着いてもらったところで話を再開
「それにしてもどうしてルキナス様はわざわざ私がここに来る事をリュミエール様にお伝えされたんでしょうか」
「実は他にもルキナス様から神託を受け賜わっておりまして。それをエイク様にお伝えしたく本日やって参りました」
それからリュミエールは私にルキナス様から受けた神託の内容を淡々と話し始めた
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