174話 転移盤の製作
「ふぅ、すっかり暗くなっちゃったな。早く帰ろう」
今日はいつもの授業を済ませた後、珍しく事務仕事を頼まれたのでそれを今日中に終わらせようと残って仕事をしていたら普段より帰りが遅くなり、辺りはすっかり暗くなってしまっていた
私の帰りを待って皆夕食を食べずにいるかもしれないと思い、お詫びにケーキでも買って行ってあげようと素早く支度を済ませ学校から出て程近い場所にある菓子店へ足を運んでいる道中、馬車を停めて会話をしている行商人の話を小耳に挟んでしまった
「聞いたか?今日若い奴がここに来る途中盗賊に襲われたらしいぞ」
「またか?今月でもう3件目だろ。最近また盗賊が増えてきてるよな」
「あいつら捕まえても捕まえても全くいなくなる気配がないから本当に参っちまうよなぁ」
また盗賊か、奴らは次から次へと湧いてくるからなぁ。件の行商人は護衛のお陰でなんとか無事に王都まで帰って来れたそうだが毎回そう上手くいくとも限らない
護衛を雇うのにだって当然お金はかかるからそう何人も雇えないだろうし盗賊は基本群がって行動するもの。多勢に無勢の状況だったら余程の力量差がない限り抵抗せず荷を差し出してしまった方が得策とも言える。命あっての物種だ
帰宅して夕食後のデザートとしてお店で買ったケーキを皆で食べている時にその話をすると、セレーネが何かを思い出したようで紅茶を一啜りした後切り出した
「ねぇエレナ、転移盤を作ってみれば?」
「転移盤・・・?あぁそういえばあったねそんなの」
転移盤というのは石盤に魔法陣を刻んだもので、石盤の上に乗るともう1つの転移盤へと瞬時に移動ができるという装置だ
この装置はちょうど私の前世の時代に開発されたもので僅かな期間だけ使われていたが、色々あって封印された代物でもある
転移盤の魔法陣は複雑な上に精密な作業を要する。そして構築の為にどうしてもそれなりの大きさの石盤が必要になってしまう
それだけならまだなんとかなるが転移盤の製作過程で中心に魔力結晶を埋め込まなくてはいけない。その転移盤に使用する魔力結晶の大きさが問題で、日常生活で使用しているものが指一本位だとして転移盤には子供1人分位のサイズが必要となる
魔力結晶は魔力が満ちている洞窟、魔窟という場所で高濃度の魔力が集結したことによって作られる。魔窟が存在している場所に行けば簡単に採れるので入手自体にはそこまで苦労はしない
が、私達が普段使いしている大きさの魔力結晶でもその大きさになるまで数年の時を要する。その何十倍もの大きさとなるとよくて数十年、下手したら数百年規模待たないと出来ないので滅多に見つけられない
更に昔は戦争が日常化していた時代だ。もし敵の手に転移盤が渡ってしまった場合、そこから敵が乗り込んで来て民間人のいる市街地で戦闘が起こる可能性も考えられた
以上の様な事を踏まえてわざわざそんな危険を冒してまで作る理由はないと判断され、その装置は数個程作られただけで即製作中止が言い渡された
そもそもの話転移門を使える者がいればいいだけの話で、当時転移門が使える仲間のセーニャがいた私達勇者パーティには全く関係のない代物だった為今の今まで存在すら忘れていた
けど転移盤か・・・今の時代ならそこまでの危険性はなさそうだし転移盤を作る事ができれば盗賊の被害も劇的に減らせることができるだろう。魔力結晶の調達には私の魔法を駆使すればどうにかなるかもしれないし試してみる価値はある
勿論悪用されない為に厳重な警備は必要となるだろう。そこは私にはどうにもできないので色々と手回ししてもらわないといけなくなるな
手始めとしてレジティアと王都を繋げてみようと思うのだが・・・作り方なんて当然知らないのでまずは転移盤に繋がる情報を手に入れないと何も始められない。その事を話してみるとセレーネは「ちょっと待ってて」と言って書斎の方へと消えていき、少しして戻ってくると得意気な顔をして私に語りかけてきた
「ふふん、これがなんだか分かるかな?」
セレーネが見せてきたのはボロボロの紐でかろうじで留められている一冊の本。所々汚れや文字が掠れているせいで読み辛いが昔の研究者によって書かれた転移盤の製作方法が載っているものだった。どうやら以前立ち寄った古書店で見つけた物らしい
「凄い、よくこんな古い本見つけてきたね」
「伊達に本を読み漁ってないさ。読解するのに時間はかかったけど内容は全て把握できたからなんとかなると思うよ」
作り方さえ分かればあとは製作にかかるだけだ。まず魔法陣を刻む為に必要となる石盤の生成
土台となる石盤は頑丈な物でなくてはいけないので私の知っている中で最も硬い鉱石、ウルツァイト鉱石を使用することにした
この鉱石はダイヤモンドと同等以上の硬度を誇っていて衝撃にも強いそうなので、ちょっとやそっとでは壊れる事はないはずだ
その鉱石を魔法で作り出し魔法陣を刻める大きさまでに拡大。そしてその石に転移魔法陣の印を掘っていく
魔法陣を掘ることが転移盤の製作において最も重要な作業で、転移先に置くこととなるもう片方の転移盤と一字一句間違えずに書かなくてはならない。一文字でも間違えたりしたら誤作動を引き起こす危険があるので注意が必要となる
本に記されていた実際に起こった例としては転移先がしっかりと定められていなかったせいで転移されたものが転移先で原型を留めていなかったという実例があったそうだ
物資等であればまだマシだがそれが馬や人だった場合、悲惨な事になるのは想像に難くない
慎重に石盤へと魔法陣を刻み終えたら最後に石版の中心へと埋め込む魔力結晶作りに取り掛かる。ただの魔力結晶であれば労せず作り出せるが、石盤に埋め込むサイズを作るとなると私だけでは魔力が足りない
そこでこの辺りにある魔窟へと行く事に決めた。魔窟に人が入った場合、大気に充満している魔力が体内へと強制的に取り込まれていく
いくら魔法を使ってもすぐ魔力が回復されるので今回はそれを利用する事にした。ただ魔窟にいると自身の許容量を無視して魔力が増え続けるので、何もせず長時間いたりすると体が耐えきれず最悪破裂する恐れがあるので留意しておかなくてはならない
魔力を集結させて魔力の結晶を作り上げていく。この作業には集中力が必要となるので邪魔者が湧く場所ではできないが魔窟に魔物が潜んでいることはないので安心して作業に取り掛かることができた
作業は1日を費やすこととなった。本来何十年何百年とかかる規模の結晶を強引に作り、尚且つ2つも作らなくてはいけなかったのでこれでも早く終わった方だと言える
丸1日集中し続けた後は凄まじい疲労感に襲われたがもうひと踏ん張りだと自身に喝を入れ、最後の工程である魔力結晶を石盤の中央に埋め込む作業をきっちりとこなし遂に転移盤の完成に至った
正常に装置が作動するか何度も実験を重ね、問題ないことが確認できたらこれを国王に見せ、認可してもらう為に謁見を願い出ることにしていた。以前申請した時は中々謁見出来なかったので今回はやり方を変えてまずはセフィリアに見せたい物があると話を通してもらった
最近セフィリアからの命令なのか、セフィリア相手であれば身分証の提示だけで会えるようになっていたのでその特権を活用させてもらう
私の突然の訪問に喜ぶセフィリアを人目のつかなそうな地下へと連れていき、そこで完成させた転移盤を見せると物珍しそうな顔をして眺めていた
「エレナさん、なんですかこの大きな石盤は?なんだか魔法陣のようなものが刻まれていますが・・・それも2つも」
「今使ってみせるからちょっと見ててね」
私が転移盤の中央に移動すると魔法陣が内側から外側にかけて光り出し青白い光の柱が発生する。魔法陣の光が天井まで昇ると私の姿が消え始めた
盤上から完全に姿が消えたその数秒後、隣に設置してあったもう片方の転移盤が同様に光り出しそこへ消えた私が現れる。自身で転移盤を試すのは初めてだったが体にも異常は見られないし動作は良好のようだ
一連の流れを見ていたセフィリアに感想を求めようとしたところ、暫く驚愕の顔をして固まっていた
「す、凄いです!今のが転移魔法というものですか!これは私にもできますか?」
「勿論、乗ってみる?」
興味津々で私と共に転移盤へと乗り先程の流れをもう一度行った
2度目も無事問題なく稼働。まぁ重さに制限はあるがそれでも積み荷のある馬車2、3台は問題ないのでこれ位で不具合が出たら困るが
「どうかな?これを設置すれば安全に目的地に行くことができるようになるんだけど」
「素晴らしいです!エレナさん、これを少しお預かりしてもいいでしょうか。私がお父様に掛け合ってみます!きっといいお返事が貰えると思いますので!」
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、ではないがとりあえず私の目論見は上手くいった
あとはセフィリアに話を通してもらうだけだからそう遠くないうちに謁見ができることだろう
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