18話 勇者生誕祭終了
日が沈んで辺りは暗くなり街灯が灯り出した頃、私達は綿クラゲが乗れる広場へとやってきた
道中セフィリアの寄り道に色々付き合った為こんな時間になってしまったのだ
数が少ない為事前の予約が必要な綿クラゲの浮遊観覧だが、このペアチケットがあれば問題ない
「すみません、これで乗りたいんですが」
「ペアチケットご利用ですね。こちらへどうぞ」
係の人に券を渡すと奥へと案内される。その道中他の利用客を見ると恋人同士が多かった
やはりこういう類は2人きりの時間を過ごすことができ、夜景でいい雰囲気を作ることもできるので恋人の間では人気な乗り物なのだろう
「どうぞこちらにお乗り下さい」
案内された綿クラゲの頭に乗る。一見バランスが悪くて危ないように見えるが、綿クラゲの頭はふかふかしていて体が沈み込み体勢が安定するのでこの状態でも全く問題ない
準備が出来ると係の合図でゆっくりと上昇していく
「リア様大丈夫ですか」
「はい。ちょっと怖いですけど大丈夫です」
徐々に高度が上がっていき、綿クラゲはやがて王都が一望できる高さまでやってきた
下は街灯や建物の明かりで照らされており、イルミネーションの様でとても綺麗だった
「綺麗・・・ずっと王都にいましたが今まで見てきた中で一番綺麗な景色です」
「本当に綺麗ですね」
上空からの景色を2人で眺めているとやがて他のお客さんもやってきた
しかし近づいてきた綿クラゲは何やら普段と様子が変わっていることに気づき、頭に乗っているお客の方をよく見てみるとなんと恋人と思われる2人が激しく絡み合って口付けを交わしていた
お互いの気分が高まってそういう雰囲気になったんだろうが・・・凄い場面に遭遇してしまったな
そう思ったがよく見ると周りにいるカップルは全員似たような感じで、むしろ私達のように同性で乗ってる普通のお客の方が珍しいようだ
なんだか気まずくなってきたぞ・・・
「はわわわわ・・・・」
セフィリアは顔を両手で覆っていたが、指の隙間からその光景を食い入るように眺めていた
王女とはいえ年頃の女の子。そういうのにも当然興味があるのだろう
しかしこれ以上この場にいてはバツが悪いので、私達はもう少し上の方へと移動することにした
「ここまで来れば大丈夫かな?」
先程よりずっと高い場所まで移動し一息つく
あのカップル達は情事に夢中だからこれだけ離れていれば大丈夫だろう
「エレナさん・・・」
名を呼ばれ振り返ると、そこには顔を真っ赤にしたセフィリアがいた
先程の雰囲気にあてられたのかこちらに向かってゆっくりと顔を近づけてくる
この感じまさか・・・いやいやいや!流石にそれはまずい!
まだ会って間もないのに・・・いや立場とか関係なくそもそもの話私達は仮にも女同士
一国の王の娘がそれだと色々問題が発生してしまう
「ちょっ・・・!リア様。それはいけませんよ」
「大丈夫ですよ。ここなら2人しかいませんし・・・ね?それとも私では不服でしょうか?」
王女にそんな事言われて「はいそうです」なんて言えるわけがない
どうしよう・・・飛んで逃げたいところだけどセフィリアに腕をがっちり掴まれてそうもいかない
逃げ出す策が見つからず困り果てていると、下から光の速さで何かが近いてくるのを察知した
次の瞬間、目の前に現れたのはフレイヤだった
「ご主人様になにをしようとしているんだこの淫乱王女めー!」
「だ、誰が淫乱ですか!」
「お前だお前!我慢して監視していたがもう限界だ!」
下にはフィオナとシスカの気配を感じる。3人して私達の事をつけていたのか
セフィリアにとっては邪魔が入って不満だろうが、私にとっては救世主だ
ありがとうフレイヤ・・・あとでお肉を奢ってあげよう
フレイヤの乱入によってそこからは特に何か起こることもなく、綿クラゲがゆっくりと下降していく間景色を眺めながら・・・ともいかず2人は私の後ろでひたすらいがみ合っていた
下に到着するとそこにはフィオナとシスカ以外に王城の兵士と1人の女性が待機していた
「セフィリア様、お時間ですので迎えにあがりました」
「もうそんな時間?もうちょっといいじゃないユリウス」
ごねるセフィリアに対して王命だからと断固として譲らないユリウスという女性
この人の立ち振る舞いを一目見ただけ分かったが、これまで出会ってきた中で一番実力がある
剣技だけでいえば今の私と同等かもしれない
私はこの人が聖剣に選ばれれば良かったのにと心の中で呟いた
「エレナさん、もし宜しければこの後私の部屋でゆっくりと・・・」
「さっさと帰れこの色情魔め!」
フレイヤの言葉で再び言い合いになりそうだったところをユリウスさんが無理矢理制止してセフィリアを連れていった
こうして怒涛の1日がようやく終わりを迎え、今年の勇者エイクの生誕祭は終了した
王女セフィリアの誘拐を救ったことから始まり、再び聖剣を手に入れて王と謁見したかと思えばセフィリアとデートをすることになるという、あまりにも濃密な時間を過ごした
でもなんだかんだで楽しむことも出来たしまた来てもいいかもな
今度は自分の生誕祭以外にきたいところだ・・・
そして翌日を迎え、私達は馬車に乗り王都を出る為城門を目指した
馬車の作りが外から見えない作りで、聖剣抜いたことによって私の顔は王都中に広まっていて顔を見られたくなかったから好都合だった
城門を抜け街道を走る馬車の中から遠ざかっていく王都を眺める
ここから数日はまた野宿だ。帰ったら暫く我が家でゆっくりしたいなぁ
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