165話 年末突然の訪問
今年の終わりを告げる最後の日がやってきた。皆で手分けして家の掃除、といっても新しく建てたばかりでそこまで汚れていないので目立つ場所だけをキッチリと綺麗にし庭の手入れをサッと済ませてお昼前には終了
午後からは今年最後の夕食の準備と新年を祝う為の料理の準備を始める。去年は王城に招待されて色々あったが今年は内輪だけで楽しく過ごす予定だ
あぁいう華やかな料理を楽しみながら年を越すのも悪くないが、やはり普段通り家でまったりと過ごす方が性に合っている
料理の準備で私ができる事がなくなったので外の景色を眺めながら今年の出来事を振り返りながら来年の事を考える
今年は初っ端から妹のヒナタが生まれて驚いたな。年が明けたらすぐ1歳の誕生日があるからお祝いをしなくては
海底都市への旅っも色々波乱もあったがその分出会いもあり楽しい思い出となった。2度目の生誕祭ではそソウカさんと出会い人前で歌えるよう共に工夫しながら頑張ったっけな。今ではすっかり人気者になって今日も結構大きい会場で演奏をすると手紙が来てたし順調そうで何よりだ
フレイヤについて行った竜王祭も迫力があったし里の竜達も気さくで楽しかったな。そこでフローリアとも出会い新たな仲間となり賑やかになった
そして勇者レオンの登場。面倒だけど来年中に勇者レオンの件も片づけられるといいな
そんな事を考えつつお茶を啜っていると門に新たに設置しておいた人感装置が反応した。門の方を確認してみるとそこにはここに来るはずのない人物が見えた
門の前まで迎えに行くとそこには王都にいるはずのセフィリアとお付きとして騎士と給仕さんが数名立っていた
「セフィリア!?どうしてここに?」
「お久しぶりですエレナさん。以前から耳にしていた勇者様がエレナさんのいるこの街にいると聞き一目見ようと来てみたのですが・・・どうやら既に帰国されてしまったようですね。残念です」
そう言ってあからさまに残念そうな素振りを見せるセフィリアだが実際のところ勇者は二の次で本当の目的はこっちにある様な気がする・・・
それはそうと今日はユリウスさんの姿が見えないのでどうしたのかと聞いてみると数日前から休暇を与えているようで、その休みを使ってツバキさんがいるオストシア大陸で年を越すんだそうだ
セフィリアがここに来たことは驚きではあったがある意味好都合でもある。勇者の件を前から話そうと王都のギルドマスターリヴィアさんを通して王への謁見を申し入れていたのだが、何分この時期は色々とバタバタしているようで中々許可が下りず話せずにいた。王女様に長々と立ち話をさせるわけにもいかないのでセフィリアを家の中へと招き入れることに
お付きの人達はどうやら道中の警護とお世話のみを任せていたようで、家に入るのはセフィリアだけで残りの人達は宿がある方角へと消えていった
家に上げると中にいた皆もセフィリアを見て驚いていたが暖かく迎え入れてくれた。フレイヤは相変わらず私を取られないようセフィリアを警戒している。フローリアは初対面ということもあってかジロジロとガンを飛ばしていたのでやめさせ、先日起きた勇者との一件を順を追って説明し、条件付きで聖剣を渡そうとしている旨を話した
私の話を一通り聞き終わった後、セフィリアは納得してくれたようで頷いてくれた
「任せて下さい。その件については私が責任をもって持ち帰りお父様に伝えておきます。勇者様に聖剣が渡るというのが本来あるべき形なのでしょうし納得してくれるでしょう」
「ありがとう、助かるよ」
本当は受け取った自分が直接国王に言うべきなんだろうがここはセフィリアに任せるとしよう
年内に話せることができてよかった。これで1つ肩の荷が下りたな
「で、勇者には会えなかったわけだけどこの後はどうするつもりなの?もう帰っちゃうの?」
「いえ、今から帰っても道中で年を越すことになってしまいますしもう少し街を見て回ってから帰ろうと思います。それでエレナさんが良ければ今年最後の日を一緒に過ごしたいのですがよろしいでしょうか?」
「よろしくない!」
「貴女には聞いていません!」
家に泊まることは別に構わないが毎年王城で行われているパーティは良かったのかと聞くと、変わり映えしない貴族の面々が集まって例年と挨拶を交わし年を終えるのはもう飽きてしまったそうだ。国王や女王、王子がいれば自分がいなくても大丈夫だろうと言っていた
こちらとしても追い返す理由もなかったし1人増えたところで問題はないのでセフィリアを泊めてあげることに。夕食の時間までまだ大分あったので何か遊びでもしようという話になり、ラミアスが学校で教えてもらったという王様ゲームなる遊びをすることとなった
王様ゲームとは番号が書かれた棒と1本だけ赤く塗られた棒があり、その赤い棒を引いた人が王様となって番号を指定して好きな命令を与えるという遊びで、王様の命令に当てられた人は絶対言う事を聞かなくてはならないらしい
「なるほど・・・ちなみに好きな命令というのはなんでもいいんですよね?」
「なんでも大丈夫!」
なんでもという言葉を聞くとセフィリアは俄然やる気を出し始めた。嫌な予感がする・・・
1回目一斉に棒を引き他の人に見えないよう書かれた番号を確認する。1回目の王様はフローリアに選ばれた
「2番!2番が王様であるこの私に跪くのだ!」
「はぁ!?」
フローリアの命令に声を上げたのはフレイヤ。2番はフレイヤだったか
命令に抵抗しようとするフレイヤだが王様の命令は絶対。最終的には砕けるのではないかという位歯を食いしばってフローリアの前で跪いた
フレイヤには悪いがセフィリアに当たらなくてよかった・・・
「いやぁ王様というのは気分がいいなぁ♪」
「こいつ・・・絶対許さない」
1回目から喧嘩が始まりそう雰囲気なんだが大丈夫なのかこの遊びは・・・
険悪な空気の中2回目が行われる。再び棒を引いて番号を確認、今度も王様には選ばれず次に王様となったのはフィオナだった
「うーんそうですねぇ。じゃあ5番の人と1番の人がハグで」
初回があれだったからか難易度を下げるフィオナ。そして5番は私だ、まぁハグ位なら楽勝だな
相手は誰かと見渡すとラミアスが手を挙げた。ラミアスなら大歓迎だ
ラミアスの元まで行き抱きつくと少し身長が伸びているように感じた。一杯食べて体も沢山動かしているしこれからどんどん大きくなってそのうち抜かされてしまうのかもしれないな
などと考えていると二方向から刺さるような嫉妬の視線を浴びせられたので命令を遂行したということで席に戻る
2回目で一部を除き和やかな雰囲気に戻ったとこでゲームを続け3回目4回目と無難な命令が続き、5回目が行われたところで初めてセフィリアが王様の棒を引き当てた
王様となったセフィリア自分が本物の王族なのにも関わらず飛んで喜んだ。一体どんな命令をしてくるのかと固唾を呑みながら見守る
セフィリアは明らかに私のが持っている棒を穴が開く程見つめていた。いくら見たところで番号が透けるわけでもないのに・・・
「6番!6番の方は王様をお姫様だっこして愛の言葉を囁いてください!」
「うわっ、本当に当てたよ・・・」
これだけ人がいてまさか本当に当ててくるとは・・・本当に透視したのか?
けどまぁ恥ずかしい位でこなせない命令ではないからなんとかなるか。セフィリアの体をヒョイッと抱え上げ頭にパッと浮かんだ言葉をセフィリアに向けて放つ
「私の大切なセフィリア、君の瞳はまるで宝石の様に綺麗で見ていて飽きない。その素敵な瞳に私しか映らない程夢中にさせてあげるよ」
言い終わり自分の言葉を思い返してみると凄く恥ずかしくなってきた。こんなキザなセリフ自分の口から出たと思うと吐き気がする
しかし私の感情とは裏腹にセフィリアの顔は赤面していて天にも昇りそうな表情をしていた。どうやら満足してくれたようなので恥ずかしい思いをした甲斐はあったのかもしれない。金輪際こんな言葉を発することはないだろう
その後もゲームは淡々と続き、キリがいい10回目を最後とすることに。自分の引いた棒を見ると赤く塗られている
ここまで一度も王様になれてなかったが最後の最後で引き当てることができた。しかしいざ王様に選ばれても何を命令すればいいのか分からないな
「なんでもいいんですよ~命令して下さい王様」
「ん~・・・あっ、じゃあ1番から7番。楽しく仲良く!来年もお願いします」
これは命令というより私の願いのようなものだが素直な気持ちを吐露したもの
周りの様子を窺ってみると何故か反応がない。何か変な事を言ってしまったのかと不安になっていると周囲から笑いが起こった
「もう~何を言い出すのかと思ったらそんな事ですか。そんなの当然じゃないですか、こちらこそよろしくお願いします」
「私もですよご主人様!来年もお願いします!」
「来年もよろしく~♪」
ゲームにはならなかったが結果的にいい締め方になったのではないだろうか。恥ずかしい思いもしたけどこういう素直な気持ちを言わせてくれたゲームには感謝しよう
こうして温かい雰囲気の中今年最後の日は過ぎていった。来年だけでなくずっとこうして過ごせるといいな
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