163話 譲渡の条件
来客室を借りにギルドにやって来た私と勇者一行。中に入り受付のお姉さんに事情を話すと快く受け入れてもらえたが、周りにいた他の冒険者がこちらを見ながらヒソヒソと話をしているのが見えた
まぁ昨日の騒動があった後でまた一緒に歩いているのだから無理もないだろう。仲良くなったみたいに思われるのは少し不本意ではあるが・・・
「どうぞ」
「ありがとうクリスティア」
部屋に入りテーブルに座るとクリスティアと呼ばれる神官がお茶を淹れてくれた。朝食を摂った後だったので渋めのお茶が口の中をスッキリとさせてくれた
一息入れて落ち着いた後はこの部屋の会話が他の人に聞かれないよう遮断の魔法を展開。発動の最中魔女が私のことを凝視していたが別に大した魔法じゃないしこれ位あの魔女も使えるだろう
部屋に展開し終えどこから話すべきかと考えていると勇者の方から先に話を切り出してきた。勇者は何故聖剣が必要なのかを私に一から懇切丁寧に説明してくれ、聞いたそこに偽りはないと聞いていて判断できる。といっても概要は昨日セレーネが話していた通りとほぼ同じものだったので内容の擦り合わせをしているようなものだったが
「この件については自国でも一部の者にしか知らされていないのでどうか他言無用でお願いしたい」
「勿論、魔王が復活なんて周りに漏れでもしたら大事になりますからここでの事は誰にも言いませんよ」
「それでなんだが・・・やはりこちらとしてもその剣を諦める訳にはいかないんだ。どうか頼む!その聖剣を譲ってくれないだろうか!私の一存では決められないが・・・エレナ殿が提示する条件を可能な限り飲むと約束しよう!」
レオンは今朝自宅の前で頼み込んで来た時より深く、そして長い時間私に頭を下げてきた。それを横で見ていた神官も同じく頭を下げる
残りの獣人と魔女はこちらの返答次第で対応を返ると言った感じなのか即座に動けるような態勢でこちらの様子を窺っている。素直に渡せば特になにもしてこないが断れば強行策、といったところか
こっちの2人の様子からしてそれを知っているようには見えないし独断行動によるものか
昨日の様子とは打って変わって低姿勢なその姿は勇者としては似つかわしくないものだが、こちらの方がずっと好印象だ
私は天を仰ぎ考え込む。正直なところ聖剣はもう勇者に渡しても構わないと思っている
最初聖剣を渡したくなかったのは所有者として選ばれたからという訳でもなければ国王から授かったものだからというわけでもない
勇者に求められた時、私が懸念していたのはこれを渡したことによってセレーネも一緒に離れてしまうのではないかと思ったからだ
長い間一体化していた聖剣はセレーネの分身体のようなもの。それが離れてしまった時セレーネも共に消えてしまうのではないかとその時危惧した
普段からおちゃらけているセレーネではあるがこれでも腐れ縁のような関係だ。いなくなったらやはり物寂しいし何より今はもう家族の一員でもあるのだから
それ故にあの時は勇者の頼みを即座に断ったが、昨日セレーネに呼び止められて聞かされた話が考えを改めるきっかけとなった
ー昨夜ー
「この剣がどうかしたの?」
「いやぁ実はね。聖剣と分離したからなのかこの剣の中に私とは別の人格が生まれちゃったみたいで」
「・・・どういうこと?」
「端的に言うとだね、ボクがその剣と同化することは難しくなっちゃったみたい♪」
異世界の話に続きまたしても理解出来ないカミングアウトに混乱しかけたが、セレーネの解釈によると聖剣から姿を現すのに同化を解除した際に僅かに切り離された精神の残滓のようなものが聖剣の中に残ってしまっていたらしい
更に予想外だったのは精神の残滓が独立して徐々に成長していったことで、クラーケンとの戦闘で聖剣に戻った際その存在に気づいたそうだが、その時点では既に別の人格が出来上がっていてセレーネとは全くの別人格が聖剣に宿ってしまっていたらしい
私の知らないところで何度か会話を重ねたそうだが、幸い害を及ぼすような存在ではなかったようだ。セレーネの分身体ということもあってか聖剣の力は損なわれることもないと判断できたので、その別人格とやらに聖剣を委ねることに決めたと話していた
「そういうのはもっと早く言ってよ・・・じゃあこの聖剣を勇者に渡してもセレーネは変わらずここにいるってことだよね?」
「他に行く所もないしボクもここでの暮らしは気に入ってるからね。あっ!もしかしてエレナ、ボクの事心配してたから勇者に聖剣を・・・あいたっ!」
「変なこと言ってる暇あるならもう寝なよ。おやすみ」
ということが昨夜あり今はセレーネとは別の人格を持つ者が聖剣に宿っていることが発覚。別人格というのが気になるがセレーネが消える心配がない今、私がこの剣に固執する理由は特にない
なので聖剣を手放して勇者に譲渡することもやぶさかではない。しかし聖剣の能力が失われていないのなら突破しなければならない問題がある
「顔を上げて下さいレオンさん。そこまで言うのならまずはこの剣を持ってみてくれませんか」
「ん?持つだけでいいのか・・・?あばばばばばばば!」
「レオン!?」
私に言われるがままレオンが聖剣に振れた瞬間、聖剣が拒否反応を示して全身に強烈な電撃が走った。まぁこうなる事予想できていた
この通り聖剣が複数の所有者を認めることはなく、所有者以外が触れると電撃を放たれる
しかし実のところ例外がいる。それが勇者なのだ
勇者であればどんな呪い、制限がかけられている武器だろうと関係なく装備することができる。けどこのレオンは勇者にも関わらず聖剣に拒まれた。その理由は恐らくこのレオンがまだ未熟で勇者としての資質が足りていないからだろう
「勇者であればこのように聖剣に拒絶されることはありません。つまり今の貴方ではまだまだ実力不足ということです。私からの条件は貴方が勇者として認められる域に到達すること。それが出来たらこの剣を譲ると約束しましょう」
「ほ、本当かエレナ殿・・・感謝する。皆、急いで国に戻り特訓に付き合ってくれ・・・!」
条件付きで聖剣を渡す事を約束するとレオンは電撃を浴びせらた体で仲間と共に法国へと帰国した
こうして台風の目は去っていった。そう遠くない日にまた会いにやって来るんだろうがあの実力だったら暫くは大丈夫だろう
それまでな平穏な生活を送りたいものだ
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