172話 男で過ごすには厳しい環境です
「というわけで今日1日この姿で過ごさなくちゃいけなくなったんだ。混乱するかもしれないけど」
「いつもの時間に起きてこないなと思って部屋を見に行ったら姿が見当たらなかったので何処に行ったのかと思えば・・・そんな事になっていたんですね」
「随分とまぁ見た目が変わったねぇ。ぷぷっ」
薬師のお店から帰って来ると皆が朝食も食べずに私の帰りを待っていてくれていたので食事をしながら昨日から今現在に至るまでの経緯を皆に説明した。最初この姿で現れた時はフレイヤとセレーネ以外誰だと怪しんでいたが、事情を話すと以外にもあっさりと信じてくれた
昨日まで一緒に生活していた女性が今朝いきなり男になりましたなんて言い出しても信用されないんじゃないかと心配していたので拍子抜けしている。皆色々な経験を経て順応性が高くなっているようだ
フレイヤはこの姿を見たら色んな感情が入り交じった様なよく分からない表情で私の顔をベタベタと触ってきて本物かどうか確認してくるし、セレーネはニヤニヤと笑みを浮かべてこちらを見てきたりと色々言いたい事はあったがそちらは一旦放置しておくことにした
「それにしてもエレナさんのその顔、どこかで見たような気がするんですよねぇ・・・どこだったかなぁ」
「き、気のせいじゃないかな。こんな素朴顔そこら辺探せばいくらでも見かけると思うけど」
「うーん・・・ま、他人の空似ですかね」
危ない危ない。万が一バレたりでもしたら大事になりそうだしとりあえず適当に眼鏡でも掛けて変装しておくか
それよりも危険なのはこの家だ・・・やっぱり今日は早めに家を出た方が良さそうだな
シエルは既に着替えを済ませているからいいが他はまだ寝巻き姿、そこから無防備に覗かせる下着のせいで非常に目のやり場に困る。その上皆可愛いときているから尚更顔を合わせづらい
それに今まで自分が女性だったから気づかなかったのか家中が凄くいい香りに包まれていてそれが鼻腔を通過して脳を刺激してくる。ここに長居していたら色々とやばい
女性の時に散々感じてきた筈のもので今更何も感じないと思っていたのに男性に戻った途端このザマとは・・・
「ご主人様、さっきからどうして目を合わせてくれないのですか?」
「い、いや何でもない。というかそんなにくっつかれてると困るからそろそろ離れて・・・」
長年一緒にいたフレイヤですら可愛く感じてしまう。いや元々フレイヤは私にだけ甘えてくる可愛らしさはあったが、男性状態の私に人型でにこうして接してくる事が初めてだから余計そう思ってしまうのかもしれない
控えめな胸が先程から腕に当たっていてかなり気まずい。まさかフレイヤ相手にこんな感情を抱く日が来るなんて・・・
「そういえば今日からまた王都の方に仕事で行くんだよね?その姿で大丈夫なの?」
「あっ、そうだった」
色んな衝撃で頭からすっかり抜けていた。流石にこの姿だと生徒達を困らせてしまうだろうか
でもこの姿でやってみたい事もあるし今すぐ戻るのは惜しい・・・真面目にやってきたし今日位ズル休みしても罰は当たらないよな。そう、リフレッシュだリフレッシュ
とはいったものの流石に無断欠勤は迷惑となるので一度王都のギルドへと赴きギルドマスターのリヴィアさんにも経緯を説明することにした。リヴィアさんは私の事情を一通り聞き、理解したのか頷いて暫くした後高らかな笑い声を上げた
「あっはっはっはっは!随分と勇ましい姿になったものだねエレナ嬢!」
ある程度を予想できていたがやはりこの人に笑われるとイラッとする。しかしここで下手に突っかかると却って面倒な事になりそうなのでスルー、この姿の状態では業務に差し障ると話し今日の仕事は休ませて欲しいと嘆願した。しかしリヴィアさんは首を縦には振ってくれることはなく休暇申請を却下された
「その姿のまま講師を務めてもらって構わない、というよりやってもらわないと困る。今日は代理の者がいないから授業に穴が空いてしまう。具合が悪いわけでないなら通常通り任せるよ。周りにはエレナ嬢は休みと話して君は臨時の講師という話にしておくからさ」
と軽く言い破られてしまった。確かに具合は悪くないしむしろ力が滾っている位だ。本当こういうところはしっかりしてるんだよな
他に休めそうな口実も考えていないし言ったところでまた言い負かされてしまいそうなので仕方なく生徒達の待つ冒険者学校へと向かい、この姿のまま講師を務める事にした。学校に到着して生徒達の前に立つとエレナがやって来るのを待っていた生徒達は突如現れた見知らぬ男性の登場に困惑していた
「えぇ~本日エレナ先生が都合により急遽お休みとなりましたのでその代理として私エレ・・・いや、エドガーといいます。今日1日のみとなりますが皆さんよろしくお願いします」
「えぇ~エレナ先生休みなの?今日の授業大丈夫かしら」
「私エレナ先生に教えてもらいたかった事があるんだけど」
「なんだよ男かよ・・・」
まぁ想定内の反応である。いきなり現れた奴にそんな事言われてもちゃんとした授業ができるのか不安だもんな
各々思うところはあるようだが、口で説明するよりも行動で示した方が手っ取り早いと思った私は恒例の模擬戦を利用してその実力を知らしめることにした
生徒全員に対して無傷の完勝、久しぶりに男の体で動くのはとても爽快だった。最初は前との体格差で距離感を掴むのに少し苦労したが、エレナの時と違って俊敏性や膂力が数段上がっていたから誰も私に触れることすら叶わなかった
「エドガーさん彼女さんとかいないんですか!」
「その髪色って珍しいですよね。エレナさんも同じ髪色ですが身内の方とかですか?」
さっきまでの反応とは一転、模擬戦を終えて休憩時間になった途端女性陣からの凄まじい質問の嵐
そして恨めしそうな視線を浴びせてくる男性陣。分かる、昔の私もそっち側の人間だったから気持ちはよく分かるぞ
しかし本当前世でこんなに女性に囲まれる事なんて一度もなかったら正直自分でも驚いている。勇者時代はパーティメンバーの女性陣以外との交流が皆無だったし、目つきの悪さから皆近寄りがいと思っていたのは自分でも気づいていた
戦いに明け暮れる毎日を送っていたせいで疲れ切っていた上に各地を転々としていたから碌に寝れていなかっただけなんだけどな。そんな昔と比べたら今は大分柔和な感じに見えるんだろうか
休憩が終了するまでの間結局終始質問攻めされて少し疲れたが悪い気はしなかった。休憩後は生徒達1人1人に模擬戦での反省点を告げていき個別指導していった後、今度は生徒を半々に分けて模擬戦を行った
その様子を見守っている最中、背後からやってきた何者かに飛びつかれる
「エレナさ~ん!・・・ってあら?エレナさんじゃない?」
「王女様、エレナさんは本日お休みでして・・・」
背中にアタックしてきたのはセフィリアだった。私の事をエレナと間違えてしまったようだ。いや間違ってはいないが
「これは失礼、雰囲気がそっくりでしたのでついエレナさんかと思って反射的に飛びついてしまいました。お休みなのでしたら今日はこれでお暇しますね」
エレナがいないと分かるとセフィリアはそそくさとその場を去って行った。私がエレナだと言ったらどんな反応するか少し気になったが、それ以上に面倒な事に巻き込まれそうな予感もあったので何も言わず見送る事にした
その後生徒達の授業は滞りなく終わらせた私はいつもより多く動いた為、帰宅後すぐにお風呂場へと向かい汗を洗い流した。洗い残し等で湯舟を汚して皆に嫌がられたくはないので普段より念入りに洗ってから湯に浸かろうと思い、石鹸を泡立てていると脱衣所の方からガラッと扉が開かれる音が聞こえてくる
「あっ、エレナさん先に入ってたんですか」
「フィ、フィオナ!?」
扉の先から現れたのは前に布一枚だけで一糸纏わぬ姿のフィオナ。私は条件反射で瞬時に目を逸らした
こういう事態にならないよう早く帰ってきていつもより早い時間に入ったのにまさかフィオナと鉢合わせてしまうなんて
いや落ち着け・・・いくら私だと分かっていてもフィオナだって流石に男とお風呂に入るなんて抵抗があるだろう。そう考えた私は気にしていない体を装い再び体を洗い始める
しかし私の予想に反してフィオナは特に気にする素振りもなく私の元へとやってくる。それだけでなく手に持っていた布で私の背中を擦り出した
「せっかくですから背中洗ってあげますよ」
「いやいや!普段ならまだしも今日はまずいでしょ!」
「なんでですか?エレナさんはエレナさんなんですから男性でも私は全然気にしませんよ。そんな事より凄いガチガチですねぇ、男性の背中って皆こんな筋肉質な感じなんでしょうか」
何か言っていた気もするがこちらはそれどころではない。さっきから背中を上下に擦る度にそれと連動してフィオナの豊満な胸が布越しに当たってて理性を保つのに精一杯なのだから
目を瞑っていたのが却って徒となりその感触がより鮮明に伝わってくる。こういう時は何か他の事に意識を逸らして終わるの待つしか・・・無理だ、この破壊力の前ではどんな策も無意味
とにかく手だけは死んでも動かさまいと自分の太ももを鬱血させる程強く掴んだ。ここで手を出したら今までの関係が崩壊してフィオナが離れていってしまうかもしれない。それだけは阻止しなくては!
一時の情欲に耐え続け、ただただ時が過ぎていくのを待っていると再び扉が開かれる音が聞こえてきた
その音に思わず瞑っていた目を開けてしまう。そこにはフレイヤやフローリア、シエルにセレーネにラミアス、キューちゃんと勢揃いしていた
「あっ!ご主人様の背中を洗おうと思っていたのに先を越された!というか何胸を押し当ててるんだいやらしエルフめ!」
「えぇ?普通に洗ってただけなんですけど。どうしても当たっちゃうんですよ」
「ぷぷっ、フィオナ直々の洗体は気持ちかったかいエレナ?」
「エレナ様の体温がどんどん上昇していっています。のぼせたのでしたら私の布を濡らしてくるのでそれを体に当てて下さい」
浴場なので当然だがフィオナ同様皆見事なまでに全裸、せめて湯あみ着だけでも身に着けて欲しかった。フィオナ1人でも限界ギリギリだったのにこれはもう流石に・・・
シエルも言っていたが体温が上昇していっているのが自分でも分かる。上がりすぎて体中から蒸気まで発生する始末・・・・ん?蒸気?いくらなんでも蒸気が出るのはおかしくないか?
異変に気づき何が起こっているのかと自分の体を見てみると徐々に縮んでいっているのが分かった。体が縮んでいくと共に段々と男性から女性の肉付きへと変わっていき、蒸気が出なくなった頃にはエレナの姿へと戻っていた
「やったー!元の姿に戻れたー!」
「戻れて良かったな主よ!」
「やっぱりエレナはこっちの方がいいな!」
「もっと男の姿のご主人様を堪能したかった・・・」
フレイヤには悪いがこの姿に戻れてホッとしている。ついさっきまであった邪な気持ちが嘘のように無くなってくれた。フィオナに胸を当てられてもなんとも思わない
まさか女性の姿に戻れて安心する日が来るなんて思わなかったな。戻ってみて改めて実感したがやはり今はこの体の方がしっくりくる
今回事故のような形ではあったが男の姿に戻れて楽しめたしまた機会があれば・・・なんて思っていたが、円満な生活を送る為に今後男の姿には戻らない様にしよう。次は理性を保てるかわからない・・・
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