142話 閑話ータクト達の冒険ー
王都ギルドの受付前にて
この日は依頼を済ませてきたタクトらパーティの一行が帰還してきた
「今回の依頼も楽勝だったな!」
「あんたはただ魔物に向かって突っ込んでいっただけでしょタクト。フォローするこっちの身にもなりなさいよ」
「多少無茶しないと強くなれないんだよ」
あれからはタクト達は着々と力をつけ、全員が1番下の階級から1つ昇格して銅の冒険者となった
そして今回初の銅の依頼をこなしてきたわけだが、その依頼も危なげなく達成することが出来た
「お待たせしました。こちらが本日の依頼報酬になります」
「よしっ!早速飯食いに行こうぜ!」
「ちょっと待ちなさい」
お金を受け取り食堂へ向かおうとするのを仲間の1人であるサーラに引き止められる
グチグチと文句を言うタクトを無視してそのまま他の仲間3人が待っているテーブル席へと着かせる
サーラはパーティ全員がいるのを確認すると今回貰った報酬金と今まで貯めていたお金をテーブルに出して分け始めた
当面の宿代やポーション等の消耗品にかかるお金。そして食事に当てられる分のお金とキッチリ分割されていく
「これが当面の食事代よ」
「えっ、これだけかよ。これじゃあ腹一杯食えないじゃないか。こっちに分けられてるお金使えばもっと楽になるだろ」
「このお金は貴方達の使い古されてボロボロになった装備を買い替える代金よ。その防具もう流石に限界よ」
サーラに言われて自分が着ている装備と自分同じく前衛であるセインの装備を見てみると傷だらけのボロボロ。装備に関しては自分の命を守るものなのでしっかりと整備はしていたつもりだ
それでも使っていればどうしても限界は迎えるもの。卒業した時に講師から貰った剣の方は未だに健在だが防具の方はそろそろ潮時か
「しゃあない、気に入ってたけど買い替えるとするかぁ」
「普段は厳しいけどなんだかんだ僕達の事気にかけてくれてくれるからサーラって優しいよね」
「なっ!?勘違いしないでよ!貴方達がやられでもしたら後衛の私達が危険に晒される事になるんだから当然でしょ!ねっ!アイリ!」
「私に振らないでよぉ」
装備をどうするかという話をしていたはずが段々と逸れて関係のない話へ
その会話を今まで傍観者として聞いていた5人目のメンバーでパーティの盾役であるダンが手を叩き、脱線した話を戻していく
「とにかくまずはタクトとセインの装備を新調する。これは決まりだね」
「こっちは全く問題ないけどダンの装備はいいの?一番体張ってるしダンの装備も買い替えた方がいいんじゃない?」
「俺は盾メインで攻撃を受けてるから盾の方が消耗してるかな。それでもまだまだ使えるから今回は2人を優先で俺の方はまた今度でいいよ」
この中で一番歳上でしっかりとした対応をするダン。こういった面は俺にはまだ真似ができない
「でもそうしたら自由に使えるお金が殆どないねぇ・・・この前生誕祭があったのに指を咥えて眺めるだけしかできなかったし」
「だなぁ。何か報酬のいい依頼受けないとなぁ」
「なら食事の前にいい依頼がないか見ていきましょ」
席を離れ皆で依頼板に貼り出されている依頼を見ていく。王都のギルドだけあって他のギルドより依頼の数は圧倒的に多い
銀、金といった高難度の依頼は銅に比べて相手にする魔物もそれに対する報酬金も桁違いで実に魅力的だ。本当なら今すぐにも受けたいところだが、今の自分達では実績も実力も満たしていないので悔しいが今は力をつける為に目の前の事に精一杯取り組んでいくしかない
「この依頼なんてどう?」
アイリが持ってきた依頼書はメルトスパイダー討伐。山間に位置する村の近くにある昔坑道だった場所にメルトスパイダーが巣を作ってしまったとのことでギルドにやってきた討伐依頼
俺達銅のが受けられる依頼の中で中難度となる依頼。その分報酬金も他の依頼より一段高くなる
「銅に上がりたてでいきなりこれは危ないんじゃない?」
「私もダンの意見に賛成かな。坑道での戦闘なんて慣れてないし」
「それ言ったらいつまで経っても成長できないだろ」
「十分に対策していけば大丈夫なんじゃない?」
「私の補助魔法で事前に強化しておけば何かあった時対応できるんじゃないかな」
2対3。念の為多数決を行い依頼を受ける事に決定
受けると決まったら反対していた2人も文句を言うことはない。5人もいれば意見が分かれる事なんて日常茶飯事なのでそういう時はこうして多数決で決め、決定した方に従うという取り決めをしている
「仕方ないわね。じゃあ私はこの依頼を受けてくるから貴方達は先に食堂に行って席を取っておいて」
サーラは依頼書をアイリから受け取ると受付の方へと行き手続きを始めた
俺達は先に食堂へと向かい席を確保することに。食事を終えた後は依頼に使えそうなアイテムを購入し、最後に装備屋へと入り俺とセイン2人の防具を新調した
翌日、1日かけて俺達一行は村に到着。そこで1泊してから早朝にメルトスパイダーのいる坑道へと入った
「うっ!酷い臭い・・・・なんなのこの臭い」
「ここにはメルトスパイダーが住み着くよりも前にコウモリの群れが住んでるみたいだね。天井から落ちてくる糞に気をつけないと」
「にしてもこの臭いはきついな。どうにかならないのか」
「あっ、前特売で買ったこれが約に立つかも」
サーラが袋から取り出したのは緑色の粉が入った小瓶。サーラは瓶を開けるとその緑色の粉を小指軽くつけて鼻の下に塗り始めた
「この粉は異臭を消す効果があってこうやって鼻の下とかにつければ臭いが気にならなくなるの」
「へぇ便利だな。でもこうして見るとなんかヒゲ生やしたおっさんみたいだな」
「うっさい!嫌ならタクトの分はあげないから!」
「タクトくんデリカシーない・・・・」
しまった、思った事を口に出してしまう悪い癖が出てしまった。前言われた時から気をつけているつもりだがたまにこうして失敗してしまう。俺は怒らせてしまったサーラに慌てて謝り緑の粉を分けてもらった
サーラの言った通り粉をつけると先程まで鼻を刺激していた不快な臭いがみるみるうちに消えていった。これで気にする事なく奥へ進むことができる
坑道の中間まで来た辺りで俺達はメルトスパイダーの巣を発見した。張り巡らされた巣には天井にいたコウモリ達が十数匹程捕まっていてそのうちの何匹かが食い散らかされていた
糞尿以外にキツい臭いを発していたのはこの死骸だったようだ
巣を発見したはいいものの肝心のメルトスパイダーの姿が見当たらない。奥の方を覗いてみると他にも幾つかの巣を発見した
念の為巣を壊しながら奥へ奥へと進んでいく。すると斥候を任せているセインの手が上がる
前方に敵がいるサインを送られ俺達は戦闘態勢に入る。少ししてカサカサと無数の足音がこちらに向かって来ているのが聞こえてきた
アイリの魔法で周囲に明かりを灯すと足音の正体が姿を現す
「メルトスパイダーだ。けど小さい・・・これは子供のようだな」
「成長する前に倒しておいた方がいいよな。数は多いがこれ位なら大した事ないだろ。行くぞ」
掛け声と共に俺、セイン、ダンの3人でメルトスパイダーの幼体に切り込んでいく
人の顔位の大きさですばしっこいが攻撃力自体は高くない。ただ粘着質な糸を集団で吐かれると動きを封じられる可能性があるので注意が必要だ
3人の間を抜けていった敵は後衛の2人に任せて一匹残らず駆除していく
早めに対処することができて良かった。これ以上数が増えて成長していたら手に負えない状態になっていたな
向かってきたメルトスパイダーの幼体を粗方倒し終え、生き残りがいないか確認をしていると後方にいたアイリが声を上げた
「3人とも避けてっ!」
「うおっ!」
アイリの声に反応し咄嗟に後ろへ飛ぶ。態勢を整え自分達がいた場所を見ると謎の粘液で地面が溶けていた
その奥には8つの目を光らせるメルトスパイダーの姿が。先程の幼体とは比べものにならない大きさで3mはゆうに超えている
先程の攻撃はメルトスパイダーのもので、相手は口から粘液の玉のようなものを吐き出してくる
まともにくらえば防具を貫通し体まで溶かしてしまうだろう
けどこちらもそれについてはしっかり対策済みだ。今回の為にメルトスパイダーが吐く糸で作られたマントを購入した
この糸には酸に強い耐性があり、先程の粘液に当たっても溶ける事無く防ぐ事が出来る
目には目を。粘液さえ防ぐ事が出来れば恐れることは無い
「行くぞ!お前ら!」
「「おぉ!」」
陽動としてセインが敵の注意を引きつけその間にダンと俺で敵に接近。近づいてくるこちらに気づいたメルトスパイダーは再びこちらに粘液の玉を吐きかけてくる
それをダンがマントをグルグル巻きにした盾で防ぐ。ダンの後ろにいた俺が横から抜け、回り込んでいたセインと息を合わせて攻撃を打ち込む
瞬間、メルトスパイダーは跳躍し天井に張りついた。それでも俺達の攻撃を完全に避けることはできなかったようで脚2本は切り落とせた
「上にいたら攻撃出来ねぇじゃねぇか!降りてこいこら!」
「避けなさい!」
後方で今度はセーラが声を上げる。弓矢にアイリの魔法が付与してありそれをメルトスパイダーに向けて放つ
矢は着弾した瞬間に爆発。それによりメルトスパイダーは仰向けの状態で落下した
「今だ!」
その隙を狙って一斉に攻撃を浴びせる。爆発のダメージで動きが鈍った相手に為す術はなく、俺が最後に入れた一撃で動きを止めた
「やったわね。これで依頼は完了よ」
「やったわね、じゃねぇよ!あと少し俺達の退くタイミングが遅かったらクモの下敷きになってただろ!」
「だ、だから言ったじゃない避けなさいって。無事に倒せたんだからいいでしょ」
人の事言えないがこいつもこいつで結構危なっかしいんだよな・・・・まぁ全員大きな傷もなく無事に帰れるんだからよしとしよう
幼体も含め討伐は無事完了。メルトスパイダーの素材を回収した後村の人達に報告、その後王都のギルドへと報告しに帰還した
まだまだ国一番の冒険者には程遠いが、このパーティ皆で力をつけていつか必ずてっぺんに上がってやる!
そしてもう一度対決を申し込んで今度は勝ってやるんだ。エレナ先生に
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