178話 猫への手助け
お店は開店初日こそ大変だったが予約制にしてから大分落ち着きを取り戻した。お客さんの入り具合を調整した事によってこちらも余裕が出来たし今は丁度いい具合で楽しめている
まだ数回程度しか営業していないから常連とまで呼べないが、シエルとフィオナの料理の味の虜になってくれたリピート客も出てきているから常連になる日も近いだろう
今日は明日に控えたお店の材料買い出しに今回調達当番のシエルと私が市場へとやって来ている
当番といっても品物の目利きは私にはサッパリなのでシエルに一任して私はその荷物持ちだ
選び終えるまで傍で待っていると1人の少女がシエルの横に立ち、メモを見ながら野菜を探し始めた
少女の頭部には可愛らしい猫耳が生えていた。少女は猫獣人のようだ
「えーっと・・・これを作るには何を使えばいいのにゃあ?」
おつかいでやって来たのかな?
何かを作る為にその材料を探している様だけどその材料がどんな物か分からないのかずっと野菜とにらめっこをしていた
そんな感じで困っていそうだった姿を見兼ねたシエルが助け舟を出した
「何かお探しでしたら手伝いますよ」
「えっ、あ、ありがとうございますにゃ!」
シエルが助けに入った事で安堵の表情を浮かべる少女。シエルはメモを見るとこの料理だったらこれがいいとかこれとこれが必要になる等懇切丁寧に教えてあげていた
初対面の人とあまり会話をする場面を見た事が無かったがこんな風に話すんだなぁ
シエルの助言のお陰で無事メモに書かれていた料理の材料を買う事が出来た猫少女は頭を下げながらお礼を言って去っていった
その後私達も買い出しを済ませて明日の開店に備えた。翌日、昨日買ってきた食材の下ごしらえ済ませていつもの様に営業を始める。開店と同時にお昼の部を予約していたお客さんが続々とやって来て注文が入っていく
「今日も美味しかったわ。ご馳走様、また来るわね」
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
順調にお客さんを捌いていきお昼の時間が過ぎていく。店内が空き始めてきて間もなくお昼の部のラストオーダーとなる時間だが、予約していた時間になってもまだ来ていないお客さんが1組いた
ラストオーダーの時間が過ぎたら注文は止めてしまうので実質キャンセル扱いとなってしまう。幸い1人での予約だからキャンセルになっても支障はないが、複数人だった場合それに合わせて材料も買い足さなくてはいけなくなるので何の前触れもなくキャンセルされるとこちらも困ってしまうのだ
そんな事を考えながら使われた食器を片付けテーブルを拭いていると扉の開かれる音と鈴の音が店内に鳴り響いた
「遅れてすみませんにゃ!まだ大丈夫かにゃ!?」
「いらっしゃいませ、まだ大丈夫ですよ。お好きな席に・・・ってあれ?君は昨日の」
「あっ!材料を教えてくれた人と一緒にいた方!」
聞き覚えのある語尾で時間ギリギリにお店にやって来たのは昨日シエルが助け舟を出した猫獣人の少女だった。予約しに一度お店に来てくれていたはずなのにお互い面識がなかったのは多分ちょうど洗い場等のホールから目につかない様な場所にいて他の者が対応したからだろう。シエルも基本厨房から顔を出す事はないから気づかなかったのだろう
少女を席に着かせ注文をしてもらう事に。注文が決まり料理が出来るまでの間に色々と話を聞かせてもらった
名前はミィさんといって私達と同じく飲食店を経営している人らしい。少女と勘違いしていたがミィさんはもう立派に成人した女性のようだ
猫獣人の見た目はある程度成長したら老いるまで殆ど変わる事がないから今回の様に見間違えてしまう事がよくある。昨日市場にいたのはおつかいではなかったという事か
メモに書かれていたのは新メニューを開発する為の材料だったようで、今日もそのメニューを開発するのに夢中になっていてうちのお店を予約していたのを今の今まで忘れてしまっていたそうだ
「うにゃあ、まさかここのお店の人だったにゃんて驚きですにゃあ」
「今日お店の方はお休みなんですか?」
「あ、えと、そ、そうですにゃあ~」
「・・・?」
お店をやっているならこの時間帯は稼ぎ時だろうから今日は休業日なのかなと軽い気持ちで聞いただけだったのだがミィさんからは歯切れの悪い答えが返ってきた。何か変な事でも言ってしまっただろうか
それから少しして出来上がった料理をミィさんの元に持っていった。同業者に食べてもらうのは初めてなのでどのような感想が来るか自分が作ったわけでもないのに少しドキドキしたが、ミィさんの口からでた言葉はどれも絶賛する言葉だった
誉め言葉を貰いホッと胸を撫で下ろす。そんな私とは相反してミィさんは暗い表情で俯きながら呟いた
「本当に凄く美味しいにゃあ。これだけ美味しければお客さんが来るのも納得ですにゃ。それに比べてうちのお店は・・・」
「あの、もしかしてお店上手くいってないんですか?さっきもお店の話したら言葉を濁してましたし」
私の問いにミィさんは小さく頷いた。他のお客さんは既に退店していてミィさんしかいなかったので私達は話を聞いてみることにした
ミィさんのお店は私達がお店を始めた日と同じ日に始めたそうだ
私達と同様しっかりと準備を行いお店を開くのを心から楽しみにしていたようだが、いざお店を開いてみたらお客さんは全く来ることはなかった
ミィさんのお店は街の中心地にあり人通りが多い場所で他にも沢山の飲食店がある云わば激戦区。そんな場所だし初日だからたまたまお客さんの目に留まらなかったのだろうと気持ちを切り替えて翌日の営業に備え、チラシを配って宣伝までしたそうだ
そして次の日、前日の宣伝効果でお客さんは何人か来てくれみたいだが、ミィさんの料理を食べたお客さんは一口口にしただけでお店を出ていってしまったらしい
それがきっかけか不明だが、以降お客さんがパッタリと来なくなりお店の方は閑古鳥が鳴いている状態だという
それで自分の店とは対照的にお客さんが沢山入っているうちのお店に行けば何かヒントが得られるかもと思い今日やって来たのだとミィさんは私達に話してくれた
初日の話は私達のお店が多少なりとも関係あるかもしれないが、全容を聞く限りどうやらそういう問題ではなさそうだ
話が本当ならはどう考えてもミィさんの料理に何かしらの問題があるとしか思えない
ミィさん本人も同じ事を考えていた様で厨房で夜の仕込みをしながら話を聞いていたシエルとフィオナの元へ駆け寄ると頭を下げ始めた
「このままじゃすぐお金が底を尽きて始めたばかりのらお店を閉めなくちゃいけなくなっちゃいますにゃ・・・お願いしますにゃ!どうか私に料理を教えて下さいにゃ!」
「私達がですか?」
「今日食べさせてもらった料理の味に惚れしましたにゃ!2人に教わればきっと今より美味しい料理が作れるようになるにゃ!」
ミィさんの懇願してくる姿を見た2人は私の方に視線を向けて判断を委ねてきた。こちらのお店は週一営業なのでそれに影響が出ない範囲なら問題ないだろう
好きなようにしていいというジェスチャーを送ると2人は互いの顔を見合わせた後頷き、頭を下げるミィさんの手を取った
「分かりました。私達で良ければ手伝わせて頂きます」
「希望に沿えるよう頑張りますね」
「あ、ありがとうございますにゃ!」
ミィさんは2人の手を握り返しブンブンと振りながら感謝の言葉を述べる
とりあえず今は片付けや夜の仕込みがあるのでそれが終わるまで待ってもらう事に。しかしミィさんはただ待ってるだけでは申し訳ない、料理を教わるせめてものお礼にと皿洗いをしてくれた
夜営業の準備が終わり、お店を開くまでの休憩時間を使ってミィさんとの料理教室が始まった
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