167話 下着泥棒
ヒナタの誕生日会を行った後、数日程実家で過ごしてから私達は街へと戻った
帰り際には別れるのが嫌だったのかヒナタが大泣きして大変だったが、私達をモチーフにした人形を作ってプレゼントすると泣き止んでくれた
これからはヒナタに会う為にもう少し帰る頻度を増やしてもっと両親の手伝いをすることにしよう
街に帰ってきてからはまた通常通りの生活リズムへと切り替わった。皆しっかり休養を取ったことでそれぞれの仕事にしっかりと精を出している
そしていつもの様に仕事終わりで露天風呂に入り、上がって脱衣所で下着を取ろうと籠に手を伸ばすと何故か下着だけがいくら探しても見当たらなかった
「あれ?持ってくるの忘れてきちゃったかな?まぁ上に服だけ着とけばいいか」
その時は気の所為だろうと考え疑問に思うことはなかったが、翌日に今度はフィオナの下着が無くなったと騒ぎになり更にシエルのまで消えるという現象が起きた。これだけ立て続けに下着が無くなったらもうこれは誰かに盗まれているに間違いない
街に出た時に小耳に挟んだが、どうやら家以外にも下着が盗まれてる家があるらしい。しかも無差別に盗んでいるのではなく被害に遭ったと声を上げてる殆どが見目麗しい女性だということ。犯人は余程の面食いだということが予想される
これだけ被害を受けている者がいれば誰か1人位は犯人の顔を目撃してると思ったが、誰1人として犯人の姿を目撃していないというので未だに犯人の目処がついていない状態だ
それにしてもこの敷地内一帯には部外者が入れないよう結界を張り巡らしていて他の家と比べて簡単に入れない仕組みにしたつもりだが・・・それを掻い潜る者の仕業とでもいうのだろうか?
他の被害者も気づいたらいつの間にか盗まれていた感じで危害を加えられた等の報告は上がっていないそう
とはいえこのままただ待つつもりはない。忍び込んでいるということはお風呂に入っている現場を覗かれていた可能性も否めない。せっかくの憩いの時間だというのにそんなのが居たら癒されるものも癒されないじゃないか
そこで私は皆を集めて犯人を捕まえる為の作戦会議を開いた
「下着泥棒さんを捕まえてしっかり弁償してもらわないといけませんね!あれお気に入りで高いやつだったんですから!」
「うん、その泥棒を捕まえたいんだけど何かいい案はないかな」
「怪しそうな奴を片っ端から拷問してみるのはどうですか」
「男共を全員氷漬けにしてしまえば解決するんじゃないか。どうだ主よ」
やだこの2人過激すぎる。2人に任せたら無実の人が犠牲になりかねないな。せめて犯人の特徴でも分かればいいんだが・・・
私達の下着が盗まれた場所は皆揃って夜の時間帯でお風呂場の隣にある脱衣所。脱衣所に入るには家の中からか露天風呂がある外からか、そして脱衣所に設けてある小窓位なもの
家の中には人が居るんだからまず有り得ないし脱衣所に下着類が置かれている時はまず誰かがお風呂に入っているので、気づかれず侵入するのも難しいと思うし魔法で姿を隠しても何かしらの違和感は覚えるはず
そうなると残すは小窓となるがここの小窓は換気目的で設置したものなので非常に小さく、ラミアスでも通り抜ける事は難しい大きさだ
そこから入ってくるとは想像し難いのだけど・・・犯人の特徴が分からない以上可能性がないとは言えない
「じゃあ囮作戦というのはどうかな?」
「囮?」
セレーネが提案してきた作戦内容は脱衣所にあえて下着という餌をばら撒いておき、それを盗みに来たところを取り押さえるというもの
若干の抵抗感はあるがこちらから見つけ出すのが難しい以上この作戦よりいいものはすぐには思い浮かばない為、セレーネの案を採用して試してみることにした
脱衣所に無造作に置かれた下着。連日にかけて盗まれたので今日も来る可能性は大いにある
「しかし人間というのはこんな布1枚に欲情するのか。男というのは面白い生き物だな」
「それ自体にっていうかその下着を手に入れて着けていた人の姿を想像するのが好きなんじゃないかな。いや単なる憶測だけどね」
一応元男としてそういう気持ちは分からなくもない。それでもやはり一線だけは超えてはならないのだ
姿と気配を消して犯人がやってくるのを待つ。しかしその日は犯人がやって来ることはなかった
それから数日続けて行ってみたが下着泥棒が再び我が家に盗みにやって来る様子は見られない。突然パタリと来なくなったので引き際を悟ったのかと思ったが、他では変わりなく被害は出ているようだった
「下着だけ置いてあるのが不自然で警戒してるのかな?やっぱり誰かが入ってる時じゃないと盗みに来ないのかも」
確かにこれみよがしに下着だけ置かれてても不審に思われるか。そういうわけで囮作戦その2、自分自身が囮となって相手を油断させ誘い込む作戦に変更
身も心も女性のフィオナ達に任せるのは忍びないので犯人を捕まえると言い出した私が実際にお風呂に浸かり囮となることにした
1日目はそれでも何も起きなかったが2日目、平静を装いながら周囲を注意深く警戒していると微かにカサッと草の擦れる音が聞こえてきた。気づかないフリをしたまま浸かり、音がする場所を追っていると脱衣所方面に移動しているのが分かった
小窓の所まで来ると壁をよじ登り、周りに人がいないかを確認した後小窓を開けて脱衣所に入っていく。暗がりの中を物音立てず静かに歩き、下着を盗ろうと籠の中に手を伸ばして漁り始める
その瞬間気配を消し、隠れながら全容を監視していた捕獲班が一斉に襲いかかり犯人を捕えた
「捕まえたぞこの下着泥棒!観念してお縄につくんだな!」
暗がりの中暴れる犯人を取り押さえようと私も急いでお風呂から上がり着替えて加勢に行く
犯人の姿を確認しようと明かりを点ける。するとそこには予想していた人物とは全く異なる者が捕らわれていた
「ウキィ!」
「猿!?」
なんと下着泥棒の正体は人ではなく猿だった。街に猿が入って来るのは珍しいが探せばそこら辺にいる動物だ
私の結界は人向けに重視して作ったものだから反応しなかったのか理由が判明した。まさか猿が下着を盗みに来るなんて思いもしなかった
下着なんか盗んでどうするつもりなのか、と捕まえた猿を持ち上げるとこの猿から人の魔力の流れを感じた
調べてみると何者かがテイムした猿という事が明らかとなった。この猿を使って自分の元まで下着を運ばせていたと考えられる
姑息な手を使う犯人だがこれは相手の居場所を突き止めるのに使える。この猿がテイムされているならその犯人と魔力で繋がっているということ。つまりこの猿の魔力の元を辿っていけば犯人が分かるというわけだ
いつまで経っても猿が戻って来ないようでは怪しまれる可能性があるので即座に行動に移し、暴れる猿を鳥かごサイズの檻に入れ魔力の反応が強い方へと向かっていく
そうして辿り着いた場所が女性服専門店。ここの店主は男性で流行り物を取り扱っており、若い女性が多くやってくるそうでフィオナもそのこの店にはよく行っていたらしい
裏口に回り込むと明かりが点いていて、覗いてみるとそこには店主と思われる男性が何やら箱の中を漁っていた。よく見るとそこには今まで収集したであろう無数の下着があった
その中に一際大きいサイズの下着が。見覚えのあるあの柄はきっとフィオナの物だろう
証拠を掴んだからにはもう遠慮をする必要はない。裏口の扉を無理矢理壊して中へと侵入し犯人に飛びかかった
「な、なんだお前ら・・・・!へぶっ!」
「お前が下着泥棒の犯人だな。痛い目を見たくなければ抵抗するんじゃないぞ」
そう言って倒れた犯人に馬乗りになって取り押さえるフレイヤだったが、飛びかかる勢いが強すぎたのか泡を吹いて気を失ってしまっていた。人の物を盗んだのだから微塵も同情はできないが
その後の調べによると男が盗んだ下着の数はおよそ300着という数にまでなったそうだ。女性にモテない反動で行った犯行理由には目も当てられない
しかし結界の張り方を見直すいい機会になった。これからはもっと厳重な仕様にして蟻1匹入れないよう徹底しよう
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