144話 代表戦
竜の群れに囲まれてしまった私達はその間を潜り抜け、赤竜族族長の元へ行って挨拶を済ませた
そしてその日の夜には私達の歓迎と明日に控える代表戦参加者達を激励する意味が込まれた宴が開かれた。私達用に用意された場所に座ると、今日の為にと火山地帯で育ったボルケーノボアの肉が目の前にある焚き火の上に吊るされて置かれる
既に軽く焼かれている肉からは香ばしい匂いが漂ってくる
「さぁおかわりはいくらでもあるからどんどん食べてくれ」
「ありがとうございます。遠慮なく頂きます」
おかわりといっても目の前に吊るされて炙られているボルケーノボアの大きさは馬と大差がない。フレイヤはともかく私達は全員でかかってもこれ一匹を食べ切るのは難しいな
ナイフの刃を入れ肉を切っていくと切った先から肉汁が溢れ出てくる。まだ中の方が若干生焼けだったので火で炙り好みの焼き具合で頂く
イノシシの肉という事でもっと臭みがあるかと思ったが、表面に塗られている香辛料のお陰か全く気にならない
お返しにとこちらも渡す予定で買っておいた葡萄酒の酒樽を皆に振る舞った
ピリッとした辛さの中に隠れているフルーティな味つけが葡萄酒と実によく合う
お酒が飲めない子供達にはシュワッと口の中で弾けるぶどうジュースをあげた。1口目は皆その刺激に驚いていたが2口目、3口目はそれが癖になったようでとても好評だった
「それにしても他の竜達とも話せるようになって良かったね」
「この指輪のお陰ですね」
皆の指には指輪が嵌められている。この指輪はイグニスさんから借りた物でこれを身に付けると竜族が話す言語を理解することができ、こちらが発する言語も竜族の言葉に変換されて相手に伝わるという便利な代物だ
フレイヤの様に竜達全員が人族の言語を使えるというわけではないのでここにいる間この指輪は必須となるだろう。お陰で他の竜達ともコミュニケーションが取れるようになり、宴効果もあって親睦を深めることができた
そうして賑やかな夜を過ごした翌日に赤竜族の代表を決める戦いが行われた
この戦いに参加するのはフレイヤを含めて10体。どの竜も周囲から実力を認められている強者達だ
代表戦はトーナメント形式で行われ、シード権が2枠設けられていてその枠には前回の代表者が収まる
フレイヤは前回の代表となっているのでシードとして参加。2回戦目からの参戦だ
1回戦目が行われていき4試合目でフレイヤの相手が決まった。相手はフレイヤよりも一回り大きいオスの竜。初戦の相手を一撃で沈めていたのできっと勢いに乗っているはず
「フレイヤさんの相手強そうですね。大丈夫でしょうか」
「大丈夫。フレイヤも特訓を積んでいたから負けないよ」
2回戦目からシードとなっている竜も参戦。初戦を勝ち抜いてきた竜を倒して3回戦目に勝ち上がった
そしていよいよフレイヤの順番がやってきた。開始地点に立ち初戦の相手と対面するとその体格差が更に際立っていた
「始めっ!」
開始の合図とほぼ同時に相手が翼を羽ばたかせ上空に飛ぶ。そして体を目一杯逸らしてフレイヤに向かってブレスを放ってきた
戦闘区域全体を覆い尽くす回避不可なそのブレスに対してフレイヤもブレスを放ち真っ向から挑んでいく
ブレス同士のぶつかり合いにより冷却布では対応しきれない凄まじい熱気が襲ってくる
しかし勝負は一瞬で決着がついた。フレイヤのブレスが相手のブレスを飲み込みそのまま直撃、上空にいた対戦相手は耐えることができず地に落ちた
「よしっ!」
「やったぁ!フレイヤさんの勝利です!」
竜族の十八番であるブレス同士の対決での圧勝。文句なしの勝ち方だ
世界樹で出くわしたあの魔物に完敗を喫して以降フレイヤは鍛錬を怠らなかった。その成果がしっかりと戦いに反映されている
フレイヤの豪快な勝利によって他の竜達もそれに触発されて試合は更にヒートアップしていった。どの試合も実に見応えがあり、見ているこちらも思わず力が入ってしまう程だった
初戦を突破したフレイヤはその後の3回戦、準決勝と順調に勝ち抜いていき、決勝では同じくシードだった竜と戦うこととなった。この時点で竜王祭の代表入りは果たしていたが、だからといって手を抜くことはない。竜王祭で再び戦う事になる可能性も十分に有り得るのでそこはお互い真剣勝負で挑んだ
その結果多少粘られはしたもののスピードを活かした戦い方に相手がついてくる事が出来ず、最後に尻尾を使い壁に叩きつけたところで相手が戦闘続行不可能となりフレイヤが代表決定戦の優勝を飾った
「おめでとうフレイヤ。無事に突破したね」
「ありがとうございますご主人様!でも本番はここからなので気を引き締めていきます!」
そう、これはあくまで代表を決める戦いであり通過点でしかない。他の竜族からも選りすぐりの猛者達がやってくるので呑気にはしていられない
代表入りが決まった日から開催されるまでの間フレイヤは竜王祭に万全の状態で挑めるよう鍛錬を積み重ねた
ついでに私達も一緒にその特訓に付き合った。普段見かけない火山地帯にいる魔物は街の近くにいる魔物より強くて戦い甲斐があり、戦闘経験を積んで間もないラミアスやキューちゃん、シエルにもいい刺激となってくれた
そんな特訓の日々を数日程送りいよいよ当日がやってきた。里から少し離れた場所にある火山活動が停止している山の火口部分が今回の開催地とのことで私達もそこへ向かうこととなった
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