149話 赤 対 黒
黒竜シヴァとフレイヤの試合がいよいよやってきた。これでフレイヤが勝てば自身初の竜王となり、負ければ黒竜が快挙となる10連覇を達成してしまう
他の竜族からしても10連覇はなんとしても阻止したいところのようで会場は自ずとフレイヤを応援する声が多くなっていた
試合の前にはフローリアとの試合で消耗した体力と魔力を回復してあげた。試合中の援護は無理でもこれ位ならルール違反にはならない
それでも完全に回復させるには時間が足りず、万全とは言い難い状態で送り出すこととなった
「どうフレイヤ、大丈夫そう?」
「ありがとうございますご主人様。大体7、8割程といったところでしょうか。でもこれだけ回復すればなんとか大丈夫だと思います!」
フレイヤは意気揚々といった感じに私に振舞っているが正直な話かなり厳しいのではと思っている
万全な状態のフレイヤが黒竜と戦い実力を十分に発揮できて五分だと私は予想している。今の状態ではせいぜい7:3といったところだろうか
だがこれはあくまで私が知っているフレイヤの能力を計算しての勝率。特訓を重ねて私や黒竜が知らない何かがあれば勝負は分からない
「ここまで来たら勝ってほしいとは思うけどくれぐれも無茶はしないでね」
「いえ、多少無理でもしないとあの黒竜には勝てませんので頑張ります」
「そっか・・・そりゃあここまで来たら譲れないよね。やっぱり竜王っていう称号は竜族にとっては名誉なものだろうし」
「あ、いえ。勿論それもあるんですが理由はそれだけじゃなくて・・・・」
フレイヤには称号の他にも理由があるようで、暫く体をモジモジさせてから呟いた
「前に剣舞祭でご主人様が1番になったじゃないですか。だからご主人様に仕えている私も同じ1番になって胸を張って横に立ちたいんです・・・」
フレイヤはそう言うと赤竜の赤い体を更に紅潮させる。想像していたより可愛らしい答えに私は思わず笑ってしまった
「あっはははははは!」
「ちょっ!ご主人様どうして笑うんですか!」
「いやぁごめんごめん。馬鹿にしたわけじゃないんだ。フレイヤは可愛いなぁって思って・・・・それじゃあ絶対に勝たないとね」
「ご主人様・・・はい!必ず勝ってきます!」
準備が整い開始地点へと向かうフレイヤの体を叩いて送り出す
厳しい戦いになるだろうがフレイヤならきっとやれると信じて待とう。それが主人と呼ばれている私が今できる事なのだから
「それではこれより黒竜族シヴァ対赤竜族フレイヤの試合を行う」
「くふふっ、楽しませてもらうぞ」
「今回こそ勝たせてもらう!」
両者が構え戦闘態勢に入ると審判員が開始の合図を出し決勝が始まった。すると黒竜がフレイヤに手を向けてかかって来いと挑発してきた
普段のフレイヤであれば誘いに乗って突っこんでいくだろうが今回は冷静に受け流し相手の出方を窺っている
挑発に乗ってこないと分かった黒竜が先に距離を詰めてきた。その黒竜がフレイヤの目の前までやって来て地面に脚を着けた瞬間、黒竜を囲むように炎の柱が突然現れた
「フレイムサークル!」
フレイヤが黒竜を炎の柱の中へと閉じ込めた。開始直後に黒竜が手招きしていたあの時に罠として仕掛けておいたようだ
しかしそこら辺の魔物相手ならともかくこれは黒竜にダメージを与えられるような技ではない。どちらかというと相手の注意を逸らす為に仕掛けたものと思われる
炎の柱が消えた頃にはフレイヤは黒竜の背後へと回り込んでいて上空へと移動を終えていた。死角から炎のブレスを放つ
「暗黒吸収」
けれど黒竜はそれに素早く反応して地竜の時と同様黒い渦を使ってブレスを飲み込み、それを倍にしてフレイヤにと返した。フレイヤはそれをなんとか躱して地上へと戻った
やはり魔法の攻撃ではあの黒い渦に飲み込まれてしまうようだ
返された技も自身と同系統の魔法ならそこまでダメージはないが、倍にして返されるとなると迂闊に食らうことはできない
それにしてもあの魔法をどうにかしない限りあの黒竜に魔法でダメージを与えるのは難しいな
「今度はこちらの番だな」
黒竜はそう言うと地面の中へと体を沈めていき姿を消してしまった。居場所を探ろうにも自分の気配、魔力反応まで完璧に隠していてどこから来るのか見当もつかない
フレイヤもこの技は前回使われていなかったのか動揺をしている。周囲を警戒するフレイヤを弄ぶような時間が流れていく
「くそっ!どこにいる!」
「ここだ」
フレイヤの声に応えて黒竜が現れたのはフレイヤの後方、影の中から。意表を突かれたフレイヤは反応が遅れて黒竜の鋭利な鉤爪が背中に直撃する
「ぐっ!」
翼を狙いフレイヤの機動力を失わせようという攻撃だったが、体を捻らせた事でなんとかそれは回避できた
しかし黒竜の攻撃はそれだけに終わらなかった。フレイヤと似た戦法でフレイヤの足元に黒い沼のようなものが現れる
するとそれは片脚を飲み込んでいきフレイヤの動きを封じた
急いで沼から抜け出そうとするが中々抜けないようで苦戦していた。そうしている間にも黒竜は容赦なく襲ってくる
片脚が捕まっているから避け切ることができず傷が増えていく。反撃をしようにも思うように動けずまともな攻撃ができない様子
このままではまずいとフレイヤは自分の脚に向かってブレスを放った。その衝撃でようやく沼から抜け出す事ができた
けど今のでかなりダメージを負ってしまったようで若干フラついている
「はぁ・・・はぁ・・・」
「フレイヤ!頑張れ!」
「ご主人様・・・・まだまだ!勝負はこれからだ!」
「そうだ、もっと楽しませろ!」
読んでいただきありがとうございました!
「よかった」「続きが気になる」など思っていただけたら幸いです
少しでも気に入ってくれた方ブクマ、評価、感想等々頂けると大変励みになります
次話投稿時間はTwitterの方で告知させて頂きます。よろしくお願いします!




