160話 自称勇者の実力
勇者を名乗る青年レオンと聖剣を賭けて戦うことを決めた私は以前試験で利用したことがある会場を思い出し、そこを借りて戦うことに。手早く準備を済ませ会場にやって来るとさっきまでガラガラだった会場にはいつの間にか多くの人が押し寄せていた
きっと私達の会話を聞いていた者が話を広めたのだろう。よく見ると中にはどちらが勝つかと賭けをしてるものまで現れている始末
こちらは賑やかし目的でやってる訳じゃないんだが・・・まぁそれは放っておくとして今は目の前の相手に集中だ。相手は仮にも勇者を名乗る人物。それなりの実力を持っていなければ名乗るなんてマネはしないはず
先程私が勝負を持ちかけた時のあの表情、戦う前から勝ちを確信しているような顔だった。余程自分の腕に自身があるに違いない
レオンがやってくるのを待っているとちょうど対面側に受付でレオンの横にいた仲間達が観客席で声を上げていた
「やっちゃいなさいレオン!女だからって手加減する必要ないんだからね!」
「いや、見た感じあの嬢ちゃんは中々の手練れだぞ。油断していたらやられかねん」
「ちょっとグレゴール!貴方どっちの味方なの!?」
「けどあの方からは確かに他の人とは比べ物にならない程の神の力を感じます。あの方が何者かは知りませんが警戒すべきなのは同意です」
神官・・・法国の中でも特に神を崇拝している者達がなれる職だったっけか。一週間清められた神聖な水以外の物を一切口にせず神に祈りを捧げ続ける。それをやり遂げた一部の者のみが神の力の一端をお借りすることができる、とかつての仲間で法国の聖女を務めていたカルラがそんな感じの事を言っていた気がする
こっちの正体が気づかれるなんて事は流石にないと思うけど気をつけておこう
それにしても賑やかな人達だな・・・いや、それはこちらも同じか
「ご主人様!あんな紛い者の勇者なんて一捻りにしちゃって下さい!」
私の真後ろの席からエールを送ってくるフレイヤ。勇者の仲間達からの視線が痛いからやめて欲しい・・・
そんな視線に耐えて数分、ようやくレオンが準備を済ませてやってきた。随分と時間がかかったようだが見た感じ先程と様子は変わっていないように見える
レオンは開始位置に着くと剣をゆっくりと抜きながら私に語りかけてきた
「女性に剣を振るうのは忍びないがこれも聖剣を手に入れる為だ。手加減はしないぞ」
なんか言動がいちいち癇に障るな。とにかくそのお手並み是非とも拝見させてもらおう
相手の剣は直剣で聖剣に似せて作ったような剣。スタンダードな中段でどこからでも攻撃を繰り出すことができる構え
あとはどんな技を使ってくるかな。この会場の広さからして流石に大技は使ってこないとは思うが
とりあえず出だしは相手に合わせて探っていくか
「それでは、始め!」
「くらえ!ダブルチャージスラッシュ!」
「はっ?」
開幕からいきなり溜めが必要な隙の大きい技?技の威力は確かにあるが放つまでに時間を要するから1対1で使うような技じゃないぞ
いや落ち着け、これはもしかしたら誘いかもしれない。あの技は上段から振り下ろして繰り出す技で技発動までの待機中懐がガラ空きとなる。その隙を利用して相手が自分の懐に飛び込んでくるのを待っているのかもしれない
本来ならそんな誘いには乗らないが、ここはあえて誘いに乗ってやろう
技を繰り出そうとしているレオンの懐に一息で距離を詰める。果たしてここからどういう手を打ってくるか
相手の動きを注意深く観察しながら攻撃を放つ。しかし相手は私が懐まで潜り込み攻撃を仕掛けても構えを変える様子はない
こちらの攻撃が相手に届くかというところでレオンはなんとそのまま先程の技を放ってきた。攻撃を中断し慌てて回避、超至近距離で撃たれたチャージダブルスラッシュはさっきまでいた場所の地面を深く抉っていたが、直撃することは無かった
どんな手を使ってくるのかと思ったらまさかそのまま撃ってくるなんて。変に勘繰りすぎたせいで躱すのがギリギリになってしまった
「ふっ、中々やるようだな。ならこれはどうだ!火炎狼牙!三撃
!」
「またっ!?」
次もレオンが繰り出してきたのは隙の大きい技。しかも今度はそれを三発連続で放とうとしている
ただでさえ隙がある技を連発なんてこちらに攻撃しろと言っているようなものだぞ
溜めが終わりレオンはこちらに向かって攻撃を撃ってきたが、当然そんなバレバレの技が当たるはずもなく今度は余裕をもって避けることができた
前の攻撃といいさっきからこの男はなにをやってるんだ。どういう意図でこんな技ばかり使ってくるのかサッパリ分からない
「これも避けるのか・・・!なら今度はこれでどうだ!」
それ以降幾度となく技を放ってくるレオンだったが、使ってくるのはどれも発動までに時間がかかる技や放った後硬直するようなものばかり。こんなの負けるなという方が難しいぞ
どうやら今までのは作戦でも何でもなかったようだ。これ以上やっても時間の無駄だと判断した私はレオンが次に放ってきた攻撃を掻い潜り、頭部へ手加減した一撃をお見舞い。軽い一撃でも受け身をとれなかったレオンは当たり所が悪かったのかそのまま伸びてしまった
「う、うぅ・・・」
「しょ、勝者エレナ」
あまりにもあっけない終幕。この男・・・弱すぎる!
能力や技自体は決して低いわけではないがこれで勇者を名乗るのはあまりにもおこがましい。そもそも戦い方が下手くそすぎる
見栄えのいい技ばかり使いたがり相手が反撃してこないことを前提としたスタイル。まるで覚えたての技を得意気に見せびらかす少年のようだった
何か裏があるのではないかと警戒していた自分が恥ずかしく思えてくる・・・・
「あちゃー・・・何をやっとるんだレオンは」
「手も足も出なかったじゃない!どうするのこれ」
「一先ず勇者様を回収して一度出直しましょう」
観客席で戦いを見守っていた3人組はぐったりとしているレオンを担いでどこかへ行ってしまった
勇者の戦いを見れると集まっていた者も私があっさり勝ってしまったからかはたまた拍子抜けだったのか愚痴をこぼしながら退散していった。勝手に盛り上がって集まったのはそっちだっていうのに・・・
正直レオンについて聞きたい事はあったけど今日はもう帰るとしよう。この件については先にセレーネから聞いた方が早そうだし恐らくまたすぐ再会することとなるだろう
私とフレイヤは当初の用件をササッと済ませて帰路へと着いた
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