173話 マラソン大会
薬の影響で男になり、その後無事元の姿へと戻る事ができてから経過を見ているが後遺症も特になく普段通りの生活を送ることができている
いつもの様に仕事から帰って来ると、先に帰って来ていたラミアスが学校の方で定められている運動用の服を着て家の周りをキューちゃんと一緒に走っているのが見えた
いつもは帰ってきた後学校から出された課題をこなし、その後はおやつを食べたりキューちゃんと遊んだりする程度で自分の体を鍛えてるのはあまり見ない光景だったので声をかけてみた
「ラミアス、トレーニングなんて珍しいね。どうしたの?」
「はっ、はっ・・・今度学校の行事でマラソン大会っていうのがあるみたいでその体力作りの為に走ってるんだ」
「へぇマラソン大会なんてのがあるんだぁ。学校から帰って来た後も走ってる位だから上位でも狙ってるの?」
「勿論!やるからには1番を取るつもりだ!」
随分と気合が入っているな。まぁ何かに打ち込む事はいい事だし応援してあげよう
しかしマラソン大会かぁ懐かしいな。昔は娯楽が少なかったからこういうちょっとした催しでも盛り上がったものだ
捕らえた魔族数名に拘束具をつけて誰が一番になるかなんて賭けも見た事あったな。それで1番になった者以外は処刑・・・うん、全然いい思い出じゃなかった。こんな話ラミアスには絶対聞かせられない
私が過去の出来事を思い返しているとラミアスが話を続ける
「それでな、マラソン大会までの間エレナに練習付き合って欲しいんだがダメか?」
「ん?それ位なら別に構わないけど・・・ラミアスなら普通にやってれば1番取れるんじゃないの?」
「学年の中に私より早い子がいてな。何度か授業で一緒に走った事があるんだがまだ勝てた事がないんだ。だから今度のマラソン大会では絶対勝ちたいんだ!」
つまりはラミアスのライバルみたいなものか。そういう相手がいると対抗心が芽生えて結果自身の向上にも繋がるから凄くいい事だ
そういう事なら私も一肌脱ぐとしよう。ラミアスには細かい指導を求められたのでまずは走るフォームから見直してみることにした
「長く走るには当然だけど体力の消耗を抑える必要があるよね。ラミアスは今少し猫背気味だから体の軸を真っ直ぐにして軽く前傾姿勢。あとは力まない事、それと疲れてくると呼吸のリズムが早く浅くなりがちだけど深く呼吸した方が疲労が少なく感じるから一先ずそのあたりを意識して走ってみよう」
「はい!先生!」
こうしてラミアスとの特訓の日々が始まった。毎日朝と夕方の空いてる時間を使ってラミアスと一緒に公園等でトレーニングを行った
最初に言ったアドバイスを元に走り方を変えると徐々に一定の速さで長い距離を走れるようになり、劇的にとまではいかないがタイムも少しずつ縮んでいっていて今のところ順調そのもの
体力をつけることは今回のマラソン大会に限らず戦闘面でも役に立つものなのでラミアスを鍛えるいい機会でもある
テイマーは戦闘時使役している魔物の能力に依存しやすい傾向があり、自身の能力向上を怠る事がある。その為テイマーとの戦闘ではテイマー自身を狙う事が常套手段とされている
ラミアスにもその対策としてそろそろ簡単な魔法や体術を教えてあげようと思っていたところだったから今回のこれをきっかけに色々と教えていこう
そんなこんなで練習の成果を発揮するマラソン大会当日がやってくる。皆で合わせて休みを取り、スタート地点の一番前を陣取ってラミアスを応援しに来た
マラソン大会で走る距離はおよそ5㎞。学校の校門がスタートとゴールとなっていてそこから外壁がある場所まで行ったらそれに沿って走っていき、半周したところで中央の広場へと進み学校まで直線で戻るというコース
ラミアス位の歳の子達が5kmも走るとなると競うというより完走を目指して走るという子達の方が多いようだ。ただラミアスより速いというその子を含め、上位ゴールを狙っている者もいるようなので油断はできない
「ラミアスちゃん大丈夫ですかねぇ」
「ご主人様がつきっきりで練習に付き合ったのだから優勝するに決まってる!」
「練習する期間が短かったからなんとも言えないけど5kmならきっと練習通りに走れば大丈夫だよ。キューちゃんも頑張って応援しようね」
「キュー!」
もう少し特訓の期間があればぶっちぎりの一番になれる位までには鍛えてあげたかったが、短期間でそれは難しかったのでとにかくスタミナの強化を重点的に鍛えた
「皆さん、もうすぐ開始となりますので位置について下さーい」
先生の指示で各々開始に備えて準備運動をしていた生徒達がスタート地点へと集まり出す。今回はラミアスのクラスだけでなく学年全員が参加している為人数は100人を超えている
ラミアスはその中の真ん中辺りに位置していて隣の子と何か話しているようだ。あの子がライバルの子なのかな?
全員がスタート位置についた事を確認し終えると先生が魔法を使って開始の合図を響かせた。それと同時に生徒達が一斉に走り出す
中間位置にいるラミアスはまずこの集団から抜け出して前に出なくてはいけないが、当の本人が先程までいた場所から姿を消していた
あそこから既に前に出たのかと前方の方を探してみるも見当たらない。白い髪はかなり目立つので見逃す筈はないが・・・
「あっ!あそこにいるぞ主!」
フローリアが指差す方に目を向けると地面に伏しているラミアスを発見した
スタート直後に躓いたのか他の生徒と接触でもしたのか原因は分からないが転倒してしまったようだ。周りにいた生徒達は転んだラミアスを踏まないよう慌てて横に避けている
ラミアスは地面に体を強く打ったのか少し怯んでいたもののすぐさま起き上がり追いかけようとする。しかしその頃には既に最後尾で先頭ともかなり距離が開いてしまっていた
ただ距離が開いただけなら挽回する余地はある。しかしラミアスの前には100以上立ちはだかっている。設けられているコースの端から端まで人がいて抜くだけで一苦労だろう
きっとここから先頭まで追いつくには当初の予定よりかなりの体力が必要となる。私は前の列にようやく追いついたラミアスに檄を飛ばした
「大丈夫ラミアス!慌てず冷静に!落ち着いて走れば追いつくよ。頑張れ!」
エールを送るとラミアスはこちらを一瞥しコクリと頷いた。大丈夫、まだスタート直後だし元々の身体能力の高さと練習の成果を出せればまだまだ分からないぞ
本来保護者は今校門から出ていった生徒達が戻って来るまで待機所等で待っていなくてはいけないそうだが、様子を見守りたいのでこっそりと抜け出し屋根伝いでラミアスを追いかけた
壁に沿って走っているラミアスを見つけると上手く分断した集団の隙間を縫うように抜いていっていた。練習していた時の速度より速いスピードで驚異の追い上げを見せ、どんどん先頭との距離を詰めていく
残りの直線地点に来る頃には上位10人にまで食い込んできた
序盤転んだ後は少し脚を気にするような素振りをしていたがちょっと擦りむいただけで普通に走れている。ただここに来るまでに強引に抜かしてきたからか体力の消耗が思ったより激しいように見える
けどあのペースで来なかったら一着を取るのが難しかったのも事実。最後までスタミナが持ってくれればいいが
1人、また1人とラミアスは抜いていく。1人抜かす度に疲労も蓄積されていって辛そうな顔をし始める
そうしてゴールまで残り500mの地点でようやく先頭の子に追いつく。スタート時に話していた子だ
相手はゴールが見えてくるとラストスパートをかけてくる。それに必死に食らいついていくラミアス
残り100m、ゴール手前で皆が応援してるのが見えてくる。ラミアスとライバルの子は抜かし抜かされと一進一退の攻防を繰り広げていく
ゴール直前までどちらが勝っても分からない接戦、その末に一着を勝ち取ったのはラミアスだった。僅かな差ではあったがラミアスが先にゴールテープを切り見事最下位からの一着ゴールを果たした
ゴール後、体力を使い果たしその場で倒れ込んでしまったラミアスは表彰式が始まる時間までゆっくりと休ませてあげた
「やったぞー!1番になったー!」
「おめでとうラミアス。頑張ったね」
表彰後、ラミアスは金メダルを持って私達の元に駆け寄って来た。ライバルの子を打ち破り一番になってくれたのは勿論嬉しいが、それよりも怪我が大したことがなくて本当によかった
このメダルはラミアスが初めて手に入れた勲章の証。きっと大切な物となるだろう
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