194話 聖女
大聖堂に辿り着いた私達は祈りを捧げに来ている他の人達の列に混ざり祈り待ちをすることに。クリスティアという関係者がいるなら列に入らずとも祈りをすることが出来るんじゃないかと思っていたが、神様の前では皆平等で不正や特別扱いは出来ないとのことなので規則に従い行列に並んでいる
私達のような観光目当てで来た者は長くても1分程で祈り終えて帰っていくが、信徒達は1人1人が長い時間をかけて祈りを捧げているので順番が来るまでにかなり以上はかかりそうだった。そんな訳で列から外れることも出来ずする事もなかったので皆で話でもしながら時間を潰していたのだが、列に並んでいた信徒達からの視線が何故かこちらに集まっていた
最初はクリスティアやエレノアの方かと思ったが視線の先は私達を捉えている。この面子なら集まっても不思議ではないけどいつもとは何か違う様な気がした
列に並んでいる間ずっとそんな感じだったので気を紛らそうと周囲を見回していると祈りを捧げている人達の前に置かれていた像に目がいった。そこには女神ルキナス様の他にいくつもの像が建てられていたのだが、その中に見覚えのある顔をしている像を発見した
「あの像・・・カルラ?」
私が最後に見たカルラはまだ幼さが残っていてこの大人びている像とは少し印象が異なるが見間違う筈がない。聖母のような暖かい表情、聖女になった者のみ着用することが許されている聖装。なによりカルラが肌身離さず持っていた杖が一緒に飾られている。あの杖は私が昔旅先で見つけてカルラの能力を上げるのにピッタリだったからなけなしのお金で買って贈った物なので間違うはずがない。カルラの像に強い眼差しを向けながら呟くとクリスティアが反応してきた
「ご存知でしたかエレナさん。そうです、魔王を倒された勇者様と行動を共にしていた初代の聖女カルラ様です」
ご存知もなにも一緒にいましたから、なんて言う訳にもいかず愛想笑いでやり過ごす。分かっていた事だがここにこうして彫像として飾られているということはもうこの世にはいないんだよな
聖女という立場上帝国にいたリザさんのようなアレンの子孫となる人物もいるとも思えない。残念だけど仕方ないことだ
しかしこうして見てみると随分と立派に育ったものだなぁ。私の元に初めて来た時なんかはまだまだあどけなさが抜けない少女だったというのに随分と大人の女性へと成長を遂げているのがこの彫像では見て取れる
思い返すと初めから自分に一番好意的に接してくれていたのはカルラだったかもしれない。何をするにしても隣についてきてくれてたし自分のつまらない話にもしっかりと耳を傾けて聞いてくれていた気がするなぁ
「懐かしいなぁ・・・」
「懐かしい?」
「あっいえなんでもないです。そういえば初代聖女は魔王が討伐された後はどうしていたとかは知っていますか?」
思わず口から漏れてしまい慌ててクリスティアに話題を振る。するとクリスティアは普段の穏やかさとは打って変わって目を見開き興奮した面持ちでカルラについて話し出した
「カルラ様は魔王が倒され戦争が終わった後、魔法によって支配されていた村や町の復興に尽力されていました。どんなに小さな村だろうと見捨てず手を差し伸べて下の者がやるような雑用でも率先して動いて・・・その人柄もあって皆にとても慕われていたそうです。ちなみにカルラ様がお救いになった地域は以降人々が無病息災で健やかに暮らすことができたという言い伝えも・・・」
自分が知らないカルラのその後がどんなものだったのか軽い気持ちで聞いてみただけだったんだが、カルラの話になった途端クリスティアが豹変して饒舌になったのには驚いた。セレーネの件もそうだがクリスティアはこういう話になると人が変わったようになるんだな
一度話し始めたクリスティアを誰も止める事は出来ず、祈りの順番が来るまでの間延々とその話を聞かされるハメとなった
そうしているうちに列は着々と進んでいき、ようやく私達が祈りを捧げる番がやってきた。祈りを捧げている間は喋る事は一切せず祈ることだけに集中。フレイヤやフローリアといった竜族にはこういった行いはあまり理解できないようだが、こうしていると不思議と安らかな気持ちになっていくのだ。私達は1、2分程度でお祈りを済ませたがクリスティアは他の信徒と同様長い時間をかけて祈りを捧げていた
10分程その場から微動だにせず祈りを捧げ続けやっと立ち上がったというところで見知らぬ女性がクリスティアに声をかけた
「クリスティア、お久しぶりですね」
「これはリュミエール様、戻っていらしたのですね」
クリスティアはその女性を見た瞬間再び膝をついて挨拶を交わし始めた。他の神官とは装飾類が異なっていて敬称をつけているあたりクリスティアより上の立場の人なんだろう
すると2人のやり取りを見ていた信徒達の様子が変わり、クリスティアだけでなく周りいた者達まで膝をつき始め口々に言いだした。聖女、と
「聖女様」「聖女様だ」「本日も神々しいお姿だ」
「皆さん、ご健勝で何よりです。私の事には構わずどうぞお祈りを続けて下さい」
信徒達の言葉に聖女は優しく微笑みかける。祈りの再開を促すと信徒達は皆聖女に一礼してから中断していた祈りを始めた
あれがカルラの後を継いでいる聖女なのか。まさか剣姫に会う前にお目にかかれるとはな。せっかくだから挨拶でも、と言いたいところだが聖女の周りには護衛の聖騎士もいるし迂闊に声をかけて聖女が応えてくれても他の信徒を差し置いたとあってはあとで何を言われるかも分からないしここは素直にクリスティアが話し終えるのを待っていよう
そう思いながら戻ってくるのを待っているとふと聖女と目が合った。その時彼女は優しい笑みをこちらに向けてきた
今のは私に向けてのものだったのか。まぁ皆に同じ表情で接しているから特に深い意味はないのだろう
それから暫くして話を終えたクリスティアは私達の元に戻ってきた。聖女を共に連れて
読んでいただきありがとうございました!
「よかった」「続きが気になる」など少しでも気に入ってくれたいただけたら幸いです
次話投稿時間はTwitterの方で告知させて頂きます。よろしくお願いします!




