164話 クリスマスパーティ
勇者が自国に戻った事で束の間の静寂を得た私はその後何事もなくのんびりとした生活を送っていた
寒くなっていくにつれて外に出るのが億劫になる季節だが今年も残すところあと僅か。今日も今日とて仕事を終えて帰ってくると既に帰宅していた皆が夕食の準備を始めている
すると食器をキッチンから運び出してテーブルに並べていたラミアスがこちらに気づき、何やら1枚の用紙を持ってきて私に見せてきた
「エレナ!家に学校の友達を呼んでこれをやりたいんだが!」
「んー?どれどれ・・・・クリスマス?ってなに?」
ラミアスが渡してきた紙には聞き覚えのないクリスマスパーティという文字が綴られていた
何かの催しかと考えているとシエルがクリスマスについて説明を始めだした
「クリスマスというのはなんでも北の国で行われている恒例行事で赤い服を身に纏って鶏の肉をメインとした料理とケーキを食べるらしいです。その後は皆で用意しておいたプレゼントを交換しあって楽しむんだとか。昔はその国を発展させた偉大な人に祈りを捧げるだけだったみたいですが、少し前からそのようなイベントに変わっていったそうです」
要するに生誕祭のようなものか。そうだな、ラミアスから学校の事はよく聞かせてもらってはいるが実際どんな関係を築いているのかも知りたいし今は家が広くなって沢山人も入れるようになったから大丈夫だろう
「そういう事なら家を使っても大丈夫だよ。ただあまり遅くまでやると親御さんが心配するから学校から帰ってきた後の数時間だけね」
「分かった!ありがとう!明日皆にも伝えてくる!」
そういう訳で家にラミアスの友人が集まることになり、数日後に控えたクリスマスパーティの材料を集める為の作業が始まった。せっかく集まるのなら市販で売られているような素材ではなくいい素材を使ったもので振舞ってあげたいと思い、手分けしてお目当ての材料を集めていく事に
まずクリスマスのメインとなるのは鶏肉との話だったので私はフレイヤ、フローリアに協力を扇ぎとある魔物を倒しにこの辺りで一番標高の高い山へとやってきた
私達が狙っている魔物は標高が高い山に潜んでいると言われているクック・ターキー。分厚い毛に覆われていて物理攻撃を無効化し特殊な鳴き声で相手を錯乱や幻覚状態にしてくる鳥の魔物
足場がほぼ崖のような場所に生息している為あまり人に狙われない魔物だが、この時期のクック・ターキーは冬に備えてたくさん栄養を摂っているので丸々と太っている上にとてもジューシーで美味しいと評判の食材なのだ
2人のレベルなら心配はないだろうけど念の為状態異常無効の魔法をかけ、フレイヤが炎で分厚い毛を焼き払いフローリアが瞬時に凍結させる。クック・ターキーは倒した瞬間からどんどん鮮度が落ちてすぐ腐ってしまうのでこうして凍らせて運ばないといけない
狙い通り栄養を沢山摂ってて結構な大きさなので数羽程度にしようかとも思ったが、大食らいの竜2人もいるので多めに狩っておくことにした。この鳥なら子供達にもきっと満足してもらえるだろう
ついでにクック・ターキーの卵も入手。ケーキ作りを担当するシエルとフィオナが使用する卵にちょうどいいはず
続いてケーキを作る為に必要なミルクを手に入れるのに草原へとやってきてリッチクリーム・カウという牛の乳を搾ることとなった。通常の乳牛の3倍濃く、しかしくどくなく後味がサッパリとしているミルクを搾る事ができる牛でお菓子を作る時に使うと良いとされる材料だ
この牛は比較的温厚で乳を搾る段階までは苦労しないが、乳を搾るのにコツがありそれが手馴れてないとかなり難しく、上手く搾れないと機嫌を損ねて乳を出さなくなってしまうので手先が器用な者でないといけない
ここでは以外にもセレーネが乳搾りに買って出てきて、本で得た知識を活用して瞬く間に必要な量のミルクを搾乳してくれた
残すはは樹木、どうやら樹に飾り付けをするのも北の国での風習らしいので飾る用として飾り付けがしやすそうな樹を選んで家の中に設置した
「エレナ様、少しよろしいですか?」
「どうしたのシエル?」
家の中や樹に飾り付けを施して着々と準備を進めていく中、シエルに呼び止められた
シエルが言うにはクリスマスというのは友達とのプレゼント交換の他に親がサンタクロスという役になって寝ている子供にこっそりプレゼントをあげる風習もあるんだとか。なので私にもその役をやってラミアスにプレゼントを上げてはくれないかということだった
ラミアスへのプレゼントか、食べ物は十分用意してあるしおもちゃとかには興味が無い。この時期だったら手袋とかマフラーが無難なところかな。いや、アクセサリー?はまだちょっと早いか
ラミアスに何を上げようかと悩んでいるとあっという間に日は経っていき、クリスマス当日がやって来た。夕方になると学校を終えたラミアスの友達がたくさんやってくる
その時間に合わせて下ごしらえをしておいたクック・ターキーを半分はオーブンで丸ごとじっくりと焼き上げていき、もう半分はフィオナが調合した複数のスパイスの粉とハーブを乾燥させて細かくして小麦粉と合わせたものを満遍なくつけ、高温に熱した油の中へと入れて次々と揚げていった
そうこうしているうちにラミアスが友達をぞろぞろと連れて帰宅。子供達はサンタクロスが着るという服を既に着ていてなんとも可愛らしかった。全員が揃っているのを確認できたら飲み物を用意し、乾杯の音頭をラミアスに任せる
「今日は皆来てくれてありがとう!カンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」
「さぁ皆さん沢山食べて下さいね~」
乾杯を終えると皆出来立てのクック・ターキーのフライドチキンとオーブン焼きに手をつける。フライドチキンはピリ辛なスパイスとハーブの香りが効いていてカリッとした衣とジューシーな肉との相性が抜群。お酒にきっと合うんだろうが今日は子供達が集まっているのでジュースで我慢
オーブン焼きは食欲をそそる照り具合でじっくりと焼き上げたことによってナイフを入れると肉汁が滝のように溢れ出てきた。パリパリの皮と濃いめの甘じょっぱいタレがついた肉はそのまま食べても勿論美味しかったが、野菜などと合わせてパンに挟んで食べるとまた絶品だった
ラミアスの友達も皆美味しい美味しいと喜んで食べてくれていたので用意した甲斐があったというものだ
皆が一通り満足した頃合いを見計らって今度はケーキの出番。シエルとフィオナが張り切りすぎてかなり大きいケーキを作って食べきれるか心配していたが、ふわふわのスポンジに濃厚でありながらしつこくないクリームと孤児院の子達から買ったパナモの実等のフルーツをふんだんに使ったケーキはいくらでもいけて皆であっという間に完食してしまった
大満足だった食事の後はプレゼント交換会。やり方としては円を描くように並んで決められた金額の範囲で各々が買ってきたプレゼントを曲に合わせて回していき、曲が止まった時点で持っていた物が自分の物になるらしい
そうしてラミアスに回ってきたのは可愛らしいリボン。一番仲良さそうにしていた女の子のプレゼントが回って来たのでラミアスは喜び、その場で着けて私達に見せびらかしていた
盛り上がりを見せたクリスマスパーティも子供達が帰る時間を考えて夜が更ける前にお開きにした。ラミアスはいうと友達を見送ると遊び疲れたのか片づけを手伝った後普段より早めに眠りについた
私はラミアスの枕元に用意していたプレゼントを起こさないようそっと置き、忍び足で部屋をあとにした
迷った挙句手袋とマフラーの両方にし、身に着けると暖かくなる仕組みを施したのでいつでも体がぽかぽかの状態を保てる
当初はラミアスだけにプレゼントするつもりだったが、お店を見ていた時に同じ商品で色違いのものがあったので内緒で購入して他の皆にも寝ている間に枕元へと置いておいた
始めはわざわざ寝ている間にプレゼントを渡す意味があるのかと思ったがサプライズみたいで少し楽しかった
翌朝、目覚めて朝御飯を食べようと扉を開けた瞬間、昨夜私が贈った手袋とマフラーを着けた皆が私に飛び掛かってきてそれぞれ感謝の言葉を述べてきた。皆気に入ってくれたようだしクリスマスパーティ・・・恒例行事として行ってもいいかもしれないな
少し早いクリスマスのお話です。読んでいただきありがとうございました!
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