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169話 美味しい肉を求めて

「肉が食べたい!」




いつものようにお昼ご飯を食べ終え、一息ついているところにフローリアの心の叫びが木霊する

また突拍子もない事を言い出したなと思ったが、本人は至って真剣のようなので話を聞いてみることにした




「この前やったクリスマスパーティの時に沢山肉食べてたじゃん。満足できなかった?」


「違うのだ主よ・・・いや、あれはあれで美味かったがそうじゃないのだ。もっと歯ごたえのある奴の肉を食らいたいんだ!」


「というと例えばどんなのですか?」




話を切り出したはいいがそこまでは考えていなかったのか、フィオナの問いに暫し頭を悩ませるフローリア。そしてようやく思い浮かんだのか腰に手を当てて得意気に語りだした




「サラマンダラ!サラマンダラなんかどうだ!」


「サラマンダラかぁ・・・・あれを倒しに行くのかぁ」




サラマンダラといったら火山地帯のマグマの中に潜んでいるこの辺りには生息していない魔物だ

あれは確かに珍味として有名で高級肉のうちの1つだが、市場ではまず出回ることがないしわざわざその肉を求めて倒そうなんて考える者はいない

その理由としてサラマンダラが生息している環境が原因だ。先述通り奴はマグマの中を泳いでいて滅多に姿を現さないし出てきたとしても数分顔を出す程度で陸に上がって来ることなどまずあり得ない。その為倒すとなると長期戦を余儀なくされる

だが普通の人間はマグマに接近した状態でそう何時間もいられることはできない。加えてサラマンダラの攻撃、奴は泳いでいる最中尾を使ってこちらに向けてマグマの雨を降らしてくる

装備に掠りでもしただけで燃えてしまうようなマグマが直撃でもしたら大変な事になってしまうのは火を見るよりも明らか

それに火口付近は足場が悪い場所もあるから誤って落ちたりでもしたら一巻の終わりだ。それらの対策をして装備やアイテムを購入するとなるとあまりにも割に合わない

そんな理由もあり自分から出向いてサラマンダラを倒しに行くような者いないのだ

かくいう私もそこまでサラマンダラの肉を食べたいわけじゃないので乗り気ではなかったが、フローリアがどうしても血肉の滴るような新鮮な肉に(かぶ)りつきたいと言って聞かない

場所が火山地帯の深部ということもあってフローリアとの相性も悪く、1人で行かせるのも心配だったので仕方なくついていくことにした




「ご主人様・・・私もお供していいでしょうか」


「なんだフレイヤ、お前も美味い肉が食いたくなったのか」


「う、うるさい!お前が変な事をしてご主人様に迷惑をかけないか見張ってるだけだ!」




サラマンダラを倒しに行くことが決まるとフレイヤも同行を求めてきた。やはり同じ竜種として新鮮で美味しい肉を定期的に食べたくなるのは本能なんだろうか

この3人であれば戦力的には十分すぎる。私達はサラマンダラを探しに火山地帯へと行ってみる事にした

赤竜の里近くまで転移で移動し、そこからフレイヤの案内でサラマンダラがいそうな火山に目星をつけて火口へと繋がる洞穴の中を進んでいった

道中向かってくる魔物を倒しながら下っていくと、徐々に気温の方も上がってきているのを感じたので早めに暑さ対策として魔法を全員にかけておいた

洞穴を下り続けていくとやがてボコボコと沸騰した時のような音が聞こえてきた。ようやくマグマの場所に到着したようだ

洞穴の時とは比べ物にならない熱気。この場にいるだけで肌が焼けるような感覚に陥ってしまいそうだ

先程かけた魔法をまるで意に介さないかのように体の至る箇所から汗が湧き出るように出てくる



「あづい・・・がえりだい・・・」


「言い出しっぺが早々にギブアップしてどうするの。でもこれは確かにヤバいね・・・こんな場所に長居したくないからさっさとサラマンダーを見つけて家に帰ろう」


「ほら、そんな所に座ってないで早く行くぞ」




フレイヤは赤竜だけあってこの位なら屁でもない様子。流石にマグマの中に入って捕まえてくるというのは厳しいようだが

暑さに耐えながらマグマに近づいていきサラマンダラがいないか確認。しかしいくら探知してもそこにサラマンダラの気配は感じ取れなかった。フレイヤが言うにはここにはもう1つマグマ溜まりがあるということなのでそこにも行ってみることに

更に下層を目指して歩いていきサラマンダラがいそうな場所に到着、そこで再び探知を行うと小さな気配の中に一際大きい気配を感知した。間違いなくサラマンダラだ

案の定奴はマグマの中を優雅に泳いでいてこちらから攻撃を仕掛けるのは難しい。魔法を使えばできなくもないが、その場合ここの火山活動を停止させてしまう

そんな事をしてはここを管理しているフレイヤの里の人達に怒られてしまうのでなんとかサラマンダラだけをマグマから引きずり出したい




「さて、用意してきたこれで釣り上げられるといいんだけど」


「主よなんだそれは?」


「ん?釣り竿」




空間保管(アイテムストレージ)から取り出したのはここに来る前、事前に作っておいた特製の釣り竿。炭素繊維で(しな)り具合を強化した竿に糸はメタルスパイダーという蜘蛛から取れる糸に魔力を流し込んだもので、マグマの熱にも耐えられるようにして餌は道中で生きたまま捕らえた魔物シェルワームを針につける。餌に食いついたサラマンダラを釣り上げようという作戦だ

この餌もマグマの熱に耐えられる殻で覆われていてサラマンダラが好んで食べる魔物でもある。生きたまま捕らえたのは死んだ状態だとサラマンダラが怪しんで餌に食いつかない可能性を考えての事

シェルワームをマグマの中へと放り込み気配を消しながら待機、初の試みなので上手くいくかは分からないがとにかく相手が食いつくまで根気よくやっていくしかない

その間この死ぬほど暑い空間にいなくてはいけないのが非常に苦痛だが・・・サウナより厳しい環境の中交代で水分補給をしながら待つことおよそ1時間、うんともすんともいわなかった竿が動きを見せたと思った次の瞬間には凄まじく(しな)り始めた




「きた!フレイヤ!」


「わっかりましたー!ふんっ!」




フレイヤが竿を持って一気に引っ張り上げる。この引きは間違いなくサラマンダラだろう

しかしフレイヤがいくら竿を動かしてもマグマの中から顔すら出してこないなんて・・・サラマンダラの中でもこいつは大物かもしれない

それに加えて自由に泳ぎ回る相手に対しこちらは足場の悪さと強度重視で使いやすさを考えていなかった釣り竿、そのせいでフレイヤの力が上手く伝わっていない様に見える。このままでは反対にフレイヤがマグマに引きずり込まれてしまうので私とフローリアも加勢することにした




「何をやっている!さっさと釣り上げろ!」


「うるさい!そんなに言うならお前がやってみろ!」


「言い合ってないで皆でタイミング合わせて引っ張るよ!」




いがみ合う2人を諫め3人で竿を手にしてサラマンダラに対抗。引っ張っては引っ張り返される一進一退の攻防を繰り返すこと数十分、ようやく疲労を見せ始めたのか竿を引く力が弱まってきた。最後に息を合わせ渾身の力を込めて一気に引き上げる

思いきり釣り上げられたサラマンダラは宙を舞い私達の上を通過した後地面に叩きつけられた。背中にはヒレ、6本の脚には水かきがついていて魚とトカゲを足したような見た目をしている

体はマグマに耐えうる非常に頑丈な鱗で覆われていて炎系の魔法は全て無効化されてしまう。私達であれば物理で無理矢理倒せなくもないが、この場合もっと簡単な方法がある

鱗は熱に強い分極端に冷えに弱い。水か氷系統の攻撃を加えることによって鱗は脆くなり簡単に破壊する事が出来る

簡単といってもそれはフローリアの様な強力な技が使えた場合で、通常の冒険者の魔法だったら何十発も撃ち込まないと倒すことは叶わないだろう




「よしっ!マグマから引きずり出せればこっちのもんだ!くらえー!」




地面に叩きつけられジタバタとしているサラマンダラに向かって氷のブレスを放つフローリア。熱を帯びて真っ赤になっていたサラマンダラの鱗がたちまち冷えていって徐々に凍りついていく

始めは抵抗しようと起き上がろうとしていたがそれも段々と弱まっていき、最後は為す術もなく氷漬けにされてしまった。引きずり出してからは実にあっけないもので釣り上げようとしていた時の方が苦労した位だったな

それにしてもやはり通常サイズのサラマンダラより倍近くはあるな。これだけの量があれば持ち帰って皆にも分ける事ができそうだ


倒したサラマンダラを一刻も早く食べたい様子のフローリアだったが、もうこの環境に耐えることが出来そうになかったので私達は一度外へ出る事にし、それからサラマンダラを食すことにした

頑丈だった鱗はフローリアの攻撃によって脆くなっているので簡単に剥ぐことできた。丁寧に処理していき、フローリアとフレイヤの要望で自身の体より大きな肉に切り分けてじっくりと焼いていく

そうしてようやく肉にありつくことが叶ったフローリアは目の前にある焼きたての肉に思い切り噛りついた。まだ中が少しレアだったがそんな事はお構いなしといった様子で夢中で胃の中に収めていった。見てるこっちがお腹一杯になってしまいそうだ

自分と同じ位のサイズの肉をものの数分で平らげたフローリアは一息ついた後満足気な声を漏らした




「これだ・・・この血が滴る様な肉肉しい肉を私は食べたかったのだ!主よ!もっと食べたいぞ!」


「まだこんなにあるからそんなに慌てなくても大丈夫だよ」


「ご、ご主人様・・・私も」




フローリアの豪快な食べっぷりに隠れて気づかなったがフレイヤも同じ量を既に平らげてしまっていた。これ食べ尽くされないか心配だな・・・先に持って帰る分だけ確保しておこう

私の予感は的中し、結局フローリアとフレイヤの2人でサラマンダラの肉を殆ど食べ尽くしてしまった。帰宅後、シエルに確保しておいた肉を夕飯に出してもらったがそれもペロリと平らげてしまったのだから恐ろしい胃袋だ

しかしこれで肉肉と喚かなくなるだろう。私も暫く肉を食べるのは遠慮しておこう・・・





読んでいただきありがとうございました!

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