161話 異世界より生まれし勇者
「はっ!?ここは・・・ってて!」
「あっ、目覚められましたね勇者様」
「クリスティア・・・」
レオンが目覚めるとそこは予め取っておいた宿のベッド。横には果物の皮を剥いているクリスティアが
体を起き上げようとすると頭部に激痛が走った。痛みに襲われながらレオンは記憶を遡る。あのエレナという女性と戦っていた事までは覚えている
自分の持つ技で対抗したが悉く躱されて・・・そうだ思い出した、散々避けられた挙句後頭に一撃を入れられてそのまま気を失ったんだ
俺はあの女性に完敗したんだな。こちらが全力で挑んだのに対して相手は全く本気を出しているようには見えなかった。ここに来るまでに遭遇した魔物とも何度か戦ったが苦戦することなく討伐することができた。鍛錬を積むようにと言われ毎日師匠にコテンパンにされながらも特訓をこなしてきたからいけると思ったんだがな
これでも俺なりにかなり頑張った方なんだ。なんたって俺がこの世界に来たのはつい数か月前のことなのだから
勇者レオンことこの俺、佐伯玲央はついこの間までここの世界とは違う日本という国で暮らすごく平凡な高校生だった
いつものように学校から帰宅している途中ひったくりの現場に居合わせてしまい、逃げる犯人を捕まえる為に追いかけて袋小路まで追い詰めたはいいものの犯人が忍び込ませていたナイフで刺され、意識が遠のいていく中でこのまま死にたくないと願いながら目の前が真っ暗になっていく次の瞬間、目を開けるとこの知らない世界にやってきていた
大きな魔法陣、この世界に呼び出された時周りにいた神官達は勇者召喚陣とか言っていた。そこからこの世界に召喚された俺は勇者として魔王を倒すことを求められた
といっても魔王自体はまだ復活はしていないらしく来たるべきその時に備えて力をつけてくれと言われ、剣の講師をつけられた。それが師匠だ
ファンタジー展開に憧れていた人であれば待ってましたと言わんばかりに歓喜するんだろうが、特にそういった趣味もなくお人好しなところ位しか取り柄のない俺がいきなり勇者になれなんて言われても二つ返事ではい!とは言えなかった
最初の頃は見知らぬ世界に飛ばされた孤独感で引き籠っていたが、今横にいるこのクリスティアの献身的なサポートのお陰で立ち直ることができた。異世界でありながらも言葉が通じるという点も大きかったのかもしれない
今思うとクリスティアは俺の為というより国の為、世界の為に行動したのかもしれないがそれでもこの世界で初めて心を許せる相手ができたというのは当時の俺にはかなり支えとなっていた
持ったこともない剣を振り回し師匠に扱かれる毎日を過ごしていると、グレゴールやエレノアといった仲間が気づいたら傍にいてこんな異世界での生活も悪くないと思えるようになり、口調や言動も変えて勇者っぽい?振る舞いもするよう自分なりに頑張ってみていた
ファンタジーをよく知らない俺でも元いた世界では有り得なかった技や魔法が使えるようになるとやはりテンションは上がった。人生で一番努力して必死に覚えてきたその技があの有様だった流石に凹んでいる
「そういえばグレゴールとエレノアはどこに?姿が見えないようだが」
「あの2人でしたらあのエレナさんという方の情報を集めてきてもらっています」
「そうか・・・」
「あまり気に病む必要はありませんよ。貴方はまだ勇者になられて間もないのですから」
そうは言ってもやはり勇者という肩書きを背負っていくと決めた以上無様な姿は晒したくない
本当なら今すぐにでも国に帰って師匠にもっと鍛えてもらいたいところだが当初の目的である聖剣を手に入れないと戻るに戻れない
でも勝負の前にあんな約束しちゃったからなぁ。どうしたもんかなぁ
今後の対応をベッドに寝ながら考え込んでいると部屋の外から足音が聞こえてきた。ヒールの音にドスドスと荒い足音、あの2人が帰ってきたようだ
扉が開かれると予想通りグレゴールとエレノアが部屋に入ってきた
「ただいま、戻って来たわよ~・・・ってレオン起きたのね。随分なやられようだったわね」
「エレノア、結構落ち込んでいるんだから少し位慰めてくれてもいいんじゃないか?」
「私がそういうことする人じゃないって分かってるでしょ?」
エレノアは俺が寝ているヘッドに腰を下ろすとクリスティアが剥き終わり皿に並べておいてくれた果物を手に取りヒョイと口に放り込んだ
それ俺の為に剥いてくれてたやつじゃ・・・まぁ言ったところで無意味だと分かっているのでエレノアのことは一旦置いといてグレゴールに話を振る
「それであのエレナという女性の情報は集まったのかい?」
「あぁ、簡単に集まったぞ。この街では知らない者はいない位有名な人物だそうだ。初めからギルドに行くのではなくこうしていればよかったな」
俺は痛めた体をゆっくりと起き上がらせ集めてきた彼女の情報を聞かせてもらった
彼女は冒険者としての階級こそ大したことはないが王都で開かれた剣舞祭というもので優勝を果たしているそうだ
剣だけでなく魔法も扱える器用さを持ち、その実力を買われて王都で冒険者の講師に抜擢され今は育成に励んでいるとのこと。ここは身をもって知ったので疑う余地はない
彼女は様々な種族と生活を共にしていてエルフや竜種等といった高位の存在もいるらしい。そういえば勝負の最中一際大きな声で彼女を応援している者がいたな。あの少女もその1人か
聞かされた限りでもエレナという女性が優秀な人間だということは理解できる。聖剣自身が彼女の元に来たという話も納得だ
一通り話終えたグレゴールは俺に質問を投げかけてきた
「で、実際に戦ってみた感想はどうだった?うちのお嬢とどちらが強いと思う?」
「正直分からない。悔しいが彼女にも師匠にも軽くあしらわれる始末だからな」
「流石にお嬢でしょ。なんたって法国が誇る剣姫様なんだから」
そう、自分の師匠は法国一と言われている剣の達人なんだ。エレナという女性の剣さばきもかなりのものだったが、それでもあの師匠が負けるイメージが湧かない。剣だけなら
彼女は魔法も長けているとのことなのでそのレベルによって結果はまた変わってくるだろう
「話が逸れてきてしまってますね。今はどうすれば聖剣を手に入れられるかを考えましょう」
話が脱線してしまったのをクリスティアが軽く手を叩き当初の話へと戻していく
俺が勝負に乗ってしまったから面倒な事に・・・どうしたら聖剣を差し出してくれるだろうか。お金で解決・・・あんまりお金には困ってなさそうだしいくら積んでも譲ってくれそうにないなぁ
聖剣に匹敵する剣と交換?いや、そんな剣があったら俺よりこの世界に詳しい3人が先に思いつくだろう
「無理矢理奪っちゃうのは?」
「いや、彼女の周りも手強い相手ばかりだからそれは難しいだろう。そもそもそういう手荒なマネはしたくないな・・・よし!とにかく明日もう一度彼女と話をしよう。今日会ったばかりだったのに突然寄越せと言ったのが悪かったんだ。ちゃんと一から話せば彼女も理解してくれるはずさ」
「そうですね、今日は旅の疲れもあるでしょうからゆっくり休みましょう」
彼女の自宅も情報を仕入れた時に把握済み。俺達は明日もう一度彼女に会いに行き説得を試みることに決め今夜はしっかりと体を休めた
負けたら諦めるという条件を破ることにはなるがやはり諦められない。俺の働きが世界の命運を握っているかもしれないのだから
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