181話 擬似結婚式
ミィさんの借金騒動も解決し今日もお店を開けてお客さんを迎える。ピークが終わりお昼休憩でいつもの様に遅い昼食を食べていると突然入口の扉が開いた。そこから現れたのはピシッと決めたスーツに眼鏡を掛けたいかにも仕事が出来そうな風貌をした女性
女性はヒールを鳴らしながら私の前へとやって来る
「休憩中に失礼します。エレナさんでお間違ないですよね?」
「そうですけど・・・あっお客さんですか?すみません今日の分の予約は埋まっちゃってまして。次回の営業で良ければ予約出来ますけど」
「あぁいえ違いますお客ではないです。申し遅れました、私こういう者です」
女性はおもむろに懐から名刺を出して私に渡してきた。名刺を受け取るとそこには名前と役職が書かれている。彼女の名前はジェシーさん、役職は結婚式企画立案部となっていた
「その結婚式企画立案部?という方がここにどういったご用件ですか?」
「エレナさん、ご結婚に興味とかありませんか?」
「ありませんね」
「そ、そうですか。実はですね私達のところで今こういうのを作ってまして」
ジェシーさんがバッグから取り出したのは雑誌、その表紙には花嫁、花婿の姿が幸せそうな表情で結婚式を行っている様子が載っていた
その雑誌にはジェシーさんのお店で様々な結婚披露宴の案内や花嫁の好みに合わせてウェディングドレスを貸し出しすることが出来る様な事が書かれていた。立派な仕事をしているというのはこの雑誌を見て理解したがこれと私の所に来た事と何の関係があるんだろうか
その事についてジェシーさんに聞いてみると私をこの雑誌のモデルとしてウェディングドレスを着た姿を撮影させて欲しいとのことだった
「エレナさんがウェディングドレスを着てくれれば絶対着てみたいというお客さんも増えると思うんです!新郎役の方もエレナさんに相応しい方を必ず採用しますので!」
ジェシーさんは鼻息を荒くして語ってきた。最初はクールな人かと思ったが興奮すると饒舌になるタイプか
熱意は凄い伝わってきたし協力してあげたい気持ちは山々だがウェディングドレスなんて私の人生で最も縁遠いものだ。私なんかよりもっと相応しい女性はいそうなものだが・・・
選んでくれた事は有難いが今回の話は断らせてもらおうと考えていると私よりも先にフレイヤが叫んだ
「ダメですよご主人様!いくら本当の式でなくてもご主人様が何処の馬の骨とも知れぬ輩とドレスを着て並ぶなんて!他の者が許しても私が許しません!」
当人以上に激しく拒否するフレイヤの圧にジェシーさんもたじたじ、私も元から断るつもりだったのでそれに便乗して丁重にお断りさせてもらうことに。それでもジェシーさんは私を起用することは諦めきれない様子で他にいい案はないか少し考え込んだ後、何か閃いたような顔をして別の提案をしてきた
「エレナさんには新郎役を務めて頂くというのはどうでしょうか。エレナさんでしたら男性役も適任だと思うのでそちらをお願いできれば」
まぁそれなら大丈夫かな。つい最近にもセレーネが持ってきた執事服着てたんだしその延長みたいなものだろう。私はジェシーさんのその提案を呑むことにした
新郎役が私に決まったら次に新婦役を決めなくてはいけないわけだが、せっかくだからとこの中から決めようという話になった。見た目はいいからそれにはジェシーさんも納得してくれた
「では新婦役をして頂ける方は・・・」
「「はいっ!」」
言い切る前にフレイヤとフィオナが同時に名乗り出てきたフィオナは単純にウェディングドレスを着たいが為に、フレイヤは私一緒に表紙に載りたいという願望の為に
その所為で最初はどちらが花嫁役になるかと2人で口論になったが、またもジェシーさんの配慮で私とフィオナ、私とフレイヤとそれぞれ撮影をしてくれることになった
それを聞いたセレーネやラミアスもウェディングドレスを着たいという話になり、この際だからとフローリア、シエルも巻き込んで皆で参加する事に
これには流石にジェシーさんも少し眉を顰めていたが、最終的には了承してくれた
後日、私達はジェシーさんに指定された撮影場所へとやってきた。そこには華やかなウェディングドレスが選り取り見取りにいくつも飾られていた
その中からドレスコーディネーターという方のアドバイスを聞き自分の好みに合うのを選び着替えていく。私の方は新郎役ということもあり着替えは早々に終わったので魔法で一時的に髪の長さをショートに変え、更に整髪料でオールバックにしてできるだけ男っぽくなるよう手を加えてみた
準備を終え30分程待っていると花嫁側の準備が終わったようで撮影場所へと向かう。そこには髪が綺麗に整えられ化粧でしっかりとおめかしされている先程までとは全く雰囲気が変わった皆が立っていた
「どうですかエレナさん。このウェディングドレス凄く素敵じゃないですか?」
「私の方が似合っていますよねご主人様!」
「フレイヤよりこっちの方がいいだろ主よ」
「ボクの花嫁姿なんてもうお目にかかれないかもしれないんだからよく目に焼き付けというた方がいいよぉ」
それぞれが私に花嫁姿を見せびらかしてくる。確かに皆見違えたように綺麗になって甲乙つけがたいがやはり一番となると・・・
「どうだどうだ!フリフリしていて可愛いな!」
「うんうん凄い似合ってるよラミアス!というかキューちゃん用のドレスなんてのもあったんだ。キューちゃんも似合ってるよ」
「キュー♪」
「ぐぬぬ・・・」
学校の制服やお店の制服と違って特別感があるからか一層可憐さが増した様に感じる。こうして眺めいるといつかヒナタにも着させてあげたいな思ってくる。きっとどのドレスも似合うに違いない
それから時間になるとジェシーさんがやってきて撮影が行われた。皆と代わる代わる様々なポーズで撮られジェシーさんの納得がいくまで付き合わされた
撮影は結局一日がかりとなってしまったが、ジェシーさんは満足できるものが撮れたようだしなんだかんだ皆非日常気分を味わって楽しんでいるようだった。最後には皆が集まった写真を撮ってくれていい思い出にもなったしこの仕事を受けて良かった
数日後、表紙として選ばれたのは私とシエルの一枚で悔しがって地団太を踏んでいるフレイヤは印象に残るものだった
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