141話 閑話ーエレナ、正体バレる?ー
「はぁ〜・・・暇だなぁ」
どうも皆さん初めまして、私は記者をしている兎人族のアーティという者です
今日はこのレジティアの街で情報誌の記事に使えるような話題がないかと取材にやって来ています。やって来たのはいいのですが・・・・話題になるような見つからず困り果てているところです
「どこもかしこも平穏そのもの。良いことなんだけどこちらとしては話題になるような記事書かないと仕事をクビになっちゃうからなぁ。王都の話題は上の人達に全部取られちゃって下っ端の私が入る隙なんてないし・・・・何か大きな記事になるような事ないかなぁ」
スイーツネタは散々使いまくったからもうネタ切れだしなぁ。最近人気急上昇中の吟遊詩人がここでコンサートをやってたみたいだけどもうその人はいないし。もうちょっと早く来てればいい記事が書けたっていうのに
領主であるグランツ侯爵に取材・・・はハードルが高すぎる。そもそもの話私みたいなペーペーじゃ取材許可が下りない
ネタは足で探せと教えられてとりあえず街中を歩き回っているが一向に見つかる気配がない。歩き疲れたし日も暮れてきたから今日はもう終わりにしようかと思い宿に戻ろうとしたその時、ある女性とすれ違った
「買い忘れはないよね」
「問題ありません!早く帰ってご飯にしましょう!」
「今の人って・・・・」
横を通り過ぎていったのは白髪の女性。どこかで見た事があるような気がして眺めていると腰には王都で何度も見かけたた事があるあの剣をぶら下げているのが見えた
一時期話題になっていたから人だったからしっかりと覚えている。去年の王都生誕祭で聖剣の所持者となった女性だ
「名前は確か・・・そうエレナさん。この街で生活していたのね」
今まで記事になった事がある人の事はメモ帳にしっかりとメモしてある
去年行われた剣舞祭では王女の護衛を務めていて王都で1番の実力者と呼び声高いユリウスさんを倒し優勝。そして巷ではその王女と知り合いだという情報もある
最近の新人冒険者の質が上がってきているのもこの女性が関わっているというのが大きいという
最近では頭角を現してきている吟遊詩人の恩人という情報もある
綺麗な顔立ちをしてはいるがその他の見た目はそこら辺にいる至って普通の女性。傍から見ればあの人が聖剣を抜けるだけの存在とは思えないしどちらかというと舐められる部類だろう
けど私の勘がそれを否定する。きっと彼女には秘められた何かがあるはずだ
私は勘と耳だけはいい方なのだ。あの人の事を取材していけば何か掴めるかも
思い立ったら即行動。私はこっそりと2人の後をつけた
かなり勘が鋭いのか尾行中何度も気づかれかけたが、得意のスニーキング術を駆使。万が一逃げられたら追いつけないので自宅まで尾行を決行
自宅に入っていったところを確認し、私は扉を叩いた
「はぁ~い・・・・ん?どちら様でしょうか?」
扉を開けてくれたのは珍しいエルフ族の女性。間近で見るのは初めてだが綺麗だなぁ・・・あと聞いていたエルフの特徴より色々と大きい
「あっ、あのすみません。ここにエレナさんという方がいらっしゃるかと思うんですが」
「私に何か用ですか?」
私の声を聞いてリビングにいたエレナさんが玄関にやって来る
尾行中はバレない様にするのに必死で気づかなかったが、その一歩一歩が歳と風貌からは想像できない程洗練されているのが素人目でも分かる
それにエルフだけでなく隣を歩いていた竜族の子に亜人。メイドさんと不思議な雰囲気を放っている女の子と個性的な面子が勢揃いしている。やはり私の勘は間違っていなかった。ここには絶対何かあるはずだ
「初めまして。私は記者をやっているアーティという者です」
「(あぁ、帰ってくる時私とフレイヤを尾けていたのはこの人だったのか)記者さんが私なんかに何の用でしょうか?」
「実はですね。今度ウチが出している情報誌にエレナさんの記事を載せたくて1週間密着取材をさせて頂きたいと思ってまして」
私がそう言うや否やエレナさんは露骨に嫌そうな顔をし始めた。こういう記事に取り上げられるのが嫌なタイプの人か
「私の・・・ですか?生憎ですが私を記事にしても面白くないと思いますけど
「そんな事はありません!聖剣の所有者である貴女の事を知りたいという方は多いはずです!」
「いやでも私こういうのは得意じゃないんで悪いですけど・・・・」
「ねぇねぇ、それってボク達も取材されるの?」
エレナさんが断ろうとしたところで不思議な雰囲気を放つボクっ娘の女の子が食い気味に割って入ってくる
こっちの子は興味があるのか・・・こちらを落とせばエレナさんも首を縦に振ってくれるか?
「勿論一緒に住んでいる皆さんにも色々お聞きしたいので取材させてもらいます!あくまでメインはエレナさんになりますが使えるところがあれば使わせてもらいます」
「本当かい?エレナぁ・・・」
「いやそんな目されても・・・・」
「取材かぁ。なんだか有名人になったような気分だな!」
「おめかししないとですね」
「あっ、普段の感じを記事にしたいのでいつも通りでお願いします」
外堀を埋める感じで他の人達を乗り気にさせてどんどん話を進めていく。そして最終的にはエレナさんの方も渋々ではあったが密着取材を許可してくれた
それから1週間。私は朝から晩までエレナさん達の生活に密着をして取材を行っていった
彼女達の仕事の様子や私生活、休日の過ごし方等ひたすらメモ帳に書き込んでいった
そして密着開始から6日目。私はその日の取材を終えたので酒場で食事を済ませ、今までのメモを纏めようと宿に帰ろうしていた
「う〜ん・・・これでも十分記事になるんだけどあと一歩、あと一歩読者が飛びつくようなネタがほしいなぁ。けどこれ以上いいネタなんて・・・ん?」
記事の目玉になるようなものはないかと考え込んでいるところに偶然エレナさんともう1人、セレーネさんの姿を発見した
「ちょっと飲みすぎでしょ」
「いやぁ調子に乗ってお客さんのお酒飲みすぎちゃったみたいで。ごめんよぉ」
「どんな接客してるの・・・・」
お店で働いているセレーネさんの帰りが遅かったから迎えに行ったという感じかな。2人との距離はかなり離れているが兎人族の耳であれば容易に聞き取る事が出来る
2人は人気のない公園のベンチへと移動し、エレナさんがセレーネさんに水を持っていって飲ませていた
「ほら水でも飲んで酔いを覚ましなよ」
「おっ、優しいねぇ。昔の勇者エイク様だったら考えられないねぇ」
「ちょっ!?こんな所でその名前で呼ばないで!」
「大丈夫だよ~この時間ここは滅多に人通らないから」
え?今エレナさんの事をエイクと言ったのか?いや落ち着け私。名前が似てるしきっと聞き間違えただけだろう
そもそも勇者エイクはずっと昔に亡くなった人で・・・・でもエレナさんの周りを気にするあの慌てよう。関係ないのであればあんなに動揺する必要もないはず
もし仮にエレナさんが勇者エイクの生まれ変わりだとしたら?
聖剣に選ばれたのも頷けるしあの若さであのえげつない剣さばきの理由も納得がいく
それに去年の末に起きた騒動を鎮めた光の柱。国王は国の秘宝を使った公表したが、王宮に何度か入った事のある先輩はそんな秘宝は見た事も聞いた事もない言っていた
取材をした時にエレナさんもあの場にいたと聞いている。もしかしてあの魔法も実はエレナさんじゃ・・・
不確定要素だらけで信憑性はまるでないけどこれがもし事実だとしたらこの記事は国中の・・・いや世界中に広まることとは間違いない
「これはもっと詳しく調べな・・・いと・・・はれっ?あっ・・・」
立ち上がろうとした瞬間、突然強烈な眠気に襲われ抗う事もできずアーティは眠りついてしまった
そこへエレナとセレーネの2人が近寄ってくる
「あっぶなぁ・・・・だから言ったでしょうが」
「いやぁゴメンゴメン。まさか本当に聞かれているとは。それでアーちゃんはどうするの?聞かれちゃったからにはただで返すことはできないよね」
「女神とは到底思えない発言・・・・まぁでもバレるわけにはいかないから悪いけど直近の記憶をちょっと消させてもらうよ。消しすぎると違和感でバレるかもだから30分前後位にしておこう」
「ん・・・あれ、私いつの間に宿に戻ったんだっけ?確か酒場でご飯食べてその後・・・なんかもの凄い重大な事を聞いたような気がしたんだけど・・・お酒飲みすぎちゃったかな。明日もあるしもう寝よ」
その後アーティの取材は滞りなく終わり、エレナ達の秘密がバレることは無かった
そしてエレナ達の記事が載っている情報誌の発売当日。その日は普段より大幅に上回る売上をみせた。なんでも身なりのいい少女が1人で数百冊買っていったそうだ
その少女はお供の女性を連れて王城がある方角へと消えていったとかなんとか
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